猫な彼女と相合傘

@山氏

猫な彼女と相合傘

 大学の講義が終わり、俺は咲弥を校門の近くで待っていた。

「おまたせ」

 咲弥は小走りで俺の近くまで来ると、すぐに腕を絡める。

「早く帰ろ?」

 俺の腕を引いて咲弥は歩き出した。

「咲弥、今日も家に来る?」

「うん、行く。明日休みだし」

 さも当然かのように言い切って、咲弥はぐんぐん歩いていってしまう。

「じゃあ、今日は何食べたい?」

「んー……じゃあ、カレー」

「じゃあ、足りない材料はあとで買いに行こうか」

「ん」

 そのまま買いに行ってもいいのだが、家に何が残っているかもわからない。

 俺たちは一度家に帰ることにした。

「ただいま」

 家に入るなり、咲弥は絡めていた腕を離して俺の部屋の方に向かっていった。

「早く買いに行っちゃお」

「冷蔵庫に何が入ってるか確認しないと……」

 俺はリビングに置いてある冷蔵庫を開けて中を確認する。

「あ……」

 中には飲み物や調味料くらいしか入っていなかった。

「ほとんど何にもないね」

 横から咲弥が冷蔵庫の中を覗き込む。

「じゃあ、いろいろ買って来ようか」

「うん。ちょっとだけなら持ってあげる」

 咲弥は微笑むと俺に腕を絡め、玄関へと引っ張っていく。

 咲弥は扉を開けると、ピタッと動きを止めた。

「ん、どうしたの?」

 俺は咲弥の横から外を見ると、ポツポツと水滴が落ちるのが見える。

「雨降ってきちゃった……」

 咲弥が行きたくなさそうに俺の顔を見た。

「どうする? 家で待っててもいいよ?」

「んー……」

 咲弥は少し考え込んで、絡めた腕を少しだけ強める。

「いい、一緒に行く」

「じゃあ傘持たないとね」

 傘を二本取って咲弥に渡そうとしたが咲弥は俺から離れようとしなかった。

「啓人の傘に入れてって」

「しょうがないなぁ」

 俺は取った傘を一本戻して、咲弥と歩き出した。

 幸い、雨はまだそんなに強くない。俺は咲弥が濡れないように咲弥がいる反対の手で傘を差した。

「啓人、濡れてない?」

 咲弥が体を寄せて俺の顔を覗き込んだ。

「ん、大丈夫だよ」

 全然濡れていないわけではないが、少しだけ肩に水滴が落ちる程度だ。別に気になるほどでもない。

「もっと啓人も近づいて」

 俺の肩が少し濡れているのが見えたのか、咲弥は絡めた腕の力を少し強くして、俺にピッタリくっついた。

「ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「……濡れないためだから」

 そういう咲弥も顔が赤くなっている。

 スーパーに着くと、咲弥は少し名残惜しそうに俺から離れる。俺は傘を閉じて傘立てに立てた。



 必要なものを買い揃え、俺たちはスーパーを出た。

「あ、雨やんでるね」

 雨が降っているからと買い物を少し控えめにしたのだが、雨はすっかり上がっていた。

「よかった」

 咲弥はほっとしたように言うと、俺に腕を絡めた。

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