誰よりも恋してる
杏璃
第1話 後悔
あのとき、飲みに行かなければ、話しかけなければ、ホテルに誘わなければ、身体を重ねなければ。
なんていくら後悔してももう遅い。俺はあの人が好きになってしまったのだから。
俺がその人と会ったのは確か半年前、行きつけのバーにいると見慣れない顔のスーツ姿の客が1人入ってきた。
俺と話していたバーテンダーの
「
その人も小さく会釈を返し坂町の問いに答えながら椅子に座った。
「じゃあ、ウイスキーで」
「承知しました。」
その人の元にウイスキーが届くと一気に飲み干しすぐに二杯目を注文した。
「同じの」
「はい。」
この人はこのバーが『ゲイバー』だということが分かって来てるのだろうか。
背は175ある俺よりは高く見える。
肩幅もそれなりにあるが太ってはいなそうだ。
顔はイケメンとは言えないがブサイクとも言い切れない。すごく優しそうな顔をしている。
ここまでは俺のタイプだけどあとは性格と受けかタチどっちかが問題だよな。
でも、これで受けだったら意外すぎる。まぁ、とりあえず話しかけてみるか。
「えっと、瀬賀さんだっけ?」
「え?あっ、僕ですか。」
少し戸惑いながら瀬賀は俺の呼びかけに答える。
「うん。」
「そうです」
「よくここ来るんですか?」
「いや、まだ2回目で」
「あっ、そうなんだ。あっ!俺は
「大友さん。」
「そう!瀬賀さんのしたの名前は?聞いてもいい?」
そう俺が聞くと少し戸惑った顔を見せてから答えた。
「…あっ、えっと、
「としは?」
「28です」
「あっ、そうなんだ!俺は26!2歳違うんだ!」
それ以外にも仕事の話や自分のことを語りあった。好きなお酒や趣味。本当に他愛もない会話し俺が気になっている本題に持っていた。
「あの、瀬賀さん。いきなりで悪いんですけど、ここゲイバーなの分かって来てますか」
「えっと、はい。」
少し驚いた様子で答えた。
「じゃあ、俺とホテル行こうよ!ここは奢るからさ!」
「え。でも、僕は明日早いですし。」
「え?でも、明日土曜日ですよ?仕事ですか?」
「えっ、まぁ。」
明らかに動揺している。もうひと押しして無理なら諦めよう。
「ね、お願い。」
「真尋さん。あまり強要は・・・。瀬賀様が困ってらっしゃいます」
坂町が俺を止めに入った。
「いえ、大丈夫ですよ。坂町さん。」
瀬賀さんは坂町に笑みを向け。俺にこう言ってきた。
「分かりました。大友さん。今夜だけなら。」
「まじ!めっちゃ嬉しい!」
そういうと瀬賀は俺の耳元で囁いた。
「ただしここから嫌だと言っても後戻りはできませんよ」
その囁きにスイッチが入った俺は急いで会計を済ませホテルに来た。
「じゃ俺、先風呂入ってくる。」
「そんなのいい、後で。」
そう言いキスをしてきた。
さっきの優しそうな雰囲気とは全く違う瀬賀になった気がした。
「んっ 竜快さん。めっちゃキスうまいね」
その後も何度もキスをした。
「俺、キスだけでヤバい。」
「俺も真尋のキスだけでヤバいわ」
瀬賀は俺の手をつかみ自分の局部に手をあてた。
瀬賀の局部は熱を帯、服の上からでも分かるくらいに膨れあがっていた。
「竜快さんのめっちゃおっきい。」
「真尋も人のこと言えないだろ。」
瀬賀の手が俺の局部を下から上にゆっくりと何度も撫でていく。
「んっ、あっ。わ、わかったから。それやめて。このままイッちゃうから」
「やめる代わりに、俺のしゃぶって」
「わかった」
俺は瀬賀のベルトを外しスーツを脱がせた。
そのままいじったりと少しのあいだしゃぶらず下着の上から刺激していると瀬賀が
「それ、いいから早くしろよ。」
と、自分で下着を脱ぎ、俺の頭を抑えいきなり大きくなったソレを口に入れられた。
「噛むなよ」
「オエッ、」
「涙目になってるぞ。苦しい?」
瀬賀とのSEXは普段より刺激的で濃厚だった。
俺は途中で意識が飛んで終盤は覚えていないけれど。優しく、包んでくれていた感触だけはなぜか残っている。
そして、いつもなら朝には隣には誰もおらずベッドで1人で寝てるのが定番だが、目が覚めると瀬賀が俺を抱き締めて、気持ちよさそうに眠っていた。なにも警戒していない無防備な寝顔。
