第34話 王子と王城デート(強制)
ナタリーとお昼寝をして起きると夜だった。
「……ねすぎた」
「そうですね……」
ナタリーと夕食の話をする時は大半がこの形から入る。
昔からお昼寝ばっかりしてたので仕方ないといえば仕方ない。
この部屋が日光に当たってベッドが気持ちいいぐらいにまで温かいのが悪い。
すると部屋の扉がノックされ、扉が開くとお母様が部屋に入ってきた。
「フェノン、これお手紙よ」
「てがみ……?」
わたしはお母様から手紙を受けとる。やけに綺麗で豪華な手紙だ。封筒の裏を見ると王家の印があった。
「いやな予感がする……」
「私もフェノンと同意見よ」
この手紙は一応わたし宛に送られたものなのでお母様が開けるわけにもいかないらしい。家族でも他人の手紙を開けてはいけないというこの世界のルールなんだとか。
わたしはナタリーからカッターみたいなものを借りて封筒を開け、中に入っている手紙を取り出して開いた。
手紙を開くとヤバい文字が見えたので、見なかったことにして手紙を閉じて、ナタリーに読んでもらうことにした。
「拝啓 フェノンフェリナス・フォン・エリシュオン様
初めましてフェノンフェリナス様、私の名前はカルロス・ゴールランド。ゴールランド王国第4王子です。
私はあなたの写真を見てその綺麗な瞳と美しい銀髪、その可愛いらしい顔に運命を感じました。
私はあなたのことが大好きです。付き合ってください!
※断った場合、国家転覆罪に問われ死刑となりますのでご注意ください。また、詳細は同封されている別紙にて
Your future husband カルロス・ゴールランド」
ナタリーが全文を読み終えるとその手紙を粉々に破いた。
お母様も顔だけはいつも通り笑っているが、目は一切笑ってなかった。
「本当にふざけた手紙ね。フェノン、どうするの?」
お母様はわたしに聞いてくるけどそもそも選択肢が1つしかない件について。
ちなみに今までの話を詳しく言うとこの国の名前はゴールランド王国で、そこの
お母様と王子の繋がりは王家全体で隠蔽しているので、表向きの繋がりはない。
つまり王家の狙いはわたしを通じてお母様の協力を煽るということなのだろう。
「どうせ行くしかないんでしょ?」
「そうね」
「なら行くよ。それで誰だかわからない男を突き放す!」
ナタリーに場所を聞くと手紙から別紙を取り出して場所を教えてくれた。
どうやら会う場所は王城で、王城デートのようだ。ハッキリ言うと絶対つまらないと思う。
適当な所で残った勇者様方を誘拐して帰るとしよう。
「日時は……明日の朝ですか!?」
「「明日!?」」
普通に考えて勇者様方で1週間も掛かる距離だというのに明日なんてほぼ不可能だが、向こうはお母様が居ればなんとかすると思っているようだ。
もちろんわたしもお母様が居れば大丈夫だと思う。
「フェノン、今すぐ準備して。さすがに今から出ないと間に合わないから」
わたしは敢えて私服である袴を選ばずに制服を着て、マントを羽織った。
制服であれば「お前とは社交辞令だからな?」という意味を持たせて王子との距離感を作ることもできる。
そして、リアがわたしの6歳の誕生日にくれた帽子を被って、外に出るとお母様がわたしをお姫様抱っこで王都に向けて走り始めた。
それからお母様が走ること12時間。わたしは無事に王都に到着した。さすがのお母様も疲れたようで、わたしがデートしている間は王都の宿で休んでいるとのこと。
お母様は宿に入るとすぐにベッドの上で横になった。
その姿は普段わたしが昼寝する時と全く同じもののように感じた。やはり親子なのだと実感させられた。
ちなみにわたしはお母様が運んでくれてる時に寝ていたので睡眠は充分に取れている。
わたしはお母様に一言言ってから部屋を出て、朝食を済ませてから王城に向かった。
「こんな朝早くから何者だ。今すぐ帰れ!」
王家の番人がわたしの行く手を阻む。どうやら王城に行くことはできないようだ。仕方ない本当に残念だが、このまま宿に帰るとしよう。
「きゃっ!?」
その時、わたしは地面に足をつっかえて転んだ。ここの道はレンガが適当過ぎて足場が悪すぎるのだ。断じてわたしがドジっ娘銀髪幼女だからというわけではない。
「待て、彼女はボクのお客さんだ。……大丈夫かい? マイハニー?」
見た目だけは満点である13歳ぐらいの少年が爽やかな顔でわたしをお姫様抱っこして何かほざいてきた。
だめ……笑ったら不敬罪で殺される……! マイハニーって……だめ。もうこの王子の顔見られない……!
