第21話 精神をエグれ! そしてそのままエグられろッ!


 制服の完成までは時間が掛かるので、あと3日ぐらいは完成しない。そして書類なども一段落着いたところなので、久しぶりに授業に出ることにしました。初回以来なので、担当する先生の名前も忘れた。とりあえずモブであることに間違いはない。


「お? 珍しく全員揃ってるな。じゃあ今日は団体戦やるか。男子が二人組を作って、女子が1人ずつ入る形で頼む。それとリアはなるべく前には出ないこと。以上だ」


 わたしの戦闘能力を知らない先生はわたしへの制限を忘れてチームを組むように言った。

 それから男子二人組にくじ引きで女子が入る形になった。その結果、わたしの仲間はモブAとモブB。不思議なことに頼もしさは1ミリも感じない。


「基本は何もしないから出来る限りは二人でやって。リアが出た場合だけはわたしで対処するから」


 というわけで団体戦開始。最初の相手は縦ロール率いるモブ軍団。そして隣ではエリー率いるモブ軍団とリアが率いるモブ軍団が戦いを始めていた。


「フェノンフェリナス! この前の借りを返させて貰いますわ!」

「あーうん、そういうのいいから」

「はあ!? お前たち! やーっておしまい!!」


 上から目線でモブ二人に命令する。そしてモブVSモブの熱烈なる戦いが今始まった!


「『ボルトランス』!」


 モブたちの熱烈な戦いを観戦するのに必死なわたしを邪魔してくる縦ロール。基本手は出さないって言ったけど、こいつ邪魔だから早めに片づけておこ。


「お兄様が生徒会長を落とされたなんて嘘に決まってますわ!!」

「事実だから諦めなよ。隙あり!」


 縦ロールの魔法を避けながら徐々に距離を詰めて、縦ロールのみぞおちを的確に殴って気絶させた。その間にモブたちの熱き戦いが幕を閉じたようで、こちらの勝利で終わった。

 ちなみにリアたちは速攻でリアの勝ちで終わってた。というわけでリアのチームと勝負することになった。


「フェノン、せっかくだから何か賭けないか?」

「何賭けるの?」

「じゃあフェノンが負けたらメイド服で手作り料理な!」

「じゃあリアが負けたらこれから一緒にお風呂ね。試合開始!!」


 リアに文句を言わせないように勝手に仕切ってリアに攻めこむ。モブはリアに近づくついでに退場させておく。


「相変わらず速いな。それで全力じゃないとかホントにチートじゃねーか」

「そっちこそわたしの拳を受けてもノーダメじゃん。これだとわたしの攻撃手段が通用しないじゃん」


 リアのみぞうちにはわたしの拳がガッツリ入ってる癖にリアはビクともしない。さすがに相性が悪いので、一旦退く。


「魔法は俺のテリトリーだぞ? フェノンじゃ太刀打ち出来ないだろ」


 リアは無詠唱で魔法を放ってくる。お陰でその辺が水浸しになって、地面がぬかるみ始めた。


「フェノン、この勝負貰った!」

「それはどうかな?」

「え? うあっ!?」


 透明化で隠していたモブたちがリアに斬りかかる。それを間一髪避けたリアは少しだけ動けない感じがした。

 わたしは指先にだけ魔力を流して身体強化してリアに近づく。


「えいっ!!」


 リアのみぞおちに指を突き刺した。いくら硬い身体でも身体強化すればわたしの力はダイヤモンドにすらも割るが出来る。

 ちなみにこれをお母様がやるとダイヤモンドは跡形もなくなる。

 さすがのリアも気絶したのか、正面に倒れた。


「まだこのままじゃ終われない……せいっ!!」


 リアの拳がわたしのお腹に当たり、さらに運が悪いことにみぞおちに入った。そして、二人揃ってその場で気絶した。




 次に目を覚ますと保健室だった。横を見るとリアが居て、とっくに起きてたようだった。


「リアの負けだね」

「なんでだよ。相打ちなんだから引き分けだろ?」


 引き分けだと言い張るリア。

 しかし、わたしは無慈悲にも彼女の希望を打ち砕く。


「わたしのチームのモブたちは退場してなかったからわたしの勝ちだよ」

「は? いやいやモブなんていなかっただろ。俺とお前だけの……は、ず……?」


 リアは戦闘中を思い出したようで徐々に顔が青くなっていた。リアはモブに奇襲されたのに、倒してないことを思い出したようだった。


「じゃあ、お風呂行こっか?」

「おい、嘘だろ……?」

「約束だよ? もしかして破るの?」

「男に二言はない……」


 リアの大浴場行きが確定した。リアはいつも部屋にあるユニットバスで全てを済ませているので、大浴場にぶちこみたいと前から思っていたのだ。

 というわけでわたしたちは戦闘で汗まみれなので寮に戻って準備をしてから大浴場に向かった。


「ほらリア、早く脱いで」

「ちょっと待ってくれよ!!」


 顔をめっちゃ赤くしながらそっぽ向いてわたしの方を見ようとしないリア。

 中身が男だと分かっていても、これはかわいい。


「よし、じゃあ行こう!」

「ちょっと待っ!?」


 リアの手を引いてそのままお風呂場に向かった。

 そのまま大浴場に入ったわたしとリア。中に人が誰も居なかったのを確認したリアは安心したからなのか、ため息を吐いた。


「じゃあ身体洗いっこしよっか?」

「黙れ銀髪幼女」

「せっかくリアと背中流し合いっこできると思ったのに……」


 わたしはしょんぼりしながらリアの横に座る。鏡を見るとわたしの耳が垂れ下がっているのが見えた。けど、リアは何も言ってくれないので、黙って自分の髪を洗い始めた。


「おや、フェノンくんじゃないか。奇遇だな」


 頭をシャンプーでわしゃわしゃと洗っているとクルミさんが入ってきた。横を見るとリアが鼻血を出して思考停止していた。意外と初のようだ。


「洗ってやろう」


 そう言ってシャワーを流してくるクルミさん。そのあとリンスもやって貰って身体まで洗って貰った。


「リア、これが女の子同士の常識なんだから見習ってよ?」

「……」


 反応がない。まるで童貞のようだ。

 そんなリアを見て、クルミさんはリアに近づいた。そして、クルミさんはリアの胸に手を置いて揉み始めた。


「おいっ!? ちょっとフェノンやめろ!? ーーーーっ!?」


 まさかのそれだけで反応が復活したリア。クルミさんを見て驚いた様子。

 ……というかいまわたしが胸を触ったみたいに言わなかった? わたし触れてないからね? リアはわたしのことを本当になんだと思ってるの?

 そしてクルミさんの豊かな胸がリアの顔を包みこもうとしたので、さすがにこれは止めた。リアが死ぬ。二重の意味で。


「クルミさん、先に入ってますね」

「ああ、わかった」


 わたしはリアの手を引いて、リアと一緒にお風呂に浸かった。


「いきてるぅ?」

「ああ、なんとかな……」


 リアに反応を求めると少しだけ反応した。どうやら目は死んでるようだが、他は大丈夫そうだ。


「でもこの人数は少ない方だよ? 本当ならもっと多いし」

「もういい……大浴場来ない……」


 どうやらリアの精神は完全にやられてしまったようだ。さすがにこれ以上の無理強いは可哀想だと思う。けど、かわいいからこれからも一緒に入りたい。そう悩んでいると、わたしの頭の中には1人の天使と悪魔が舞い降りた。


『『これからもリアを大浴場に入れましょう』』


 わたしの中の天使と悪魔は声を揃え、手を取り合いながら同じことを言った。

 つまりこれは正しいのだ。なので、これからはユニットバスの使用を禁止することにした。


「彼女はどうしてここまで女性に対して弱いんだ?」

「わたしは知りません」


 すごい言いたいけど、それはわたしの正体がバレることに繋がるので絶対に黙っておく。


「嘘を言うなら自分の耳を制御するべきだな。フェノンくんの耳は正直過ぎる。まあ、言いたくないのなら言わなくてもいいさ。別にそこまで知りたいわけじゃないからな」


 何かすごい引っ掛かることを言われた。


「耳?」

「自覚なかったのか? そうだな。今みたいに疑問を持った時は上下に一回動く。悲しい時、落ち込んでる時は下に垂れ下がってるし、興味津々な時は上下に動き続けてる。

 隠したければ自力で治すか耳当てを買うんだな」


 わたしよりもわたしの耳に詳しいクルミさんに驚いた。でも耳が動くのは疑問に思った時と落ち込んだ時、興味がある時だけらしいので、別に治さなくても大丈夫だと思う。


「ちなみにさっきは上下に動き続けてたから何か言いたいけど、言えないことなのだろ? ならそれは胸にしまっておくといい」

「そうですか……ありがとうございます。そろそろ上がりますね。また会ったらよろしくお願いします」

「ああ、また今度な」


 リアを連れてお風呂場を出て脱衣場に行く。そして髪を乾かして部屋に戻った。どうせ授業もやることないし、出る価値もないので、部屋で横になった。


「フェノン、許さんぞ……」

「え?」

「うんこ漏らしが」


 その言葉を聞いた瞬間、わたしは涙目になった。


「脱糞野郎。うんち。ホモガキ」

「ふぇっ……」


 わたしはその場で泣き崩れてギャン泣きした。それでもリアは暴言を続けた。

 するとわたしの精神は完全に崩壊し、幼児退行を果たした。

 あとからクルミさんに聞いた話だと、わたしの泣き声は寮中に響いてたらしい。

 そして慌てて帰ってきたエリーがわたしを抱きしめて、泣き止むまで頭や背中を撫でてくれた。


「おねえちゃん……リアがわたしをいじめたの……」

「(あっ、フェリナスちゃんが壊れた)

 ……そっかぁ。リアちゃんには私があとで怒って置くからね? 疲れたでしょ? 今はたくさん寝ていいからね?」

「うん……」


 わたしはエリーに抱きしめられたまま、深い眠りについた。


「リアちゃん? これはどういうことかな?」

「い、いやこれはその……」

「とりあえず寮にいる人たちに謝りに行こうか?」

「はい……」



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