26:◇黒い魔女の記憶1
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薄汚れたマントに身を包み、できるだけ目立たないように街を歩く。頭まですっぽりと覆ったフードで視界が狭まる代わりに、周囲の音にはこれ以上なく気を配る。
ふと足元がぐらついた。
揺れはすぐに大きくなる。立っていられないほどのものではないが、気にせず歩き続けるほど弱くもない。
他の住民たち同様に、そのまま様子を窺うように立ち止まった。揺れはしばらくの間続いて止まる。
ほっとした空気が流れると同時に、建物の中にいた人たちもぞろぞろと外へ出てきて今の揺れについて話し出した。
私は早足で物陰に入る。人目につきたくない。
「最近、よく揺れるよな」
「それだけじゃない。急に風が吹き荒れたり、土砂降りの雨が降ったり……どうなってるんだ」
「海も荒れて船が出せないって」
「決まってる。すべては黒い魔女の仕業さ」
フードの端を強く握りしめ、できる限りまで顔を隠す。物陰の私に誰も気付いていないとわかっていても、そうしてしまう。
近頃、私のことを人がなんと呼ぶかを知っている。
黒い魔女。
自分からそう名乗ったことはないのに、誰が言い出したのか。おそらく私を守っているのが黒い騎士と呼ばれているのと関係するんだと思う。黒い格好の彼らはその呼び名が似合っていたし、彼ら自身もそう言って笑っていた。
「白い聖女様なら……」
「きっと私たちを救ってくださるのに」
聞こえてくる噂話に、ふっと笑いが漏れてしまう。
白い聖女なんてろくでもないものを信じているなんて哀れ。大した力もないくせにちょっと周りに持ち上げられただけの人間だ。なのに自分ではそれに気付かず、喜んで調子に乗る浅はかな人間だというのに?
最近、私が思うことは同じことばかり。
聖女なんて、消えてなくなればいいのに。
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