第22話 生徒会長のお仕事 2
昨夜は疲れていたからなのか起きたら既に16時を過ぎていた。
「やば、寝すぎた」
布団から出ようとしたら部屋の扉が開いてリアが入ってきた。
「やっと起きたな。この寝坊助が」
リアはそう言ってわたしにお茶とお団子を出してきた。
「その……昨日は悪かった。これ食べてくれよ」
「このお団子おいしいッ!! ……ん? いま何か言った?」
「なんでもねーよ」
リアの謝罪は全て聞こえてたけど、わたしはそういうのは好まないので、お団子をほお張って誤魔化す。するとリアは安心したようで少し嬉しそうに言った。
「お団子、もっと食べたいな……」
わたしはお団子を手に持った状態で考え始めた。
わざわざ外に出ないとお団子は手に入らない。外に出るには許可が必要で先生の所に行くのがめんどくさい。ならお団子屋さんを学園内に持ってきてしまえばいいのでは?
「よし、決めた!」
「また変なこと考えてやがるな……?」
わたしは早速生徒会室に行って書類の作成に取りかかった。書類内容は特定の店が学園内でも販売できるようにするもの。学園内での利益の1割を学園に渡すことにして、税金は今まで通り領主に払う。内容はこれだけ。
領主は自分に損がなければ意外と許可をくれることが履歴を見るとわかった。なのでこれで突き通す。
近いうちに学園内での大会があるらしいので、領主が何か文句を言ってくるならそこだと思う。今回の収入は生徒の制服に充てる。図書館との収入を合わせれば足りると思う。
「よし、サインして書類提出」
あとは先生に任せて、生徒会室に戻ると授業が終わったからなのか珍しく広報部以外の書記がいた。どうせ仕事ないから来なくてもいいのに。
「会長、意見箱にこんなものがありましたよ」
「意見箱?」
モブの1人が学園の職員室前にある箱から1枚の紙を出してきた。
そんなものあったんだね。というか元生徒会長そういうの用意してるのに活用履歴がないから本当に意味がないよね。
わたしはモブから紙を受けとる。まあ、基本的にわたしがなんでも改革してあげますよ。生徒会長ですからね。
『寮にいて生徒会長である幼女の泣き声がうるさい。なんとかしろ』
ぐうの音も出ない意見だった。というか幼女言うなし。
少しぐらい言い訳させてよ! リアがいじめてくるのが悪いんだよ!! ツラいんだよ! 暴言言われて刺さるものは本当に刺さるんだよ!!
「無視。こればかりはどうしようもない」
「会長がここで寝れば全て━━━━」
「ごめん。ちょっと何を言ってるのかわからない」
というかなんでわたしが犯人だって知ってるの? もしかしてクルミさん? それともリアかな? いや、エリーの可能性も……
「そういえば大会はどうするの?」
「例年は会長が上から眺めて『見ろ人がゴミのようだ!』とか言ってるだけでしたけど、それ以外に何かするんですか?」
思ったよりも酷かった元生徒会長。せめて表彰するなり警備するなりなにかしてよ。
大会は団体戦と個人戦の2つでどちらも希望制で稀に優勝者が生徒会長の座を奪おうとするらしい。
大体それで生徒会長は代わるらしいのだが、去年までは領主の息子が相手で誰も歯向かえなかったようだ。
そんな領主の息子に歯向かっただけでなく、兄妹揃ってボコボコにしたわたしは頭のおかしいヤバい人という認識になったらしい。
「そういうことだったんだ……」
「しかも勝った相手が1年生ですから『自分も生徒会長になれるかも!』とか希望を持つ人も多いでしょう」
普通に考えれば領主の子ども二人をフルボッコに出来る実力があるのは分かるんだけどね。
けど、それを『見た目が幼女だから油断して領主の息子が負けた』と勘違いするやつも現れるかもしれないってことかな?
「僕は生徒会長の実力を知らないので何も言えませんが、生徒会長なら大丈夫です。頑張ってください」
さらっと矛盾したことを発するモブ。君たちもういらないから帰っていいよ。
そんなこと思ってると本当に帰っていくモブたち。本当に都合が良くて助かる。
「そういえば今度全校集会があったような……」
わたしは書類を見直すとやはり4日後に全校集会がある。恐らくそこでわたしの挨拶的なやつが入るので、何を言うのか考えておかないといけないみたいだ。
それと年に何回か校外学習を行うので、その場所も決めないといけない。
「やること多いよ……生徒会のメンバー全員変えようかな? それで会計とか欲しいのも付け足せばいいかな?」
それからわたしは全校集会で話すことを決めて、先生に生徒会のメンバーの入れ替えを希望した。
あの人たちは基本的に仕事しないし、書記の人も何かめんどくさそう。副会長に至ってはそもそも来ない。
「ーーーーっ!? だれ!?」
生徒会室に戻ると誰かが誰か居るような気配がしたけど、明かりをつけると誰も居なかった。
「気のせいだったかな……?」
いつもの椅子に座ると違和感を感じた。椅子は少し生暖かく、先ほどまで誰かが座っていたようだ。
「…………」
よく見てみると書類の山が少し崩れていた。
何か探してる書類でもあるのかな? とりあえず今のところ急ぐ書類は校外学習だけなので、他はいつも通り決められたファイルにしまって棚に戻す。
どうせ今夜は眠れないだろうからこのまま生徒会室に籠ろうと考え、わたしは棚から地図を取り出した。
「ルーズベルト領がここだから学園はここかな?」
校外学習の履歴を見てみると近場の街に観光するか、山に行ってサバイバル生活のどちらかしかなかった。
「近場だとパリス領の温泉街か隣にあるアルカデア王国の首都だね……」
悩んでいると何か石ころみたいなのが生徒会室に投げ込まれた。首を傾げているといきなり白い煙を吐き出して思わず肩をビクつかせた。
「あれ……? なんか眠く━━━━」
白い煙に包まれるとわたしはその場で倒れた。
次にわたしが目を覚ますと、わたしは保健室のベッドにいた。
「目が覚めたかい?」
「クルミさん……?」
何故かクルミさんが横で本を読んでいた。
そういえばわたしどうして寝ちゃったんだっけ? ……あっ、そうだ。白い煙を見たら急に眠くなっちゃったんだった。
「フェノンくんが生徒会室で倒れているのをリアくんが見つけたそうでね。彼女は真っ先に私の元に来てくれたよ」
クルミさんは片手に本を持って足を組んだ状態で説明してくれた。でも近くにリアの姿はなかった。
「リアは?」
「彼女はいま生徒会室にいるよ。なんでも睡眠作用のある魔道具が使われたらしくてね。担任と一緒に調べてるはずさ」
クルミさんの話だとわたしが発見されたのは今朝のことで、わたしが椅子から落ちて倒れてたのを朝食を持ってきたリアが見つけたらしい。とりあえずわたしは現場である生徒会室に向かった。
「フェノン! 起きたのか!」
「リア、ありがと」
リアはわたしに何かの石ころを見せてきた。たぶんこれが話にあった睡眠作用のある魔道具だと思われる。
「そうそう、これが投げ込まれたの。それで白い煙がもわーって出てきたところで眠くなったんだよ」
わたしがリアの持ってる石を指さして言うとリアと先生は顔を合わせて頷いた。
「「生徒会長の癖に語彙力低いな」」
「うるさい! こっちがわかりやすいように説明してあげたの!」
とりあえずわたしが倒れてた場所に行くと死体の事故現場みたいに数字の書かれた札と人の形をした紐が置いてあった。
「わたし死んでないよ!? というかここまでリアルにやらなくていいから!!」
わたしの持ってた羽ペンをチョークの線で囲まないで欲しい。
机の上には倒れる直前までわたしが作業をしていた地図と校外学習の決定書類があった。
「……あれ? 場所決めたっけ?」
書類にはアルカデアの首都と書かれていて、既に校長のサインまで入っていた。
「もしかして犯人の狙いはコレか? でもなんのためにこんなことしたんだ?」
「そんなことわたしが分かるわけないでしょ」
リアの疑問の答えとして考えられるのは何かしらの目的があるということ。
