第2話 恐怖のお母様


 転生してから3年ぐらい経ったある日のこと。

 今日もわたしはナタリーに本を読んで貰っている。


「というわけで円周率は3.1415926535という感じになるのですが……フェノン様分かりますか?」

「ぜんぜん」


 この本は決してわたしのチョイスではない。確かにこの世界の知識は気になるけど、はっきり言って円周率とかどうでもいい。

 ただこの部屋にマトモな本がないだけである。魔法に関するものもあったけど、そういうのは最初の頃に読んで貰って内容も暗記してしまっているのでもう要らない。


「あっ、これは化学の本ですね。実験とか面白いですよ。今度やってみましょうか」

「じっけん?」

「こういうのなら出来ますよ」


 ナタリーがわたしに本を開いて見せる。

 あっ、これワ◯ワクさんで見たことあるロケットだ。あの「3、2、1、発射ッ!」のやつ。それにこっちはスライムのやつだ。この世界にもこういうのあるんだ!


「フェノン様でしたらこういうのがお好きではないでしょうか?」


 なんか違う本と知らないカード出てきた。どうみても占いの本なんだけど。


「これはタロットカードですね。なんでも占えるんですよ。やり方は……そういうことね」


 ナタリーはタロットカードの詳細が書かれた本を読んで理解する。

 タロットカード取り出すなら完璧に使いこなして! イタい人になるから!


「まずは占う内容から決めましょう。何がいいですか?」


 何がいいって言われても……


「じゃあフェノン様の将来の王子様を占いましょうね」


 ん? 何を占うって? 将来の職業? ニートでいいよ。


「では左手だけでカードの山を3つにわけてください」

「あい」


 ナタリーに言われた通りに左手だけでデッキを3つにわける。それからナタリーがいろいろやって、三枚のカードをめくった。


「えっと、フェノン様のお相手は優しい、黒、それから……うんちですね」


 なんとなく察することが出来てしまう自分がイヤだ。黒い髪で優しくてアレに関係する人間だろ? 思いつくよ! 前世で共に脱◯した親友だよ! というかそんなうんこの絵が描かれたタロットカードなんて普通ないだろ!?


「フェノン様はエマ様によく似てますね」


 まさか娘にボールを身体にぶつけて欲しいと願ってるドMお母様と一緒にされようとは……


「おかあさまと?」

「そうですね。方向性は違えど、エマ様同様に人をダメにする成分を含んでますね」

「へー」


 ずいぶん嬉しくない成分だな。それでナタリーさんよ。君はどう言い訳するだい?


「ナタリー? 私がなんだって?」

「えっ、エマ様……これはその……」

「フェノン、こっちおいで」


 どこからか現れたお母様はとても低く、冷たい声を出していた。今のわたしにはお母様から二本の鬼の角が生えてるように見えます。

 わたしはお母様の命令に恐る恐る従い、お母様の足元まで光の速さで走った。


「エマ様」

「なに?」

「フェノン様、将来逃げ足速くなりますよ」

「そう、でもあなたの逃げ場はないわよ?」


 ナタリーは後ろに退くもすぐに壁に当たった。

 それからの光景は地獄だった……と思う。怖すぎてよく覚えてない。覚えていたのはわたしのオムツとナタリーの服が濡れてたことだけだった。


「フェノンもそろそろ1人でおトイレできるようにならないとね。あら? あんなところに大人になっても1人でおトイレが出来ない駄メイドがいるわ」


 お母様が凄い小さい人に見えるのでやめてください。


「フェノン? おねむなの? 少し寝ましょうか」

「うん……」


 子どもだからなのか体力も少なく、お母様に抱っこされるとすぐに眠ってしまった。


 それから数日が経った。


「フェノン様、今日はお外に行きましょうか」

「うん! いく!」


 なんと今世で初めてのお外! 異世界の街とか気になるから早く行ってみたい!


「フェノン様、足元気をつけてください」

「わかってる」


 一段ずつ、ゆっくりと階段を降りていく。ナタリーはおどおどしながら腰を低くして私の近くにいる。

 階段を降りると大きな扉があった。たぶん入り口。わたしはそこに向かって走る。


「フェノン様、こっちですよ」


 しかしナタリーに捕まえられて、屋敷の奥の方へと抱っこで連れて行かれた。

 え? 街じゃないの?


「ここですよ」


 ナタリーが向かったのは勝手口のあるキッチン。そしてナタリーが勝手口を開けるとそこには綺麗なお花畑があった。


「わぁ……!」


 思わず声が漏れる。ナタリーは微笑ましい顔をして、わたしを見ていた。


「フェノン様! あまり遠くに行かないでくださいね!」

「わかってるぅ!」


 わたしはお花畑へと足を入れて中央の方に走って行った。

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