宝石少女 ~剣も魔法も使えない上にお母様がチート過ぎたのでわたしは魔力操作を極めることにしました~

名月ふゆき

第1話 うん、この呪いで転生したよ


 こんな噂を知っているだろうか?


 『うんちの長谷山はせやまくん』、それはウチの学校に伝わる噂だ。

 昔、とある男子生徒が授業中に茶色いブツを漏らしてしまい、その数日後に自殺をした少年の霊がその事故現場である音楽室を夜な夜な徘徊してるらしい。


 そして、夜中にその音楽室のピアノで『かなりブリブリする歌』を呪いたい人物を念じながら演奏すると翌日の授業中に呪われた人間がブツを漏らしてしまうという内容だ。


 ある意味他の有名な幽霊や、妖怪よりも恐ろしい。

 しかし、こんな恐ろしい呪いには代償もある。呪われた人間と共に呪った人間も漏らすのだ。長谷山くんはみんなが自分と同じ運命を辿ることを願っているのだ。


 つまり、死なば諸共である。



 ━━━━━━見たまえ。



 これがその惨状だ。ズボンから放たれる異臭と足下を流れズボンの外へと出る茶色いドロドロしたブツ。

 そして、周りからの冷徹な視線。教師の「ああ、コイツの学生生活終わったな」という顔。


「あっあぁ、あああ、ぇああああああああああああああああああ!!」


 尻から出してはいけないモノを大放出してしまった。

 その音を下記消そうと大声を出したが、そのまま気絶してしまい、人生が終わった。





 次に目を覚ますと布団の中にいた。


「エマ様、フェノン様が目を覚ましましたよ」

「フェノン、おはよ。ごはんの時間よ」


 知らない大きな女の人がいきなり顔を見せて、そのまま抱き上げた。

 え!? ちょっと!? 怖い怖い怖い! 持ち上げないで!? なにこの人たち!? 


「おぎゃああああああ!!!」

「よしよし、ほらごはんよ。たくさん飲んでね」


 何故か涙が止まらず、大声で泣いていると巨人の1人が自分の胸を出して押し当ててくる。

 ……え? どういう状況? なんで押し当ててくるの?


 少し自分の脳内を整理してみる。もしかしたら転生とやらをしてるかもしれない。だが、自分でも死んだという明確な記憶がなく、なぜ転生しているのか理解が出来なかった。


「フェノン? どうしたのかしら?」


 今世のお母様がわかりやすく首を傾ける。


 あの、もしかしてとは思いますが、先程から呼んでらっしゃるフェノンっていうのはわたくしのことでございましょうか? 授業中に漏らしたわたくしなんぞ『うんちもれぞう』とでも呼んでください。

 フェノンって名前、まさか……ね?





 それから数ヶ月が経った。とりあえずわかったのはうんこを漏らしたことで死んで、転生したらしい。つまりわたしの死亡届けには『死因:脱糞によるショック死』と記載されてるだろう。


 今世はかなりの金持ちで、普通の人間よりもやや長いハーフエルフの耳に、か弱さを感じさせる真っ白い肌、宝石のように美しい碧眼の女の子になっていた。

 未来は間違えなく美少女になるだろう。


 というわけでわたしの1本の相棒と2つの卵はお亡くなりになっていました。とりあえずお決まりなので行っておく。




 すまねぇ、相棒……




 それからお父様はまだ見てないけど、お母様の名前はエマで、よくこの部屋にいるわたしのお世話係のメイドさんがナタリーということがわかった。



「フェノン様、こちらまでいらしてくださ~い」



 そしてわたしはナタリーにハイハイの練習をさせられている。

 ちなみに『わたし』と呼んでいるのは単純にご令嬢である幼女が間違えて『俺』なんて言ったらヤバいから今のうちに馴らしておく。言葉が汚いのは知らん。明日……いや、来年から頑張る。


「なたりぃー」


 ナタリーの元までハイハイで向かって、ナタリーに触れるもナタリーは動かなかった。

 一体どうしたのだろうか……?


「……はっ!? す、すいません。フェノン様偉いですよ~」


 ナタリーはわたしを撫でて抱き上げるもその鼻からは赤い血が流れていた。


「ナタリー!? 鼻血出てるから早く拭いてきて!」

「エマ様!? は、はい!」


 お母様がいつの間にか部屋の中にいて、わたしを抱っこしていた。

 ナニコノヒト。気配しなかったんだけど……もしかしてシノビですか?


「フェノン、お母様と遊びましょうか?」

「あい」


 お母様はボールを取り出してわたしにゆっくりと転がしてくる。わたしはそのボールを手に取った。


「ほらお母様に返してみて?」

「あい」


 こういう時ってさ、全力で投げると壁破壊しちゃうよね? ちょっとやってみたいと思わない? 

 というわけで全力で投げてみる。


「んいっ!」

「あら上手ねー」


 全然そんなことなかった。むしろ変な方向に飛んで行ったのに上手って褒められた。


「もう一回やってみましょうか」

「なー!」


 今度は適当に投げる。するとボールはお母様の顔面に直撃した。

 あっ、やべっ……


「フェノン、顔は危ないからダメだからね? それ以外ならどこでもいいからね」


 いまのは顔以外ならあんな所やこんな所に強く当ててくれっていう意味でよろしいのかな?

 そんなことを思っているとお母様は若干嬉しそうな表情をしてるように見えた。

 今世のお母様はそっち側の人間でしたか。


「ナタリー、何故かいまものすごくフェノンに差別的な目で見られてるような気がするのだけど……」

「気のせいですよ」


 ナタリーは鼻にティッシュを積めた状態でお母様と会話していた。思ってたよりもメイドさんとお母様の距離が近い気がする。


「そろそろご夕飯の時間ですので、フェノン様は私にお任せください」

「そうね。フェノン、お母様すぐに食べてくるから待っててね」


 返事をしようと思ったけど、すでにお母様の姿は消えていた。

 これが今世のお母様……わたし、これからどうなるんだろう?

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