転生したら《99%死亡確定のゲーム悪役領主》だった! メインキャラには絶対に関わりたくないので、自領を発展させてスローライフします

ハーーナ殿下

第1話転生したら悪役領主だった

 目を覚ました時、俺――アレン・レイバーグは何が起こったのかすぐには理解できなかった。


 天井に見える豪華なシャンデリア、立派な木彫りの装飾が施された部屋。


 自分が見慣れた狭いワンルームアパートではなく、まるで中世ヨーロッパの城のような部屋だった。


「……ここは、どこだ?」


 俺は頭を抱えながら周囲を見渡した。


 高価そうな絨毯の上に、豪華な服が無造作に脱ぎ捨てられている。鏡に映った自分の姿を見た瞬間、背筋が凍った。


「まさか、これは――」


 俺の体は自分のものではなかった。引き締まった筋肉に、顔立ちもどこか見覚えがある。俺はすぐに気づいた。


 これは俺がかつて夢中になっていたファンタジーゲームの悪役領主、アレン・レイバーグそのものだった。


「嘘だろ……?」


 俺はゲーム内で「絶望領主」として登場するキャラクターで、物語の途中で主人公たちに倒され、領民からも憎まれる存在だった。


 その運命を知る俺は、慌ててベッドから飛び起き、状況を整理しようとした。どうして自分がこの体に転生してしまったのか、頭が混乱するばかりだった。


「あの運命を避けなきゃ、俺は殺される……」


 俺は現代の記憶を持ったまま、このゲーム世界の悪役領主として生きなければならないという事実を理解した。絶望の色が濃くなる中、俺は一つの決断を下す。


「主人公たちに関わらない。目立たず、平穏なスローライフを送るんだ」


 そのためには、まず領地の現状を把握しなければならない。


 ゲーム内での俺は無能で横暴な領主として描かれており、領地は荒れ果てていた。


 だが、俺は現代人としての知識を活かし、なんとか領地を立て直すことで、静かに目立たず生きるつもりだった。


「領地の状況を知りたい。執事を呼んでくれ」


 俺は扉の方を振り向きながら、冷静を装って命じた。


 その声はゲーム内の俺のものだったが、心の中は焦りでいっぱいだった。


 だが、すぐに応じて扉が開き、年老いた執事グレゴールが姿を現した。


 彼は白髪交じりの髭をたくわえ、背筋をピンと伸ばした姿が印象的だった。


「かしこまりました、若様。すぐに財務報告書をお持ちいたします」


 その口調は淡々としていたが、俺は彼の信頼できる雰囲気に少しだけ安堵した。


 少なくとも、今のところは裏切られる気配はない。


 しばらくすると、グレゴールは数冊の分厚い帳簿を手に戻ってきた。


 重たそうな帳簿を机に並べ、彼は手際よくページをめくり始める。


「こちらが領地の財務状況をまとめたものです。昨年度の収支報告書も含まれておりますので、ご確認くださいませ」


 俺は真剣な表情で帳簿に目を通し始めた。


 しかし、俺が目にした数字は予想以上に厳しいものだった。収支の欄は、真っ赤な赤字が目立つ。


 領地の税収は年々減少し、領民からの不満も増大していることが見て取れた。


「これは……ひどいな」


 俺の心中は沈んだ。


 領地の収入はほとんどが税収に頼っており、その税金の大半は過去の領主――つまり、ゲーム内の俺が無駄遣いに費やしていた。


 さらに、領地の農作物は病害虫の被害で大きく減少し、商人たちも次々に領地を去っていた。


「こんな状況では、この領地は持たない……」


 俺は頭を抱えそうになるのを堪えた。


 ゲームの中では、俺が主人公たちに討たれるまで、領地は荒廃し続ける運命だった。


 しかし、俺はその運命を変えなければならない。


 スローライフを送るためには、領地の立て直しが最優先だ。


「グレゴール、今のこの領地で最も急を要する問題は何だ?」


 グレゴールは少し驚いた様子を見せた。


 いつもは怠け者の領主が、急にこんな質問をしてくることは考えられなかったからだ。


 しかし、彼はすぐに表情を戻し、冷静に答える。


「領民たちの不満が高まっております、若様。特に農民たちは収穫量の減少に苦しんでおり、重い税負担に耐えかねています。

 また、商人たちの間でも不満が広がっており、他の領地へ移住する者が増えています」


「……そうか」


 俺は唇をかみしめた。


 農業が破綻しかけ、商業も停滞している。


 領民たちの生活は苦しく、反乱が起こるのも時間の問題だろう。


 もし反乱が起これば、俺はゲームの通りに処刑されてしまう。


「まずは、農業から立て直さないといけないな……」


 農業の改革が必要だと感じた俺は、次にどうすれば領民たちの信頼を取り戻せるかを考えた。


 領主としての権威を示すのではなく、彼らと一緒に汗を流し、改革に取り組む必要がある。


 俺の現代の知識を活かせば、領地を再建できるかもしれない。


「領民の声を直接聞く必要がある。まずは、農村を視察しよう」


 俺は決断した。


 グレゴールはその言葉に再び驚いた様子を見せたが、すぐに彼の命令を受け入れた。


「かしこまりました、すぐに準備いたします」


 執事が退出した後、俺は一人静かに深呼吸した。


 自分の知識を使えば、この領地を豊かにすることはできるはずだ。


 領民たちに信頼され、経済が回復すれば、スローライフが実現できるかもしれない。


 しかし、俺の計画がうまくいくかどうかはまだ分からない。


「まずは動き出さなければ。静かに目立たず、平和に暮らしたいだけなんだ……」


 俺は自分自身に言い聞かせるように呟いた。


 そして、俺の領地再建への第一歩が始まったのだった。

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