「どうしたんだい恥ずかしがっちゃって? ほら、ボクの目を見てごらん。ボクの瞳はキミのハートにジャストミート」
この王子は再び爽やかな顔で気持ち悪いことを言ってわたしを笑わせようとしてくるのでわたしは必死に王子から顔を逸らして我慢する。
わたしの脳内は『笑ったら死笑ったら死笑った死……』という感じになっている。
「申し訳ありませんでしたカルロス王子。どうぞ中へお入りください」
「では行こうじゃないか。ボクの愛しのお姫さま?」
こうしてわたしの笑ってはいけない1日が始まった。
わたしはこの『はじきの法則』王子に部屋を案内されてベッドの上に座らされた。
すると王子は片膝をついて指輪の入った箱を見せてきた。
「お姫さま、どうかこのボクと共に道を歩むフィアンセになってくれないか?」
笑ったら死。拒否したら死。「はい」と発音出来ないのがバレたら羞恥心で死。
このままわたしがOK出したらこの後ここで何が起こるのかまで容易く想像できる。
所詮は第二次成長期の青少年のようだ。性欲にまみれている。おそらくこの城にいるメイドたちの中にも少なからず犠牲者がいるのだろう。
いくら前世の記憶があるとはいえ、わたしだって女の子だし人間だ。こんなよく知りもしない人物と結婚なんてお断りである。
なのでここはひとまず離しておく。
「ふぃあんせ? それってなんですか?」
「……は?」
わたしが首を傾げながら聞くと王子の呆けた声が響く。まさかわたしがフィアンセの意味を知らないとは思わなかったようだ。
なぜわたしがそんな意味すら知らないのか。理由は単純。前世を含めてわたしがマトモな恋愛話を聞いたことがないから。
「よくわかりませんが、よく知りもしない人とは道を共に歩むことはできません。ごめんなさい……」
「い、いやボクが悪かったよマイハニー……急すぎたようですまなかった」
謝ってくる王子。けれどそれはわたしの笑いのツボを刺激しているだけだった。
いい加減にマイハニーはやめて欲しい……もう腹筋が死にそう━━━━
「さっきから言ってるマイハニーってわたしのことを言ってますよね? わたしの名前はフェノンフェリナスですよ?」
「え? あ、ああ……すまないフェノンフェリナスくん……」
気まずい空気を作って王子にめんどくさいヤツだという認識をさせれば勝手に向こうから引いてくれるはず。
「じゃあ早速だが城を案内しよう」
王子が手を差し出してきた。さすがにこれは手を繋がないと不敬罪になる場合もあるかもしれないので仕方なく手を取ってあげる。
先ほどまではお姫様抱っこだったのでなんとも思わなかったが、わたしと王子の身長差が思ったよりも酷かった。
わたしがまだ身長が110cmぐらいの幼女なのに対して第二次成長期を迎えた王子の身長は周りよりも少し成長が早かったようで既に170cmを超えていた。
そして、その身長差が生み出した答えがこれだ。
全力で腕をあげるわたしとちょっと腰を低くしてつらそうに歩く王子。メイドや執事たちとスレ違う度にメイドたちが王子を心配していた。ついでに言うとわたしのことは無視である。
「ここはボクのフェイバリットな部屋だ。ここに誰かを入れたのはキミが初めてだよ」
といいながら自慢をする王子。しかしわたしの曇りなき眼にはメイドが数人部屋の隅で待機しているのが映っている。
わたしがメイドたちを指さすと王子は慌てて追い出した。
それから色んな所に連れ回されたが、どれも王子の説明は矛盾だらけでデタラメが酷かった。王子の額からは冷や汗が出ており、少し焦りが見えていた。そんな流れで最初の部屋まで戻ってきて、わたしはベッドの上に座った。
ちなみに勇者様たちはちょうど留守だった。おそらくデートの日付が今日だったのは勇者様たちが居なかったからなのだろう。
「王城はどうだったかな?」
「綺麗な建物でしたね。矛盾だらけでしたけど」
「うっ、それを言われてしまうと少しツラいものがあるな……」
王子は何かお香のようなものをつけた。部屋中に良い香りが漂う。今のところ身体に変化がないので普通のお香だと思う。
それから今日のお話をしたり、王家の自慢をされたり、結婚のメリットを言われたりと洗脳を試みる王子だったが、ぶっちゃけわたしは最初から王子に興味がない。
そして日が沈んできたのでそろそろ帰ろうとベッドから立ち上がろうとすると、いきなり王子がわたしのことを押し倒してきた。
「……え?」
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