E級(意味深)スキル:ラッキースケベ 〜ふざけたスキルのくせに追加効果が強すぎる〜

しゃけ式

プロローグ 僕がラッキースケベを得るまで

 十五歳になれば固有スキルが発現する。世界の常識だ。


 それは火炎フレア大万雷サンダーボルトといった属性魔法に分類される画一的なものではなく、歴史に名を刻む大魔法師の〝崩壊〟や世界的料理人の〝味覚解析〟など多種多様だ。


 十五歳になる年にもなれば、みんなはワクワクとそれの発現の瞬間を待つ。僕はみんなよりも誕生日が遅いから、それはそれはやきもきしていた。


「オレ〝フラッシュ〟って固有スキルだったぜ! これで暗いところも余裕だ!」


「私は〝手足延長〟だって……。可愛くないなぁ……」


「俺は〝鏡〟。見てるものを反転させられるとかとんだクソスキルだよ」


 神様は時に残酷で、みんなが望む凄いスキルを得られるわけではない。当然だよね。もし全員凄いスキルがあったら今頃差別なんて無くなってる。


 だけど、そんなことは理解しつつも期待せずにはいられない。子どもは子どもなんだ。


 そして、拍車をかけたのが。


「ねえ見てトーリ! あたしのスキル凄いの! 〝自由移動〟だって! ふわふわ飛べるし、しかもあたし以外の物にも適応するんだよ!」


 僕の幼馴染みであるフームはふよふよと浮かびながら辺りのありとあらゆる物を浮遊させる。発現するや否や天帝魔法師から推薦を受け、魔法学校を卒業後は見習いとして天帝魔法師の一員として働くらしい。


 そんな中迎えた、僕の十五歳の誕生日。


 朝目覚めると、固有スキルの使い方と名前は勝手に理解してるらしい。だけど僕はそれどころじゃなかった。


「こ、これってムセーって言うんだっけ……! 早く洗わなきゃ……!」


 僕は大惨事になった下着を川で洗いながら、誰にもバレませんようにと祈りつつキョロキョロと周りを確認していた。


 まあ、お母さんにはバレたんだけどね!!!


「ね、ねぇトーリ……」


「なっ何お母さん!? 別に良いでしょ僕がパンツを洗ってても! 汗だよ汗! 暑くてさぁもう暑すぎるよねホント!!!!!」


「……フームちゃんがね、昨日から家に居ないらしいの」


 だけど僕の心配は別方面に打ち砕かれる。頭が真っ白になり手を離してパンツを川に流してしまうくらいには。


 フームが居ない……? そんなことありえるわけがない。だってフームの家は僕なんかの家とは違ってとても裕福で、箱入り娘としていつも日が落ちるまでには家に帰っているのだ。


 家出よりも先に、誘拐の二文字が脳裏を過った。


「探してくる!」


「あっ、トーリ!」


「すぐ見つけてくるから!」


「……流されたパンツは、後で回収しておくわね! ノーパンでも今のトーリはカッコ良いわよ!」


「余計な気遣いどーも!!!」


 照れ隠しに大きな声で返事をしてフームを探すこと、一時間。


 既にパジャマは汗でびっしょり濡れ、風が吹く度身が震えあがる。




 いや、震えたのは恐怖のせいかもしれない。




 今は使われていない古びた倉庫。中には三人の屈強な男と、縄で縛られたフームが気を失っていた。


「おい、ガキにバレたぞ」


「しゃーねえ、消すか」


「コイツを攫えなかったらオレらは終わりだしな」


 不穏な会話を交わしながら、スキンヘッドの一人は僕のもとへゆっくりと近付いてくる。


 僕の魔法学校での成績は中の下。優等生でしかも恵まれた固有スキルを発現したフームとは雲泥の差だ。あんなに強そうな人に勝てるはずがない。


 ……だけど、震えてちゃフームを助けられない!


「ふ、火炎フレア!」


 ぼうっとお世辞にも大きいとは言えない火の玉がスキンヘッド目掛けて飛んでいく。


「は、やっぱりガキだな」


 それをスキンヘッドは雑に手を振ると、たちまち火の玉は消えてしまった。見せつけるかのように今度は手の平で数倍の大きさの火の玉を作り出す。


火炎フレアってのはなぁ、こうやるんだよ!」


「うわぁ!?」


 身の危険を感じで横っ飛びすると、僕がさっきまでいた場所は大きな炎で焼き尽くされていた。


 こ、こんなの勝てるわけがない! 僕なんかじゃ太刀打ち出来ない!


「本当なら帰してやっても良いんだがな、生憎記憶操作の固有スキルを持ったやつはうちの組織にはいねえんだわ。恨むんならてめえの運の無さを恨んでくれや」


 にやにやと下卑た笑みを浮かべてまた火の玉を作り出す。あまりの火力に身体が暑くなった。


 ……下半身を除いて。


 な、何で今そんなことを考えたんだよ僕は!? いくらノーパンだからって関係無いだろ!?


