第30話
暗闇、豪雨、風、慧也たちにとって有利な状況は何一つない。明かりはかろうじて研究施設からもれる部屋の照明のみ。あとは懐中電灯に頼るしかなかった。とても昼間とは思えない。
幸いというか、研究施設だけあって投光器なども配備されており、若干の明るさは確保できている。だが絶対的に不足していると言わざるを得ない。
施設の真上を見上げると、そこには巨大な石板がゆっくりと回転しているのが見える。大量の水をほとばしらせ、それは台風による強風に吹き飛ばされ広範囲に強い雨となって降り注いでいる。
外に出た途端、四人はもうずぶ濡れだ。だが、悠長に傘をさしている場合でもなかった。
「射程距離に入ってるな。一発ぶち込んでやる」
「行っけええええ!」
轟音と火花を残してランチャーは『
「なら、これはどうだ!」
次に手にしたのは対戦車六連装ロケット砲だ。照準を決め、トリガーを引く。六発のロケット砲がほぼ同時に目玉部分に着弾するが、これも効果がない。せいぜいが、一瞬動きが止まった程度だ。
「ちっきしょ!
「戦術核兵器なんか置いてるわけないだろ!」
とんでもないことを言い始めた深月に慧也は思わず突っ込み返す。
深月の持つ能力では巨大なゾイノイドに一矢すら報えないようだった。彼女の扱える銃火器にはさらに大きな火力も含まれている。だが、この状況下でその武器を準備したり行使することはほぼ不可能だ。
「次は私が行きます。深月、しばらく砲撃は控えてください」
明日香はロケット・ブースターを展開し、腰を低く落とす。ジャンプと同時に点火、一気に高度を上げ、『
「はああああっ!」
スルトリアの全開出力で巨大な眼に切りかかる。闇の刀身は右上から左下へ、大きく袈裟斬りにえぐられる。しかし、それも一瞬のことで、瞬く間に再生してそれは涙を流し出す。
「くっ、ならば!」
少し降下した明日香は、石柱の表面を蹴り、再びブーストをかけさらに高空に舞い上がる。
「これならどうですか!」
雲に隠れて見えなかった、石柱の最頂部から唐竹割りに一直線に最低部まで両断する。しかし、それでも『
明日香はやむなくそのまま着地するが、次に打つ策はない。
「スルトリアの闇では、あれだけの大きさを瞬時に無にできません。そこまで計算してあれを投入していますね……」
「再生力が勝っているということか……不死身の相手と戦ってるみたいだな」
慧也はなす術もなく空を見上げる。
「いや、そんなことないで、慧也はん」
深月と明日香の戦闘をじっと見ていた藍那は、『
「明日香ちゃんの攻撃の時、両断された部分が再生するまで、数秒かかってた。てことはや、数秒の間もおかず破壊し続けたらええんとちゃうか? 再生でけへんなら、いずれは崩壊するやろ」
「なるほどねえ。でも、その間断なく壊し続ける、ってのがこの場合難題だよなあ」
深月は顔にかかる雨を手で覆いのけながら、頭上のゾイノイドを見上げる。そして、ふと浮かんだ。
「あ、慧也っち! あれだ! 振動砲! あたいに見せてくれた奴! あれなら破壊し続けることができんじゃね?」
「そうか。そうだな、やれるかもしれない。ただ、改良型の方は小型化できたけど、出力や射程距離が問題になるな」
慧也はポケットから小さなライトのようなものを取り出す。
「あれ? さっき取りに行った武器ってそれか? 慧也っち」
「ああ。これでも対人兵器としてはかなり物騒な代物だよ。さすがに、あれだけ大きい相手には役に立たないけどね」
改良前の初期型なら、と慧也は考える。初期型モデルは確か実験棟の試作倉庫にあるはずだ。ただ、本体の大きさと強力な電源が必要な点はネックだった。
「くそっ! 悩むより行動だ! 倉庫に改良前の大出力版がある。三人とも振動砲を運ぶのを手伝ってもらえるかい?」
「承知しました」
「任せな!」
慧也の後に二人は続くが、藍那はその場から動こうとしない。慧也は藍那に再び声をかける。
「いや、いいよ、慧也はん。力仕事にウチが行ってもたいして役立たん。それより、ここであいつの動向を見張ってる方がええ。もし万が一妙な動きがあったら、すぐ連絡するよって」
「いいえ、藍那、それはダメです。もしあなたをここに残して何かあったら……」
「明日香ちゃん、勘弁してえな。ウチも一緒に戦う仲間や。危険ってゆうなら、慧也はんが戦場に出てること自体イレギュラーや。ここでウチだけ特別扱いはおかしないか? ウチかて、サムダの兵器の一人やで?」
「いいえ、藍那、あなたは……」
言いかけた明日香の肩を深月が掴んだ。振り返ると、深月は小さく首を横に振っている。
「明日香っち、ここは藍那っちに任せようぜ。今回のミッションはいつもとは違う。藍那っちだって同じ位置に立つ権利はあるぜ」
「ありがと、深月ちゃん」
「……わかりました。藍那、くれぐれも用心はしてください」
「うん、ウチが心配やったら、はよ帰って来てや。待ってるで」
藍那は嬉しそうに微笑んだ。それは、やっと大好きな明日香や深月と同じ位置に立てたことに対する満足の笑みだった。
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