寝顔かわいいな。
「あっ。俺この人好きなのかも。」
なんて言葉を呟いてしまった。
瀬賀の優しさをもっと感じたい。
でも、こんな人俺には釣り合わない。
かっこよくて、性格もいい。仕事だって。それに、SEXだって上手い。
欠点が見つからない。男からも女からもモテるだろうな。
いや、そんなこと・・・ただ、久しぶりに優しくされたから勘違いしてるだけだ。
それより、起こすわけにもいかないし、シャワー浴びてから帰るか。
俺は、瀬賀を起こさないようにベッドから起き上がり、シャワールームへ向かった。
俺が、シャワーを浴び終え。シャワールームから出ると瀬賀は起きてタバコ吸っていた。
本当は起きる前に帰るつもりだったが起きてしまったのは仕方ない。
挨拶だけして帰ろう。
「おはよ。瀬賀さん 」
「あぁ。はよう」
「じゃ、俺行くね。ホテル代は払っておくから」
「ま、待って!」
「え?なに?」
「真尋との良かった。真尋さえ良けれ連絡先とか。」
一夜限りの相手とは連絡は連絡先は交換しない。
「ねぇ、瀬賀さん。昨日会ったバーでまた、会えたら。また、しょ?」
「わかった」
「じゃ、俺マジで行くね。」
「あぁ。」
俺は、部屋を出た。
SEXしてるときは、人格変わったんじゃないかって疑うぐらい気の強い人になっていたが、さっき話して確信した。もとの瀬賀は気が強いわけはない。多分、強がりってやつだよな。可愛いな。
やっぱり、連絡先聞いておけば。
いやいや、もう終わりだ。瀬賀との関係はこれで終わり。
それから、半年。
俺は、あのバーに1度も行っていない。瀬賀と会うのが怖いから。今度会ったら本当に恋してしまいそうで。
「真尋ちゃん最近。いい人いるの?」
俺に話しかけているのは、高校の時からのくされ縁の
「最近は、マジでいねぇ」
「珍しいな、真尋ちゃんに居ないなんて。」
「そうか?」
今は2人で居酒屋で飲んでいる。瀬賀と会ったバーはふたりとも常連ではあるが俺がどうしても行きたくないといい近くあった居酒屋に入った。
「そんなことより、湊士はどうなのよ。坂町とはうまく行っての?」
「あぁ、もちろん!Hだって会えばヤるし。」
「お盛んなことで。」
そう、こいつは坂町と恋人どうしなのだ。色々あったらしいが紆余曲折を経て物にしたらしい。
「そうだ、真尋ちゃん。」
「なんだよ!急に真面目になって。」
「最近は行ってないんだってな」
「は?どこに」
「成侍のバーだよ。今日だって行きたくないって言うし。どーした」
坂町から聞いたのか。
「べ、別になんもねぇよ」
「嘘だろ。隠しきれてねぇし。」
「ほ、本当だよ」
「お前が来なくなってから、瀬賀って人がよく来て、お前がいるか聞くらしい。」
瀬賀まだ諦めて無かったのか。
「ちょっと、ヘマしただけ!迷惑かけて悪いって坂町に言っといて」
「え。大丈夫かよ。」
「あぁ。大丈夫だよ」
思い出したくなかった。やっと忘れられたと思っていたのに。
俺はそのあと浴びるほどに酒を飲んだ。
「なぁ、真尋ちゃん。真面目に大丈夫かよ。すげぇ、飲んでるじゃん。」
「大丈夫だよ」
「やっぱりなんか、あった。」
「俺、好きな人が出来たかもしんない。」
「そっか。」
「でも、相手はSEXしか目的じゃない。連絡先聞く理由、気持ち良かったからもう一回したいだって。」
認めるとこんなに楽なんだ。今までなにか引っ掛かっていた気持ちがスッキリとした気がした。
あのとき、ホテルを出るときに、強がりだったんだろうな。なんて思ったけど、今まで強がってたのは誰だよ。気持ちに気づかないふりて。
「でも、俺、マジで好きになりそうだったから連絡先交換しなかったんだよね。」
「それで、お前のことだから『成侍のバーでまたあったらまた、ヤろう。』なんて言ったんだろ」
「う、うん。」
「それで行きたくないわけだ。」
「うん」
「そして、最近よくバーに来るようになった瀬賀って客がそいつなわけ」
「うん」
好きなのは好きだ。でも、SEXしたいとかは思わない。触れたいとかは思うけど。