「じゃあな、ガキ」


 恐怖にギュッと目を瞑り、死を覚悟する。




 ──その瞬間、僕の頭に縛られたフームのスカートがめくれる映像が流れた。




「ぐおっ!?」


「……え?」


 火の玉は一向に僕を襲わない。たまらず目を開けると、男達三人は風を受けたのか全員尻もちを着いていた。




 そして一瞬だけ目に入る、フームのピンクのパンツ。




「な、何だてめぇ!? まさかコイツ、S級スキル持ちか!?」


 S級スキルとは恵まれた固有スキルの中でも特に有用とされるスキルのこと。国を守る天帝魔法師はもれなく全員がそう呼ばれる固有スキルを持っている。


 だけど、僕が?


 まだどんなスキルを持っているかも把握してない、出来損ないの僕が?


「お、お前ら! 加勢しやがれ!」


「るっせえな! 言われなくてもするっつの!」


「ビビってんじゃねえぞお前らぁ!!!」


 三人は一気に警戒心を高めて僕を睨みつける。一人はナイフを手にし、一人は手の平を僕に向け、一人は両手を合わせて魔力を貯めている。




 ──次に浮かんだイメージは、僕のもとへ投げ飛ばされたフームを受け止めると、フームの大きな胸に顔が押しつぶされたもの。




 ドゴォン! と何かが崩壊したような音が耳に届く。


 今度は、地面から土で出来た柱が三人とフームを突き上げていた。


「「「うわぁぁぁ!?」」」


「フーム!!!」


 三人は真上方向の天井にぶっ飛ばされ、フームだけは僕へと一直線に飛んでくる。僕はどうなろうと、フームだけは助けるために両手を広げて踏ん張った。


「ぐぇっ!?」


 踏ん張りきれなかったせいで背中は強打したけど、何とかフームを受け止めることに成功した。だけど目の前が見えない。


 それに何だか、とても柔らかいものが顔を覆ってる気がする……。


「わ、え!? 何!?」


 鈴のように透き通った綺麗で高い声。これまで何度も聞いたフームの声に、僕は安心して息を吐いた。


「きゃあっ!?」


ふーふ、おひはんはねフーム 起きたんだね


「ちょ、ちょっとトーリ!? ななな、何であたしのおっ……む、胸に顔をうずめてるの!? シリアスなのが逆に変態さんみたいだよ!?」


「へ? ……うわぁ!?」


 バッとフームから離れる。や、やけに柔らかくて温かくて良い匂いだと思ったら……!


 と、とりあえず現状を把握しなきゃ。フームを取り戻せたんなら早く逃げないと。


「……あれ?」


 そう思ったんだけど、誘拐犯の三人が襲ってくる気配は一向にない。


 恐る恐る確認すると、三人は揃って地面に打ち付けられてピクピクとしていた。さっき謎の土の柱に突き上げられて、全員着地に失敗したんだろう。まあ成功出来るような高さじゃなかったとは思うけど……。


「……トーリが助けてくれたの?」


「ぼ、僕はフームを受け止めただけで」


「……そっか。ねぇ、トーリ。こんな時に言うのは変だと思うんだけど」


「……どうしたの?」


「お誕生日おめでとう。これでトーリも十五歳だね」


「あ、ああそっか。今日は僕の誕生日だったね。朝からいろんなことがあったから忘れてた……」


「朝?」


「ななな何でもないよ!!!」


 幼馴染みにムセーしたって知られたらどんな顔をされることか! 絶対に言わないからね!!!




 そんなふうに頭の中で言い訳をしていると、ぽわりと頭の中に何かが浮かぶ。もやがかかって見えないそれは、次第に輪郭を成していく。




「な、何これ。頭の中が何かふわふわする」


「それ、トーリの固有スキルの発言だよ! 浮かんだ言葉がトーリの固有スキルで、その後使い方がわかるの!」


「そ、そうなんだ」


 少しだけ胸を躍らせながらその時を待つ。


 そして、浮かんだ言葉は。




 〝ラッキースケベ〟




 ……え?


「……ねえフーム。固有スキルのやり直しって出来る?」


「そんなの死ななきゃ出来ないよ!」


「えぇ……?」


 ら、ラッキースケベ? つまりどういうスキル……?




 〝ラッキースケベ。どんな事象も、ラッキースケベのためなら自身の思うようにねじ曲げられるスキル〟




 つまり?


「……あっ!?」


 あの時フームのスカートをめくるために風が吹いたってこと!?


 フームの胸に顔をうずめるためにフームが飛んできて、だから土の柱が打ち上がったってこと!?


「ね、ねえトーリ! どんなスキルだったの? もしかしたらあたしと天帝魔法師になれる?」


「……えっ、と」


「早く早く!」


「……ら、ラッキースケベ」


「へ?」


「だ、だから〝ラッキースケベ〟だって!!! ラッキースケベをするためならどんな事象も好きなようにねじ曲げるスキル!!!」


「……!? だ、だからさっきあたしのおっぱいに……! エッチ!!!」


「ち、違うんだってばぁ!!!」


 弁明のための声が倉庫中に響き渡るけど、フームは顔を真っ赤にして両手で身体を抱いては聞く耳を持ってくれない。




 その後、僕は誘拐犯達から一人でフームを助けたとして表彰されて、その力を買われてフームと同じように天帝魔法師の見習いとしてスカウトされることになった。




 これは、僕が〝世界一の最強変態魔法師〟と呼ばれるまでの物語。


 めちゃくちゃ不本意だけどね!!! 誰が男の憧れだよバカ!!!

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