第5話 執事のヒツジと羊のシツジ
星刻印の精錬を行う日になる2日前となった。
「フェノン、お母さんこれからフェノンに似合いそうな服をたくさん買ってくるから今日は大人しく屋敷で待っててね?」
「あい」
それってつまり着せ替え人形やらされるってことだよな? 終わったな……
「じゃあ行ってくるから。ナタリー、お願いね」
「はい、いってらっしゃいませ」
「行ってきます」
お母様は走って外に出ていったけど、門を出た瞬間に見失った。
「……どういうこと???」
「エマ様は冒険者ですから、馬車よりも走った方が速いですからね」
まさか冒険者ってみんなあんな速度出せるのか!? 走ってるところ見えなかったんだけど!?
「フェノン様、今日は魔力操作の復習です。星刻印の精錬で魔力が急激に増加するので魔力が扱えずに最初の頃のように暴発なんてされては今度は屋敷が吹っ飛んでしまいますので、しばらくは魔力操作だけですよ」
「えぇっ……」
魔力操作って暇なんだよ。基本的に三本目の手にみたいに扱ってるし、風景に何か変化あるわけでもない。白いモヤが動いてるだけ。
上手く使えば空も飛べるらしいけど、3mmぐらいしか飛べないので、どちらかというと『浮いている』という表現の方が正しい。
そして3mm浮いて何が出来るというのだ。出来ることなんて等速直線運動だけだぞ。何も楽しくない。
わたしはナタリーと屋敷の中に戻った。
「等速直線運動楽しいぃぃぃぃぃ!!!」
「フェノン様! 見てるこっちが気持ち悪いので、廊下での等速直線運動はやめてくださいッ!!」
廊下で等速直線運動してたらナタリーに怒られた。
「今日は魔力で壁を作ってもらいますよ。これが出来ないとフェノン様が攻撃を受けた時に防ぐことが出来なくなってしまいますから」
「あい、できた」
「え? あれ? フェノン様ッ!? ちょっとッ!?」
ナタリーを魔力の壁で隔離してみた。そのまま魔力の壁を廊下に出すと、ナタリーも強制的に廊下に出た。そしてそのままナタリーの足下の魔力を増やし、ナタリーを少し浮かせて二人で等速直線運動。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「フェノン様、おいたが過ぎますよッ!」
「だれっ!?」
後ろから白髪のおじいさんが等速直線運動で迫ってきた。
気持ち悪いんだけどッ!? 普通に走ってきてくれないッ!? ちょっ!? 速い速いッ!!
「フェノン様、捕まえましたよ。壁をどけてあげてください」
ジジイの速度が速すぎたせいで、あっさりとジジイに捕まった。
ジジイの圧力により、やむなくナタリーを解放するとナタリーはその場に座り込んだ。
「フェノン様! あなたはこのエリシュオン家の後継者なのですからもっと次期当主の誇りを持って行動してください!!」
「すいませんでした……ところでだれ?」
「申し遅れました。わたくし、執事のヒツジと申します」
「ブッ!?」
執事なのにヒツジって……混ざり過ぎてヤバい、ツボった……
「フェノン様、これぐらいの冗談は流してください。その程度で笑ってしまっては甘く見られますぞ」
「嘘だったのッ!?」
「いえ、本当でございます」
「どっちッ!?」
全てを理解するまで10分の時間を要した。
この羊……じゃなくて執事はヒツジという名前で発音は『ヒ↑ツ↓ジ』らしい。お母様の最初の従者で、お母様のお仕事を手伝ったり、他の従者たちのリーダーをしてるそうです。
「ついでに申しますと、羊小屋がありまして、そこにはシツジという羊がおります」
「わかりにくい! でも行きたい!」
「ナタリー、連れて行ってあげなさい」
「は、はい……フェノン様、こちらです」
ナタリーはちょっとまだフラフラしてるけど、わたしを羊小屋まで連れて行ってくれた。
「羊小屋『シツジ』……」
これもう━━━━━━
「これもう執事小屋じゃない?」
「ナタリー先読みしない」
お母様のセンス凄いなぁ……わたしだったらこの羊の名前はシツジって……うん、これ常識だった。気のせいか。羊の名前はシツジしかないからな。
「フェノン様、そろそろ魔力操作の練習再開しますよ」
「えぇー」
そう言いながらも部屋に戻って行くわたしとナタリーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます