【ご声援ありがとうございました】奥手剣士はハーレムを築けない!? ~追放騎士と麗しき騎士団~

そろもん。

序章 ヴォルク 【h】

「うわあああああ!!」


 王都から少し離れた小さな街の入り口で、悲鳴が上がった。


 彼等の目の前には緑色の小さな人型のモンスターが、口から涎を垂らしながら、目を細めた。本日の昼飯を品定めしているようである。


「ゴブリンよ!誰か自衛団を!」


 女性は大声で叫んだ。ゴブリンは人を喰う魔物であり、巧みに道具を使う。その危険性を理解していたからこそ、自衛団を呼び一刻も早い討伐を狙った。


 しかしこれが良くなったのであろう。


 ゴブリンが品定めを終えたかのように、彼女に向けて飛び掛かった。寂れた短剣が乙女の柔肌を引き裂かんと迫る。


 誰もが想像した。刃が皮膚を切り裂き、鮮血が噴水の如く吹き上がる様を。1人の人間が只の肉片となる瞬間を。


 そんな未来から少しでも目を背けようと、目を力いっぱい瞑った時だった。


「⋯⋯?」


 女性はあることに気づく。


 いつまでたっても自分の体に変化はない。痛みもない。五体満足そのものだ。


 何が起こっているのか。


 恐る恐る女性は目を開ける。


 そこには。


「⋯⋯!」


 一人の男が立っていた。


 年は20才ほどであろうか。癖のある茶色い髪、黒色のズボン。それだけ見たら普通の青年である。


 しかし彼の背中で棚引く藍色のマント。王国最強の名を欲しいままにする王宮騎士団のメンバーである証明であった。周りの民衆からも大きな歓声が沸き起こる。


「⋯⋯ゴブっ!?」


 仕留めた自信があったのか。魔物は細目を見開き、口からは聊か間抜けな声が漏れる。それもそのはず。渾身の一撃は青年の剣によって完璧に受け止められていた。


「ゴ、ゴブゴブー!」


 仲間のゴブリン達も我に返り、一斉に青年と女性に襲い掛かる。


「きゃああああああ!」


 一斉に襲い掛かる短剣。しかし青年は冷静であった。


 受け止めていたゴブリンを刀身で吹き飛ばす。


 頭上に迫るゴブリンに対しては、足を引いて小さく回避。ふらつくゴブリンの頭蓋に剣身を叩きこむ。


 地面すれすれから命を刈り取らんとする魔物の顔に強烈な蹴りを見舞う。


 そして正面から突っ込んでくるゴブリンの短剣を避ける。そして手首を掴んで投げ飛ばす。


 気がつくと、血気盛んであったゴブリン達は白目を剥き、地面に横たわっていた。ここまで数秒。あっという間であった。


「⋯⋯ふぅ」


 ゴブリン達が戦闘不能になったことを確認し、青年は小さく息を吐く。ゴブリン如きに負けることはないと思っていたが、人命がかかっている場面。やはり気が張り詰めていた。


「あ、騎士様⋯⋯」


 後ろから声。戦闘中守っていた女性のものであろう。騎士団の評価は思わぬところで上下する。気を抜かず、スマートに対応する必要がある。普段通りにすれば大丈夫であろう。きっと。


「お怪我はありませんか?」


「は、はい⋯⋯あ、あの」


「なんですか?」


 おかしい。


 青年は不審に思った。


 妙に女性の声が上擦っている。


 何も阻喪はしてないはずだ。表情が変にならないように、顔も背ける徹底ぶりだ。


 ならなぜ⋯⋯。


「そ、そろそろお手を離していただけると」


「⋯⋯へ?」


 思わず後ろを振り返る。


 そしてヴォルクは戦慄した。


 左手は手持ち無沙汰に困り果てたのか、女性の体を掴んでいた。それも女体の母なる象徴である胸を。


「⋯⋯!?!??!」


「⋯⋯あっ、あの」


「し、失礼しましたあああああ!」


 先ほどまでの雄姿はどこへやら。


 青年騎士は顔を林檎のように真っ赤にして、わき目も降らず駆け出した。みるみる小さくなる彼の背中を、住民達はぽかんとした顔で見送ることしかできなかった。

 

 彼の名はヴォルク。

 

 前途有望な若騎士にして、女性免疫に乏しい男である。

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