百合の間に挟まれる男の気持ちを知ってくれ
雪瀬ひうろ
第1話「プロポーズは突然に」
「私と結婚してくれないか」
それは紛れもないプロポーズの言葉。
俺に向かってそれを言ったのは、とある少女。その瞳に込められた熱を見れば、彼女が真剣なことはすぐに解った。
「……ゆあからもお願い、兄さん」
その隣にたたずむもう一人の少女は消え入りそうな声でそう呟いた。彼女は神に祈るように両手を握り、すがるように俺を見つめた。
二人とも冗談やからかいでこんなことを言っているわけではない。彼女たちは本気だ。
だからこそ、俺は――
「絶対嫌だ」
俺は二人の願いをすげなく断った。
落胆した表情を見せる二人に追い打ちをかけるように俺は言う。
「俺はおまえと結婚なんて絶対にしない!」
「……一応、理由を教えてもらえるかい?」
俺に求婚した少女は、困った顔で肩を落としながら、そう尋ねた。
理由はこの二人には前にも説明した。それでも、彼女たちがしつこく食い下がるのなら、俺は何度でもその理由を述べてやろう。
「俺が求婚を断る理由か? そんなもんは決まっている」
俺は二人に向かって、まっすぐ指を突き出して言った。
「俺はおまえたち二人の間に割り込むような真似はしたくないからだ!」
日本にはこんなことわざがある。
「百合の間に割り込む男は死ね」
いや、よく考えたらことわざじゃなかったかもしれないが、同じようなものだ。ともかく、百合の間に割り込む男というのは嫌われる。これは古今東西、あらゆる世界で通用する真理だ。
この意見には俺も同意だが、一つ考えてみてほしいことがある。
百合の間に挟まる男は悪だ。
だが、百合が間に男を挟もうとしているとしたらどうだろうか?
これは非常に難しい問題だと思う。
なぜ、そんなありえもしないことを仮定する必要があるのかって?
俺がまさに今、そういう状況になっているからだ。
なぜ、こんな奇怪な状況になってしまったのだろうか。俺の現状を理解してもらうためには、少し時をさかのぼる必要があるだろう。俺の過去を知ってもらえば、こんな状況に至った経緯も解ってもらえるかもしれない。
故に語ろう。
真剣に愛し合う二人の少女とその間に挟まれる一人の男の物語を。
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