……わたしって天才だなーこんなことまで分かっちゃうなんてー。
「とりあえず犯人はこの街に何かしらの目的があるということだな?」
先生がすごいドヤ顔で聞いてくる。でも残念ながらそれはわたしがさっき考えたことと全く同じ。つまり、何もわからないのである。
「これはずいぶん立派な殺人現場じゃないか。フェノンくんは死んだのかい?」
「死んでません。茶化さないでください」
開いた生徒会室の扉に腕を組ながら寄りかかっているクルミさん。意外とさまになってて文句が言いにくい。
「とにかくこの事は次の全校集会で話すべきだろう。校長先生は来ないだろうからフェノンくんが話すことになるだろうね」
「……ほえ?」
突然わたしに振られたので変な声が出た。そして自分自身で「わたしを魔道具で眠らせたのは誰ですか?」と聞かなければならないことを考えただけで羞恥心を感じる。
「フェノンくんは見てて飽きない。常に顔が赤くなる」
「わたしそんな人じゃありません!! クルミさんのせいですよ!」
「はっはっはっ、そうかもな。まあ、今のは冗談だがな」
わざとらしい笑いをするクルミさん。こっちはそれどころじゃないのに……
「まあ、今回は被害があったわけじゃないし、無かったことにするか」
「わたしガッツリ被害者ですよ!?」
先生があっさりと無かったことしようとしたけど、わたしがそれに対して反射的にツッコミを入れてしまった。
「じゃあ集会で話すのか?」
「……無かったことでいいです」
わたしは今回の事件を無かったことにした。
そして、それから2日ぐらい経ち、わたしはクルミさんと仕立て屋さんに制服を取りに行った。
「これね。あとコレ」
仕立て屋さんのおばさんは制服と一緒に1枚のマントを取り出した。
「え? こんなの頼んでませんよ?」
「あの時メイドさんが発注したのよ。試着していく?」
「そうですね。試着していきます」
わたしは試着室に入って制服を着てみる。すると少し弛いけど、成長することを踏まえればちょうどいいかもしれない。
そこにマントを羽織るとそれっぽくなった。
「ようやく生徒会長らしい見た目になったな」
「今までが袴でしたからね。制服は凄い違和感を感じます」
「そうか。フェノンくんは制服姿でもかわいいぞ。よし、抱っこしてあげよう」
「や、やめてください……!」
手を出してきたクルミさんから少し離れる。また公開処刑されてしまうと反射的に距離を取った。
その距離、およそ30m。
「学習能力が凄まじいな。たったの1度でこの距離とは……」
「折角なのでこれで帰ります」
「はいよ。今のうちに素材を確保しておくから絶対来るんだよ」
「うん。わかりました。ではまた」
わたしは袴を袋にしまって、制服のまま仕立て屋さんを出た。
「フェノンくん、ああいう時の返事は『はい』だ。いい加減学習したまえ」
「クルミさんこそ学習するべきです。同じネタは繰り返すとつまらなくなりますよ」
「それもそうだな。今度はリアくんを弄るとしよう」
リアが犠牲になることが確定した瞬間だった。わたしは軽く笑って話を流した。
「そういえばフェノンくんはリアくんから何か変なこと聞いてないか?」
「変なことですか? そうですね……あっ、そういえば昨日おやつがないとか騒いでましたね。まあ、食べたのわたしなんですけど」
「そ、それは後で謝ることをおすすめするよ……」
少しそれじゃない感を出したクルミさん。
言い訳をさせてもらうけど、リアだってこの前わたしのおやつ勝手に食べたんだよ。今回はその仕返しだから謝る必要はない。悪いのは全てリア。
「そうじゃなくて地球とか日本とかそういう単語を聞いたことはないか?」
「……ありませんよ」
少しバレた時のことを考えてしまって返事をするのが遅れてしまった。そのお陰で妙な勘違いを引き起こしてしまったのではないかと少し慌てた。
「……そうか。ならいいんだ。じゃあ抱っこするぞ」
「え!? ちょっとクルミさん!? 降ろして! 降ろしてくださいよぉぉ!!!」
クルミさんは校門前でわたしを抱っこしてそのまま学園内に入って行った。
それから2日間わたしはクルミさんの口を聞かなかった。
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