俺の日々(絶対くたばらねー)

藤助

第1話 始めに


俺の日々(絶対くたばらねー)

 



俺は五九歳になった。しかも無職だ。半年ほど前に経営していた会社を破産申し立てした。当然俺自身も女房も破産者だ。だから何もすることがない。というか免責になるまでまともな職業も無いし住所も変えられない。こんなどん底の状態だけどそれほど落ち込んでいないし割と落ち着いている。ジタバタしたところでなるようにしかならない。この年になって、財産も預金もゼロ、仕事も無い、おまけに学歴も、すぐに活かせる免許も無い、なーんにも無い。たいていの人は暗闇のそこに落ちたような二度と這い上がれないような、悲壮感たっぷりの俺を期待しただろうが、弁護士事務所で事務のお姉さんと大笑いしているとこなど債権者に見られたら殺されそうだ。反省のかけらも無いとんでもないやつと思われようが悲観している暇など無い。開き直ったわけじゃないが、心底戦ったから申し訳ないけどここまでだ。

 ここに至るまで何年も戦った。バンクミーティングも何回もやった。その度に膨大な資料も作らされた。結局どの銀行も融資しなかった。というか、一時的にしのいでも結果は同じだ。むしろ、これ以上社会的に許されるような経営状態じゃ無い。何年も資金繰りに苦しんで眠れない日々、従業員の給料はもちろん、取引先の支払い、月末の手形や借金の返済、社会保険料。取り付く島もない。明日のことなど考える余裕も無く資金繰りに奔走の日々だった。倒産することに腹をくくった後、数ヶ月過ぎた頃少しずつ解放されて、もう追いかけてくるものが無いことが来たことに、やっと、安堵して眠れる日が来た。

 ある日、従業員から電話があった。何人かの船員がやめるということだった。そりゃそうだ、ずっと最低保障しかもらってないからいやになるだろう。(漁船員はほとんど場合、歩合制で労働法も賃金なども、陸上と異なる)うちの船の船員は独身が多いし問題児だらけだったから、こんな会社でも従事していたが、妻帯者などは生活が困難だし、給料が安ければ漁師になる意味も無い。よくがまんしてくれたと感謝している。何かが俺の中で吹っ切れた。「やーめた。ぜんぶやめだ。」翌日、知り合いの弁護士に相談し月末で事業停止することにした。それからは怒濤のごとく、会計士や社会保険労務士、司法書士などと打ち合わせに追われギリギリまで資金繰りの戦いをした。そして、不渡りを出し俺の会社は倒産した。従業員のほとんどは1年契約だったから幾分気持ちは楽だったし船員不足だから再就職の心配も無かったが何十年も支えてくれた網屋や造船所や漁網漁具屋、燃油業者などに多大な迷惑をかけたことが人生最大の汚点だ。生きている間にいつかお返しできたらとかなわない夢を抱いている。

 事業をしていれば、いいときもあるし悪いときもある。お金がたくさん入ったとしてもそんなに幸せとは思われなかった。少しよくなると税金でほとんど持って行かれるし悪くなると誰も相手にしてくれない。俺の場合は普通と違っていた。漁業者は普通、漁業系、漁信連から融資してもらうが、俺のところは何十年も組合理事長が独裁をしていたために異常な事態になっていた。融資どころか、国からの補助金さえ出そうとしない。県も国も知っていながら政治的に力を持っていたので見ぬふりをしていた。組合法が邪魔して手が出せないのだ。こうして独裁者は泣きついてくるものだけに優遇するのだ。そこで、近くの信金に頼っていたが小さい信金では限界があるし、本来、漁業に融資すること事態まれなことだ。今までよくやってくれたと思う。一番迷惑かけた銀行は政府系の銀行だ。うちの事情をよく知っていて担保もなしで頑張ってくれた。申し訳なく思っている。債権者説明会では、裁判官にここは、謝る場所では無いと言われたが、全ての債権者の皆様に対して心から深く謝罪した。

 破産していきなりぶつかるのは明日からの生活だ。家も取られたし、実家も担保にはいっているし、俺の場合は、せがれがいたので彼の名前でアパートをかりることができた。健康保険も彼の名前で扶養になり年金も一年間支払い免除になった。とりあえず百万円は持たせてくれたのでしばらく考える余裕もできた。今、細々と生活しながらこんなもの書いている。俺のようなやつは、この世にごまんといるだろうが、なんとかしのげることを伝えたい。

 リストラ、無職、鬱、底辺の人たちに何か出来ないかと。俺がいる、ちゃんと俺は生きていることを伝えようと思う。この世界に偶然、生を受けたのだから生き抜かねばならん。もし俺の話でどん底から這い上がれるやつがいたら俺もまんざら捨てたものじゃない。俺の人生なんてとても人に語れるような代物じゃ無いが楽しんでくれたら幸いだ。




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