あたしのお兄ちゃん―龍村兄妹物語1

磯崎愛

第1話 お兄ちゃんにBL小説を読まれた!

 お兄ちゃんに、見られた。

 あれを。

 あの、秘密文書を。


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「ずっと、あんたが好きだった」

「朝倉?」

「辰村サン、もういいかげん諦めて、オレのものになってよ……」

 朝倉の手が、頬に触れた。久雄はびくりと肩を震わせて目の前にいる男の浅黒い顔を見つめ、その両目に純然たる欲望が宿っているのに気がついた。


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 あたしのお兄ちゃんは龍村功という。独身貴族というのかしら、こんな時代でも年に一度は海外までクラッシック・コンサートを聞きにいったりと、ひとりで悠々自適に暮らしてる。

 あたしはピアノの先生をしながら両親と一緒に千葉県の実家に住んでいる。ごくたまに、お兄ちゃんが家に戻ってきてくれるのは、家族に対する最低限の御勤めだと思ってるみたいだった。

 それもしょうがないのかなあ。うちは、連れ子のいる再婚家庭だから。あたしは新しいお父さんのことをすぐに好きになったし家にも慣れたけど、もともと神経質なところのあるお兄ちゃんは、とっても気疲れしてた。なにしろ偏食家で、自分の好きなものしか口に入れない子供だったんだよね。それをずっとお父さんや家政婦さんに許されてきたのに、母の手料理を食べないとならないのがものすごく苦痛だったみたい。

 でもそこで、「食べない」っていう選択肢をえらばないとこが、お兄ちゃんだと思う。そしてまた、自分の好きなものを我慢しないってところも、お兄ちゃんだ。

 あたしが初めて会ったときはほっそりした美少年だったのに、みるみる太って丸くなった。すっかりもとに戻ったのは、就職してからだと思う。家を出たらどんどん細くなっていって、あれはきっとよそのひとが家にいることのストレスだったんだなあとあたしはこっそり思っていた。

 それでも、お兄ちゃんはあたしをすごく可愛がってくれた。お兄ちゃんはあたしと違って勉強ができて、たくさん難しい本をよんでいた。前のうちにはあんまり本がなくて、あたしはその部屋にある本を貪るようによんだけど、お兄ちゃんみたいに頭よくはなれなかったなあ。

 でも、今あたしが小説なんてものを書いているのは、お兄ちゃんのせいだと思う。

 いろんな意味で。

 そう。

 色んな意味で!

 ……

 ……

 ……

 ……はあ。

 パソコン、そのままにしといたあたしがいけないけどっ。

 しかもプリントアウトしたものまで、テーブルに置いちゃってたけど。

 見られちゃったものは見られちゃったんだから、しょうがないじゃないって開き直ればいいんだけど、でも!!


 兄をネタに、オリジナルのBL小説を書くのはやっぱりイケナイことですか??

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