「でも、湊士。俺、これが本当に恋かわかんねぇ。好きは好きなんだけど。SEXがしたいとか思わない。今まではSEXしたいとか思ってたけど。瀬賀さんに関しては全く思わない。」
「それは、大事にしたいからじゃねぇの。ちゃんと好きなやつは大事にして持っておきたいじゃん。確かに俺らは特にHとか体の相性が大事だと思う。でも、それ以上に大切にしたいとかって気持ちが勝るんじゃない」
「そ、そっか。でも、俺。諦めようと思って。一回寝てるし。多分コクってもうまく行かないと思う。だったら、諦めた方がいいじゃん。」
そうだ。フラれるより自分から諦めた方が傷も小さくてすむ。
「ビビなって!いつまで、前の傷引きずってんだよ。」
「お前に分かるかよ!女に浮気されて、それで子供まで!そんな心配するくらいならいっそ付き合わない方がいい!」
「だから、もう忘れろよ!」
「でも。」
「もし、そんなやつだったら俺がボコしてやるから。勇気だしてみろよ。」
「う、うん。」
「明日一緒に行ってやるから」
「あぁ。」
「じゃ、今日はもう帰るか。」
「あぁ。」
タクシーで家に帰ってきたのまでは覚えていたがその後が記憶にない。
朝起きると、テーブルに伏せて寝ていた。回りには空いた缶ビールがところ狭しと並んでいる。
「わぁ、ヤバ!頭ガンガンする。」
確か昨日は湊士と飲んで。それで、えっと。タクシー乗って家に帰ってきて、その後飲み足りなくてまた飲んだのか。
「あー、今日も湊士との予定あったな。もう、12過ぎてるじゃん」
断ろうか。もう少し寝てそれから、考えよう。
それから、5時まで寝てそれから、湊士に電話した。
「なぁ、湊士。俺今日行けねぇや。」
「えっ。マジか。」
「悪い!昨日のみ過ぎて今日飲みたくねぇ。」
「そうか。大丈夫?」
「あぁ。悪い」
「真尋ちゃん。昨日あんなに飲んでたからね。今度にしょう。」
「あぁ。じゃな。」
俺は本気で好きなんだろうか。忘れようと思っても忘れない。戸惑った顔。優しく囁く声。体温。ホテルを出る前に見たあの傷ついた顔。瀬賀さんの全てが忘れない。
それでも。もう、会うことは出来ないだろう。約束をしたのは俺なのに避けているのも俺。嫌われても当然だ。というより恋人ができているかもしれない。
バーの常連になったということは、あのルックスの瀬賀さんを放ってはおかないだろう。でも、恋人がいるならあのバーに行く必要が瀬賀さんにはないんじゃないか。
でも、もし瀬賀さんの優しさで俺を断ろうと待っているのだとしたら。
ダメだ。こんなの俺じゃない。いつもなら好きな奴が出来たらすぐホテルに誘うだろ。それから、一夜を共にしてからちゃんと付き合うじゃねぇか。
まぁ、もう一夜は共にしてるから後は付き合うだけ。そんなのはわかってるんだ。でも、これ以上瀬賀さんと寝たいと思わない。やっぱり好きなやつとは寝たいと思うじゃねぇのか。確かに、会いたい。一緒にいたい。話がしたい。近くにいたい。触られたい。という感情があるが、抱かれたいとは思わない。これ以上、瀬賀さんが俺を抱くことによって、俺が瀬賀さんを汚してしまうんじゃないか。そんな、好きという気持ちと比例するかのようにその恐怖も膨らんでいく。
自分でも分からないこの感情の答えが知りたて湊士に電話かけていた。
「おっ!どうした。真尋ちゃん」
「なぁ、湊士。俺もう訳わかんねぇ」
「なにが?」
あんな、SEXの時に人格が変わったようになる瀬賀さんなんかより、絶対湊士の方が優しい。女と一緒になることもない。
「俺。やっぱり好きなのか余計に分かんなくなった。」
「どうして。」
「全てが欲しいって思うのに。やっぱり抱かれたいとか思わない。それに・・・」
「それに?」
「いや。何でも。」
「そっか。」
「うん。」
「なぁ。真尋ちゃん。なんで抱かれたいって思わないの。いつもならあんなに体の相性を気にするのに。」
「俺。いろんな奴とヤってる。瀬賀さんは。いや、竜也さんは遊んでないと思う。だから、こんな薄汚れた俺なんかを抱くことによって、竜也さんまで汚しちゃいそうで。」
「真尋ちゃん。それはもう恋だよ。好きなんだよ。昨日も言ったけど、前のヤツは忘れろ。」
