第17話 山賊なき後で 【h】

 弱小騎士団が凶悪な山賊をたった数人で鎮圧。


 そんなビックニュースが国中を駆け巡る!


 ⋯⋯そんなことはなかった。


「あー、暇だな」


「暇ですねぇ⋯⋯」


 俺はカコとともに食堂の机に突っ伏していた。壊滅作戦から数日。大金星を挙げた騎士団に次々と仕事が入ってくることはなかった。


「それにしてもすごかったですね!」


「ん?何が?」


「あれですよっ!包囲作戦!」


「あー、あれか」


 無事に終わったことだし、ネタばらしが必要だろう。


 作戦当日、山賊を取り囲んだ松明達。


 実はあれ、援軍ではない。最近はどこの騎士団も突然の魔物の襲撃に備えているため、わざわざ自軍の戦力を貸し出したりしないのだ。


 そのため、あの援軍もどきも地元産である。


「思いつきませんでした!街の人を兵士に見立てるなんて!流石お兄さんですっ!」


「リスクの高い策だったけどな。一夜で壊滅させるにはこれが一番だったから」


 ⋯⋯どうしよう。澄ましたようにしてるけど、めっちゃ恥ずいな。カコ辞めて。尊敬に満ちた目で俺を見ないで。


 住民を兵士に偽装して行った包囲作戦。前日の説明の際にリスクなども説明したが、案外ノリノリで参加してくれた住民が多かった。それだけ山賊に対して鬱憤がたまっていたのかもしれない。


「只今戻りました」


「あ、ソフィお姉さん!おかえりなさい!」


「ソフィお疲れ様。あの子はどうだった?」


 よし自然に話しかけられた。これは好印象だな!


「はい、後遺症もなく元気でした。お父様と今日からまた一緒に馬車に乗るそうです」


 ニコニコしながら答えるソフィ。あー、やっぱり可愛いな⋯⋯。


「お兄さん、ニヤニヤしてどうしたんですか?」


「えっ、いや、に、ニヤニヤしてないぞっ!?」


 不思議そうな顔でのぞき込んでくるカコ。この子は無防備なのか、いちいち近い。改めて自分が女性に対して免疫がないことをまざまざと突きつけられる。


「あらかたソフィとあんたに興奮したのよ、この変態は」


 意地の悪い笑みを浮かべながらリンカが食堂に入ってきた。


「な、何言ってんだ!興奮してない!」


「隠しても無駄よ?どんだけ取り繕ってもその童貞臭だけは消せないわ」


「こ、こいつ⋯⋯人が気にしていることを⋯⋯!」


「えっ⋯⋯ほんとに童貞なの⋯⋯?冗談で言ったんだけど⋯⋯?引くわぁ⋯⋯」


「しまったああああ!!!」


 ヴォルク・スゥベル最大の失策。数秒前の自分殴りたい!思わず頭を抱えてしまった。


 でも、なんか嬉しいな。


 相変わらず呼び方は不名誉なもの、笑みも悪意に満ちたものであった。でも初めて俺にしかめっ面以外の顔を見せてくれたから。ようやく、仲間と認めてくれたのかもしれない。


「まぁ今の発言についてはあとでゆっくり問いただすわ。それよりあんたちょっと面貸しなさい」


「え、何か用なのか?」


「用がなかったらあんたみたいな変態に話しかけないわ。⋯⋯その、私の動きを見てほしいのよ」


「へっ⋯⋯動き?」


「あんたこいつらの特訓してるんでしょ?なら私にも特訓の指南させてあげる。光栄に思いなさい?」


「リンカさん⋯⋯」


「リンちゃんはツンデレさんですねっ!」


「誰がツンデレよ!とにかく中庭行くわよ!」


 そう言ってリンカが手を掴み、強引に連れていこうとする。⋯⋯手っ!?


「ちょ⋯⋯大丈夫!自分で歩ける!歩けるから!」


 やばいやばい!手柔らか!ソフィとかもそうだったけど、女の子の手ってどうしてこんなもちもちしてるんだっ!?


「ちょ、暴れるんじゃ⋯⋯きゃあ!」


 足がもつれ、床に倒れこんでしまう。⋯⋯しかし怪我はない。顔の辺りに柔らかいクッションがあったか。助かった。


 ⋯⋯ん?


「この部屋ってクッションなかった気がぁ!?」


「⋯⋯」


 慌てて顔を上げる。そこには真っ赤な顔で震えるリンカ。


 ⋯⋯まさかさっきのクッションってリンカのむ⋯⋯。


「⋯⋯やっぱり死ねー!この変態剣士がぁ!」


 あ、この後の展開分かる。


 ビンタ飛んできて、意識失うやつだ。


 今日は、痛くありませんように。











「⋯⋯今日も来たよ」


 ベットしかない殺風景な部屋に1人の女がやってきた。燃えるような赤い髪が目を引く女だ。その顔に普段の笑みはない。


「君がこうなって何年経つかな⋯⋯小さかった妹ちゃんも今ではセクハラしがいがあるほど大きくなったよ」


 優しい声色で寝ている女に語りかける。銀の髪が目を引く、美しい女。彼女からの返事はない。赤髪の女は続ける。


「でもようやく君を目覚めさせられそうだ⋯⋯だからもう少しだけ待っててほしい」


 髪を撫でる。愛おしい大切な人。


 黒死病なんてふざけたた病気に殺させる気はない。


「また来るよ⋯⋯私の相棒」


 女は出ていき、ドアがゆっくりとしまる。


 誰もいなくなった部屋。


 わずかに声が聞こえた。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ミ⋯⋯⋯⋯ア」


 その声は誰にも届くことはなかった。


【第二章 完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る