第131話 織戸橘姫野の秘密(1)

「……眠れん」


 枕元に置いてあるスマホの時計を見ると既に午前の1時をまわっていた。


 澪に思うさまに凌辱されつくした(触られた)ケツと乳首が痛い上に、布団の中には吾妻君が入り込んで無垢な天使の様な顔で寝ているし、デカイいびきをさせながら、時折「ひめのぉ~行くなぁ~」などと寝言を叫んでいる亮磨先輩がうるさくて仕方が無い。


 この人、夢の中じゃ姫野先輩を姫野って呼んでいるんだな。


 結局、二人の間に進展はないまま終わりそうだけど、肝心な姫野先輩はどう思っているのかな?


 まぁ、俺には関係ないと言えば関係ない話であるが、二人ともお世話になったのだから、出来れば結ばれて欲しいものだが。


 でも、俺よりも姫野先輩との付き合いがずっと長い勝子は以前、姫野先輩が男性を好きになる事は絶対にないと言っていた。(『ヤンキー女子高生の下僕はキックボクサーを目指しています!』第23話)

 そして勝子や十戸武みたいなレズビアンとも少し違うと言っていた。


 一体如何いう事なのだろうか?


 あの時は勝子の言っている意味が分からなかったけれど、姫野先輩には何か秘密があるのだろうか?


 俺はそんな事を考えながら、何と無く外へ出た。



 ◇



 外へ出ると麗衣と姫野先輩が浜辺に向かって歩いていく姿が見えた。


 二人ともこんな時間に散歩なのか?


 疲れてはいるんだろうけれど旅先で興奮して眠れないから夜風に当たりたいという事なのかも知れない。


「二人とも何処へ……」


 声を掛けようとしたが、俺は二人の手元を見て言葉を飲み込んだ。


 何と麗衣と姫野先輩は手をつないでいたのだ。


 しかも、お互いの手の指の間に指を絡める所謂『恋人握り』だ。


 え……嘘、この二人こんな関係だったのか!


 二人の間でこんな雰囲気だった事は一度も見せた事が無いので、同性愛の可能性については全く想像すらしていなかった。


 灯台下暗し。まさか、最大のライバルは勝子でも恵でもなく姫野先輩だったとは……。


 そう言えば勝子が以前、姫野先輩が好きな人の事をおくびにも出さないとか以前言っていたけれど、こういう事だったのかな?


 気になったので後を追おうとすると―


「そこのストーカー! 何やっているの!」


 背後から唐突に鋭い声を掛けられ、俺は身を震わせて後ろを振り向くと、そこには見慣れたチンチクリンが立っていた。


「何だ勝子か……」


「何だじゃないわよ……あの二人がこうして居られるのは今日が最後かもしれないないのに邪魔する気なの?」


 離れていたので勝子が俺を注意する声が聞こえなかったのか? 二人はこちらを振り返りもせずに歩いて行った。


「邪魔する気って……お前知っていたの? というか、姫野先輩は同性愛だったの?」


「だから以前も言ったけど姫野先輩は私や十戸武と違うって言っているでしょ? そんな単純な話じゃないのよ」


 もしかすると妹扱いという事だろうか? だとしたら恋人握りをしているのは納得がいかない。


「でも、姫野先輩は麗衣の事が好きなの?」


「ええ。姫野先輩は麗衣ちゃんの事を好きだし、愛しているよ」


「でも同性愛じゃないって……全然意味が分からないけど?」


「そりゃそうよね……貴方が混乱するのも無理が無いわ……」


 勝子は一つ溜息を吐いた。


「その言い方は何だよ……頭悪くて悪かったな」


「いいえ。武を馬鹿にしている訳じゃないし、寧ろそれが普通の反応だと思う」


「でも、勝子だけが分かっているのは納得がいかないなぁ……」


「容易く人に話すような事じゃないし、私の口からは言えないわね。帰る前にでも姫野先輩に直接聞いてみたら如何かしら?」


「え? それも一寸怖いな……」


「しっかりしなさいよね。貴方、麗衣ちゃんと付き合いたいんでしょ? だったら先ずは二人が付き合っていないか聞かないと駄目でしょ?」


「それは……確かにそうかも知れないけれどね……」


 思えば姫野先輩からすれば暴走族潰しの様な危険な行為に付き合うメリットは何も無かったはず。


 それなのにわざわざ麗衣の無謀な行為に付き合ったのは俺や勝子と同じで麗衣に対して恋愛感情を抱き、愛するものを守りたいと考えていたという事なのだろうか?


 残念ながら、チーム「麗」内での貢献度で言えば俺は姫野先輩よりも遥かに後れを取るのは事実だし、麗衣が姫野先輩の事を誰よりも信頼していたのは明らかだ。


 そんな姫野先輩に麗衣が惹かれても不思議ではない。


 思いがけぬ伏兵はあまりにも手強かった。

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