第59話 ルールと喧嘩相手
約束の金曜日20時。
立国川ホテル駐車場に十戸武達『天網』の四人のメンバーは待っていた。
「今日は逃げないで来てくれて嬉しいよ」
十戸武は嬉しそうに微笑んだ。
「テメーラ如き相手に誰が逃げるかっつーの。さっさと初めてさっさと終わらせよーや」
麗衣は十戸武に対して鋭利な刃物で抉る様な目つきで睨みつけているが、敵意を受け流すように十戸武は穏やかに言った。
「ふふっ……睨んでいる美夜受さんもとっても格好良くて素敵だよ♪」
「お世辞はいらねーよ! ルールとか決めておくことあるか? 後でグダグダ文句言わねーようにあるんなら決めておけ」
「お世辞なんかじゃないんだけどなぁ……どうしてそんなに捻くれているのかな? それはとにかく、前も言ったけれど、勝負の方法はお互いのメンバー四対四で素手による勝負。但し、パンチが全力を出せるように拳サポーターやバンテージ、オープンフィンガーグローブの使用は許可という事で良いよね? あと、お互い仕込みが無いか見ておく?」
グローブの中に刃物や鉄板、金属類など仕込んでいないか確かめる必要があるかという事だ。
「そうだな。テメーラが正義の味方面しているなら仕込みみたいなせこい事しちゃいねーだろうけどな」
「誉め言葉として受け取っておくね♪ あと思ったんだけれど、私達天網の方が有利だからハンデを上げようと思って」
「ハンデだぁ? あたし達を舐めているのか?」
麗衣が凄んだけれど、その表情すらも慈しむかのように微笑を浮かべながら十戸武は説明した。
「だってさぁ、美夜受さん達は三人女子一人男子で、私達は男子三人女子一人でしょ? 体格的にも体力的にも絶対不利でしょ? それに美夜受さんは怪我が治ったばかりだし、小碓君は格闘技始めたばかりでしょ?」
「武を舐めんなよ。確かに武はまだ格闘技始めたばかりだけど筋は良いし度胸も根性もあるぜ」
麗衣が俺の事をそんな風に思ってくれているとは知らなかったので、こんな時であるにも関わらず、少し嬉しかった。
「それにあたし達はそれぞれの分野でプロと遜色のない実力は持っているぜ」
「勿論その事は知っているよ。でも、私達は美夜受さん達が何を使うか知っているけれど、美夜受さん達は私達の事は知らないでしょ? だから、誰が何を使うか教えてあげるから、それで最初は誰と戦うかそっちが決めて良いよ」
「タイマンって事か?」
「いいえ。違うよ。あくまでも四対四で、相手を倒した人は他の人を加勢しても良いけれど、最初は誰と誰が戦うか美夜受さんに選ばせてあげるって事」
麗側が何を使うのか知られている為、ハンデとは言い難いが、それでも結構ありがたい話だ。
十戸武と長野が空手と柔道をベースとした格闘技を使うという事は分かっており、亮磨から聞いた話で残りの二人はボクシングかテコンドーの使い手である事までは分かっていたが、性質が全く違うこの2種類の格闘技をどちらが使うのか分かっていなかったから、例えばボクサーかと思っていたら回転廻し蹴りを喰らうといった事態が起こら無いだけでも助かる。
「そうか。じゃあ教えてもらおうか」
麗衣は意地を張らずにあっさりと十戸武の言うハンデを受け入れた。
「じゃあ紹介もかねて教えるね。長野さんについては織戸橘先輩も良く知っていそうだから良いよね。で、こっちの髪形がリーゼントでポマードつけていて艶々している人が岡本忠男さん。ボクシングでは高校一年の時、県大会で優勝した実績もあるよ」
喧嘩前だというのに関わらず、十戸武の紹介の仕方は如何にも彼女らしく呑気そうなものであったのはとにかく、このリーゼントが亮磨を倒したボクサーか。
高校のボクシングで県大会優勝レベルならプロとは言えグリーンボーイの亮磨よりも強いのは頷ける。
「それで、こっちの美夜受さんみたいに一寸褐色なイケメンが岡本依夫さん。彼はテコンドー使いだよ」
「もしかして岡本ツインズか? 双子の格闘家で二人とも強いと一時期騒がれていたな」
俺と違ってアマチュア競技まで詳しい姫野先輩が驚きの声を上げた。
「俺達を知っている奴が居るのか」
忠男の方は感情の籠らぬ声で言った。
「ああ。君達は二人ともそれぞれ格闘技を止めたという噂を聞いていたが、何故なんだい? 岡本ツインズともあろうものが勿体ないじゃないか?」
「お前には関係が無い。それに過去の話だ」
依夫は忠男と同じく感情の籠らぬそっくりな声で答えると長野が続いた。
「我々の過去など関係ない。今はお嬢様の元、天網の一員として貴様らの様な不逞な輩に天誅を下している」
そんな事を言う長野に対し、十戸武は叱るように言った。
「長野さん駄目だよ! 美夜受さん達はすぐに私達の仲間になるんだから」
「君達の仲間に? どういう事だ?」
姫野先輩が十戸武に尋ねた。
「あれ? 美夜受さんまだ言ってなかったのかなぁ? 美夜受さん達、
「麗衣君……そう言う事は相談してから決めてくれたまえ」
姫野先輩が呆れたように言うと、勝子が麗衣を庇うように言った。
「良いじゃないですか。私達が勝てばいいだけの話ですし♪ ところで、
ぶっ殺すの勘弁してグシャグシャに潰すって、如何違うのかイマイチよく分からないけれど、勝子は余程嫌いなのか? 十戸武をクソビッチ呼ばわりして尋ねた。
「そんな下品な呼ばれ方嫌だなぁ……私って周佐さんの中じゃ完全に敵認定なんだね。怖い怖い。でも、まだその事は美夜受さんから聞いてはいないんだよね。どうするの? ありえないけれど私達が負けたら如何すれば良い?」
「あたしがお前等に臨むのは天網の解散だ。胸糞ワリィ正義ごっこは
「分かったよ。そう言う事なら、もっと悪を裁く為にも負けられないね。じゃあお互いの拳サポーターやグローブを確認してから始めようか?」
そしてお互いの拳サポーターとグローブに仕込みが無い事を確認すると、四対四で別れた。
最初の対戦相手は麗側から選べるという事なので、事前に俺達の間で決めていた相手を選んだ。
それぞれの喧嘩相手はこうなった。
小碓武(キックボクシング)VS岡本忠男(ボクシング)
周佐勝子(ボクシング)VS岡本依夫(テコンドー)
織戸橘姫野(日本拳法)VS長野賢二(空手+柔道)
美夜受麗衣(キックボクシング)VS十戸武恵(空手+柔道)
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