第9話 治安の乱れ、初の危機
俺が領地を治め始めてしばらく、少しずつ治安は改善されてきた。
雇った傭兵団が活躍し、盗賊や山賊の活動は徐々に減っていったおかげで、商人たちが再び戻り始め、領民たちにも安心感が広がっているのがわかる。
これで少しは領地経営も楽になるかと思っていたのだが、そんな甘い考えはあっという間に打ち砕かれた。
ある日のこと、執事のグレゴールが一通の報告を俺に届けてきた。
それは、領内の一部貴族が俺に対して反旗を翻そうとしているという内容だった。
「これは……ただの噂話じゃないのか？」俺は眉をひそめながら報告書に目を通した。
グレゴールは厳しい表情で答える。
「残念ながら、噂ではありません。複数の信頼できる情報源から、同じ報告が入っております。特に、旧勢力であるエルバート家が中心となり、反乱を計画しているとのことです」
「エルバート家か……」俺はその名を聞いて考え込んだ。
エルバート家はこの領地の有力な貴族の一つで、代々権力を持ってきた一族だ。
俺の改革に対して、特に新しい税制や治安改善策には強い反発を示していた。
その保守的な姿勢から、俺のやり方に不満を抱いているのは明らかだ。
「反乱が本当に起こるのか、確証はあるのか？」俺はグレゴールに尋ねた。
「今のところ、確実な証拠はございません。しかし、彼らの動きは不穏です。反乱が本格化する前に、何らかの手を打つべきかと」
彼の言葉には緊迫感が漂っていた。
俺は深いため息をついた。
領地の改革は確実に成果を上げつつあったが、それと同時に、旧勢力からの反発も日に日に強くなっていた。
彼らは特権を失うことを恐れており、俺に対して対抗心を燃やしている。
「このまま放っておけば、彼らが本気で反乱を起こす可能性が高いな……」俺は独り言のように呟いた。
その日の夕方、俺は周辺の領主や貴族たちを招いて会合を開いた。
これまでの改革の進捗状況を説明し、今後の領地発展について意見を交換するためだった。
会合には、反乱の中心とされるエルバート家の当主、リチャード・エルバートも出席していた。
リチャードは冷静な表情を保ちながらも、その目には俺に対する不信感と敵意が明らかに浮かんでいた。
会合が進む中、俺は慎重に言葉を選びながら、改革の必要性を説明した。
「領地の発展には、旧体制では限界があります。農業や商業の発展を支えるためには、教育や治安の改善、そして新しい税制が不可欠です。これらの改革は、皆さんの未来を見据えたものです」
出席者の多くは俺の話に賛同し、頷いていた。
しかし、リチャード・エルバートだけは腕を組んだまま、俺の話を無言で聞いていた。
会合が終盤に差し掛かったとき、リチャードが突然立ち上がり、冷たい声で俺に言い放った。
「領主様、我々は長年、この土地を守ってきました。ですが、あなたの改革は急進的すぎます。領民たちの間で不満が高まっていることをご存じですか？ 彼らの声に耳を傾けるべきでは？」
その言葉に、部屋の空気が一変した。
俺はリチャードの挑発的な態度を冷静に受け止め、慎重に返答した。
「もちろん、領民たちの声を尊重しています。だからこそ、教育や治安の改善に取り組んでいるのです。改革には時間がかかりますが、それが最終的に領地全体の利益につながると信じています」
「だが、そのために貴族たちが犠牲を強いられているのではないですか？ 我々の負担が大きすぎるのです」
リチャードの言葉の裏には、自分の権力と富が削がれることへの恐れが透けて見えた。
彼は改革そのものに反対しているというより、自分の利益が損なわれることを恐れているのだ。
「リチャード殿、我々は共にこの領地を発展させるために協力しなければなりません。これ以上の対立は、誰にとっても有益ではありません」
一瞬、リチャードは沈黙したが、その目に浮かぶ怒りは隠せなかった。
「このままでは終わりません。貴族たちの意見を無視し続ければ、あなたはこの領地を滅ぼすことになるでしょう」
そう言い残し、リチャードは会場を後にした。
その夜、俺は書斎でグレゴールと再び会話を交わしていた。
「彼らは確実に反乱を計画している。今日の会合で、リチャードは明確に敵意を示してきた」
グレゴールは静かに頷いた。
「確かに、彼の態度は明らかに敵対的でした。ですが、彼らの計画を未然に防ぐための手段を講じる必要があります」
「だが、今すぐに彼らを制圧するわけにはいかない。証拠も揃っていないし、無闇に動けば領民たちの信頼を失う。だが、手をこまねいていても遅すぎる。慎重に動かないとな」
俺はしばらく考えた後、決断した。
「まずは情報を集めよう。リチャードの動きを監視し、反乱に関わっている他の貴族も探り出すんだ。できるだけ確実な証拠を集めて、彼らの背後にいる勢力を突き止めるんだ」
「かしこまりました。信頼できる者たちに命じて、迅速に調査を進めます」
俺は静かに頷いた。
貴族たちとの駆け引きは容易ではないが、領地を守るためには俺が動かないわけにはいかない。
彼らが何を企もうとも、俺の手でこの領地を守り抜くと心に誓った。
「この領地を守るためなら、俺は何だってやるさ」
そう呟きながら、俺は夜の静けさの中で次なる一手を練り始めた。
翌日、俺は領内に潜む反乱分子を洗い出すため、密かに動き始めた。
リチャードの動きを監視する者を増やし、他の貴族たちの動向にも注意を払う。
俺の改革に賛同してくれる者たちには、協力を求めて味方につけていった。
一方、リチャードはさらに不穏な動きを見せ始めた。
彼の屋敷には、領内外から武装した者たちが集まり始めていたという報告が届く。
彼が何か大きな行動を起こす前に、手を打たなければならない。
「奴が動く前に、こちらが先手を取るんだ」
俺は決意を固め、最終的な手段に出ることを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます