ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる?
麗玲
第1章 ヤンキー美少女と心中しました
第1話 心中~フラッシュバック1
「いいぜ。一緒に死んでやるよ」
恐らく今日初めて言葉を交わしたヤンキー美少女……
彼女の台詞に俺……
身長160センチしかない俺よりも僅かに身長が高い美夜受は悪戯っぽい顔で俺を覗き込むと、そのまま事も無さげに背面に跳んだ。
「え?」
抱き着く美夜受のほっそりとした体は見かけによらず、重さがあるのか?
それとも俺が非力すぎるせいなのか?
理由はいずれにせよ屋上の柵を超えた足場は足のサイズ程の広さも無く、落下する美夜受の体を支え切る事は出来なかった。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
バランスを崩した俺の両足が地面から離れ、刹那の浮遊感。
落下。
そして走馬灯のように記憶がフラッシュバックした。
まず脳裏に浮かんだのはこんな事になったきっかけ……今朝の記憶だった。
◇
「よおっ! サンドバッグ!」
教室に入ろうとすると、何者かが背後から俺に蹴りを入れてきた。
背中を蹴られた俺は無様に前によろめくと、前方で立っていた女子にぶつかった。
「ちょっと! 痛いわね! 触らないでくれる?」
「ご……御免」
「どん臭い。キモッ! 早く向こう行けよ!」
そもそも俺は蹴られた被害者であるが、情けない事に女子に睨みつけられて反論も出来なかった。
その様子を見て、俺に蹴りを入れた
「うわーっ……。女子に睨まれて涙目かよ? 俺だったら自殺するぜ?」
「あはははっ……」
俺は愛想笑いでしか返す事が出来なかった。
「情けねー野郎だな。反論もしないのかよ?」
反論。抵抗。
一体いつ頃から諦めてしまったのだろうか?
以前は理不尽な行為に対して反論していたし、抵抗もしていた。
でも、高校入学一か月もして、クラスカーストがほぼ定まった頃には俺は苛めのターゲットとなり、誰も助けてくれなかった。
積極的に俺を苛める奴ら。時折俺を苛める奴ら。傍観者。
最初は俺と仲良くしていた……俺が友達だと思っていた奴は自分らもターゲットになる事を恐れ、皆俺から離れていった。
教師に相談しても俺の方にも問題があるのではないかと言われ、まともに相手にされる事はなかった。
そして、俺の心は折れ、いつしか抵抗を諦めていた。
草食動物はしょせん肉食動物に捕食されるしかない。
現状を受け入れるしかなかった。
でも……そろそろ限界だった。
「そういえば、学校の裏サイトに今日自殺するとか匿名の書き込みがあったけど、アレってお前が書いたんじゃね?」
棟田の言葉で、俺の動悸は突然早くなった。
「さ……さぁ? 知らないけど」
棟田は鋭い眼差しで俺を睨みつけながら言った。
「だよなぁ。お前みたいな女にも言い返せない臆病者がそんな勇気あるわけないしな!」
棟田は俺の頭を小突きながら続けた。
「ああ。でもよぉ~あれ書いたのがお前だとして、誰かに止めて欲しいとかだったら無駄だぞ?」
更に棟田は俺の襟をつかみ、まるでニラのような口臭がかかる距離に顔を近づけ俺に言い放った。
「もし死んでも誰もお前になんか同情しねぇからな」
棟田は襟を離すと、先程俺を罵った女子……茂撫は追い打ちをかけるように続けた。
「自殺しようとして訴えるとか何かキモイよね。てゆーか。さっさと死ねよ」
……ああ。言われなくても死んでやるよ。
心の内で俺はそう呟いたが、Web上では文字に出来ても、口に出して言う事は俺には出来なかった。
棟田が察した通り、裏サイトで自殺予告をしたのは確かに俺だった。
コイツ等と教師が少しは慌てる様を期待していたが、本気と捉えていないようだ。
良いだろう。追い詰められた人間の本気を見せてやるよ。
そう決意した時、後ろからあたかも俺の決意を断ち切らせるかのように強い声が響いた。
「テメーラ邪魔だ! 散れ!」
棟田と茂撫が一瞬硬直するような表情を見せた。
俺が声の主の方向を振り向くと、如何にも不良といった女子、
日に焼けた健康的な褐色の肌。シュシュで束ねられた金髪のポニーテール。
目鼻立ちは美しく、160センチ程の俺よりも僅かばかり高い身長と比して長い手足はスラリと伸び、褐色な肌と筋肉質な脚はどこか野性的である。
美夜受は黒のベースボールキャップ越しに除く漆黒の鋭い眼光で棟田と茂撫を一瞥した。
「な……何だよ美夜受。お前もしかしてコイツの事かばう気か?」
棟田は多少おどおどしながらも言ったが、美夜受が更に強い眼差しで棟田を睨みつけた。
「はぁ? 何言ってんの? あたしが通る道の邪魔なんだけど? それともテメー、朝からあたしに喧嘩を売るつもり?」
「そ……そんなつもりねぇよ。冗談で言っただけだろ? 本気にすんなよ……」
美夜受の気迫に押され、棟田と茂撫は逃げるように解散した。
美夜受は俺には目もくれず隣を横切り、自分の座席へと向かった。
もしかして……助けてくれたのか?
俺は座席についた美夜受の顔にチラリと目を向けると、視線に気づいた彼女は俺を睨みつけた。
「何見てんだ。殺すぞ?」
助けてくれたのかもしれないという俺の微かな希望は淡い幻想に過ぎなかった。
◇
「「「オーっ……ファイオーファイオー!」」」
授業が終わり、俺は決意を胸に抱き屋上へ向かったが、考えていたことを実行する事もなく時が流れていく。
そして遠目に映るグランドでは体育会系の部活が始まり、ランニングの掛け声が虚しく響いていた。
いや、虚しく感じるのは俺だけだろうか? 俺の境遇が余りにも虚しいからそう感じてしまうのか?
裏サイトで自殺宣言をしたのにも関わらず、その事を気にかけて止めに来る奴は一人も居なかった。
まぁ匿名だし、棟田には俺じゃないと言ってしまったからかも知れないが、仮に俺が書き込んだと言っても誰も止めはしないだろう。
あそこでランニングしている連中は俺が自殺したいほど辛い思いをしているなんて思いもしないだろう。
アイツ等だけじゃない、自殺宣言など気にもしない帰宅部連中も、ここに居ない全員、教師もそうだ。
いいぜ。死んでやるよ。ただし、お前ら全員がまともに寝起きできないようなトラウマにしてやるよ。
俺はようやく決意を固め、柵を超えた。
だが、下から吹き上げる強い風を受け、下半身が縮み上がった。
4階建ての校舎の屋上から見下ろす光景は、決して高いとは言えないだろうが、それでも人ひとりが死ぬには十分の高さだろう。
下の3階の教室は窓を開けてあるのか? 外に出たカーテンが激しくはためいている。
誰も気づかないのだろうか? 何故窓が開けてあるのか不明だが、今はそんな事はどうでも良いか。
更に下にはアスファルトの地面が見える。
また決意が揺らぐ。
まだ俺は命が欲しいと思っているのか……一歩踏み出せば楽になるのに……。
何か俺に未練があるのか? ……無い訳ではない。
俺の性、「小碓」という性は日本人誰もが知るあの英雄の本名から来ているのではないかと伝えられていたと親父は言っていた。
親父は武という名も強きものを意味する、伝説上の英雄の名前から名を付けたらしい。
こんな自分には過ぎた名前であるけれど、強い者に対する憧れはこの名前の影響もあったのかもしれない。
俺はTVで観た格闘技が好きだった。
憧れの格闘家も居て俺もあんな強くて格好良い格闘家になりたいと何度も思った。
でも、俺は体が小さく運動神経も悪い。空手も怖くて続かなかった。
死ぬ気でやれば俺の憧れた格闘家みたいになれただろうか? ……無理だ。
苛めで心が折れるような弱い俺にはとても……。
「おい! お前!」
静寂を切り裂き、突如背後から掛けられた女の強い声に驚き、俺は危うく落下するところだった。
「なっ! 突然何!」
「何じゃねーよ。お前が何時になったら落ちるか、ずっと待ってるんだよ」
何時からそこにいたのだろうか?
俺に声を掛けてきたのはヤンキー美少女。美夜受麗衣だった。
◇
読んでくださった皆様へ。
はじめまして。
初めてオリジナル小説を書かせて頂きました。
多々至らぬところがあるかと思いますが、今後とも武と麗衣。正反対の二人の物語を見ていただけたら幸いです。
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