「でも。やっぱり怖い。」
「真尋ちゃんが凄い傷ついて、恋なんてしたくない。そう強く思うようになったのは、間違えなくあのことが原因で。あのときめっちゃ荒れたの俺は隣で見てたから。少しは気持ち理解してあげられる。それでも、次に行かないと。進まないと。」
「・・・」
「恋の傷を忘れるのは恋。とか言わなけど。次の恋はなにか変わるかもじゃん!」
「うん。」
「俺と成侍は絶対付いてるから。もし、無理だったら。やけ酒だってとことんつきあってやる。」
「うん。」
「これも昨日、言ったけど、なんかあったら俺がボコってやるから!勇気だせ。」
「うん。」
「来週は絶対バーに行くからな。約束だぞ。」
「あぁ。来週な。」
来週と湊士と約束していた今週はいつもより時が流れるのが速く感じた。いつか時が止まってくれないか。そう思えば思うほどに流れは速くなって行く。
そして、ついに約束の日が来てしまった。湊士と待ち合わせて行く予定だったが、待ち合わせの時刻になっても俺は家から出ることが出来ず、湊士に迎えに来てもらった。
「おい、チキンはやくしろー」
「誰がチキンだ。」
「真尋ちゃん。君ですよ。」
まだ、バーにすら着いていたいと言うのに、手は震え、汗が止まらない。
「真尋ちゃん!もうつくよ。」
「な、なに?」
「緊張しすぎ!大丈夫だから!」
「え?き、緊張なんて」
「もう、入るからね。瀬賀は来てるらしいし。」
「へ。なんで。」
「成侍が教えてくれたんだよ。」
「そっか。」
「大友真尋!」
「ふ、フルネーム。は、はい。」
「いつもの真尋ちゃんで行けば大丈夫!!」
「うん。頑張るわ」
「おう。」
そう言って、俺は半年ぶりにバーの扉を押し開けた。いつもよりも重く感じる扉と自分の身体。
後ろにいた湊士に小さく背中押され、重い身体を店内に入れた。
半年ぶりの店内の光景はなにも変わっていない。
「お久しぶりです。真尋さん。いらっしゃいませ。そして、湊士も。」
坂町が俺の名前を呼ぶと。カウンターに座っていた1人の男が俺に視線を向けた。
間違えなく、竜快さんだ。少し髪が伸び、疲れた顔をしているが間違えなく、竜快さんだ。
「ひ、久しぶり。瀬賀さん」
「あぁ。」
「元気にしてた。」
「あぁ。」
俺が投げ掛けた質問に冷たく返事をすることしかしない。まぁ、そうだよな。
「あの。今日は瀬賀さんに話したいことがあってさ。」
「なに」
「ちょっと、その前に。ウォッカ。ちょうだい。」
「お、真尋さん。本気ですか。」
驚いた表情を隠しきれていない坂町。湊士はなにか言いたげな目をしている。
そして、出てきたのはウィスキー。
湊士が坂町に耳打ちをしたのだろう。
しかし、それに文句を言っている余裕もなくそれを一気に飲み干し話を始めた。
「ねぇ、瀬賀さん。真面目に聞いて」
「あぁ。」
「俺、瀬賀さんが好き。」
「・・・」
「あの約束も守れなかった俺が言うことじゃないのは分かってる。でも、そのときは本気で好きだって自覚するのが怖くて。」
「・・・」
一言も発することなく、俺の話を聞いている。
「でも、会わないうちに。やっぱり好きなんだって気づいて。えっと。それで・・・」
「で、真尋はなにが言いたいの。」
「俺と付き合って欲しい。」
「悪い。」
「で、ですよね。もしかして理由とか教えてくれたり?」
俺はできるだけ、笑顔で泣かないように。
「妻子がいる。」
「えっ・・・」
言葉がなにも出で来なくなった。それでも、震える声で
「そ、そうなんですね。」
そして、俺はバーを飛び出し。泣きながら走った。
バーを出るときに誰かが俺を呼んだ気がしたけど振り返らずにでてきた。
やっぱり俺は間違えていたんだ。自分からコクるなんて。
それより、もっと前に。間違えはあったんじゃないか。あの日、あのバーに行かなければ。興味本意だけで話し掛けなれば。気に入ったからと言って、すぐにホテルに誘わなければ。身体なんて重ねなければ。
後悔ばかりがよみがえる。
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