第9話 それも過保護と言います
私は収納から箒を取り出し、部屋の隅っこにある簡易ベッドの下に隠します。
何故って、今一番使い慣れている武器ですから、
有事の際にすぐに使えるように用意しておきます。
後、すぐに取り出せるのは、スカートの下の、
太腿に専用ベルトでくくり付けて有る小型のナイフと、
襟元のワイヤー入りのリボン。
後は爪先に仕込みナイフのある靴ぐらいでしょうか。
「エリーのベッドはそこじゃない。このベッドでお眠り。」
隊長がそう言いながら、私の簡易ベッドの下から箒を取り出し、
運ぼうとする。
「で、その簡易ベッドには誰が寝るのかお聞きしてもいいでしょうか。」
そう言う副隊長。
まぁ、そうなった場合それは疑問ですよね。
「言い出しっぺはあなたですからね。
当然それに眠るのは隊長ですよね。」
「いや、ここに寝るのはお前だ。」
隊長はそう言って副隊長に指をさすけど、
人に指をさしてはいけませんと教わりませんでしたか?
私は隊長の上げた手の甲を叩き落とし、ちょっと睨み付けると、
隊長は、サッと目をそらす。
それは私の事を考えて言っていらっしゃるのだと思います。
お気遣いどうもありがとうございます。
ですが、これは我が隊の決まりでもありますので、
私はこの隅のベッドで寝かせていただきます。
もし私がそちらで寝た事がバレると、お姉さま達に叱られますし、
第一この簡易ベッドは隊長達には小さすぎます。」
「そんなの丸くなって寝れば何とも無い。
そうだ、このベッドを部屋の隅に運んで簡易ベッドと取り換えればいいんだ。」
「何馬鹿な事を仰っているんです。
そんな事より、さっさと支度しちゃって下さい。
この後、この屋敷のご主人達との会食が有るんでしょう?」
途端にため息をつく隊長達。
まあお気持ちは分かりますよ。
何せこの旅の間中、お世話になる全ての屋敷で、
このように会食をしなければならないのですから。
「こんな事しなくたって、ただねぐらを貸してくれるだけでいいんだがな。」
「そう仰らず、これも騎士の務めだと思って下さい。
屋敷の方も王女様をお泊めになったと言う拍が付きますから、
それなりに苦労をして整えた筈ですし、
何と言っても王女様をお一人で屋敷の人達と対峙させる訳にはいかないでしょう?
さあ、さっさとお湯につかってさっぱりして来て下さい。」
取り合えず隊長を先に風呂に追いやった。
「時短の為に隊長とご一緒なさいます?」
そう副隊長に聞いてみたけど、やはり断られた。
旅の荷物は自分で収納するのが鉄則。
私達に何か有った場合、荷物が取り出せないと困っちゃうもんね。
まぁ、隠して少しは持っているけど。
隊服とか、アンダーとか、パンツとか。
色々と持ってますよ、内緒で。
隊長達が出しておいてくれた隊服をハンガーに掛けておく。
後は、お風呂を出てからの水分補給用に、隊長は水。
副隊長は紅茶を用意して、後はやる事が無いな。
私はチョコンと簡易ベッドに座って待つことにした。
私達は騎士様のお世話がする事がお仕事ですから、
常に一緒にいなければいけません。
女が一人で、男達の部屋に泊まるのは危険だ、どと言う人もいますが、
騎士の中で、私達に手を出そうとする命知らずは、まずいないでしょう。
「隊長、さっさとお支度をなさって下さい。
迎えのメイドさんが来てしまいますよ。」
気が乗らない様子の隊長ですが、私は甘やかしませんよ。
「いつもよりすごく豪華で美味しい食事が食べれるんですから、
いいじゃないですか。」
それを聞いて、恨めしそうにする隊長の髪を、ささっとブラシでとかし、
じっと隊長達を見分し、肩にあった糸くずを取った。
よしっと思った時、部屋のドアがノックされた。
「はい、どちら様でしょうか。」
ドアの外にいる人に声を掛ける。
「当屋敷のメイド、アリッサと申します。
お支度が整いましたので、ご案内に参りました。」
私は後ろ手にナイフを隠し、ドアを開けた。
「お待たせいたしました。」
メイドに危険性が無い事を確認し、隊長に目配せした。
「行ってらっしゃいませ。」
さすがにメイドが会食に出席する訳にはいかない。
私は隊長達を送り出すべく、ドアを開けたまま深々と礼をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます