もしも奇跡があるのなら
ぽざ☆うね
プロローグ
今日はずいぶんとしつこく雨が降る。
本州は西日本の都心部には大雨洪水警報が出され、特に用事もない人々は家にこもって、屋外には人気(ひとけ)もまばらだった。
そんな夜、
コンクリート造りの研究棟ですら壁を叩く雨音が聞こえてくるような豪雨の中、つなぎの作業服を着た青年は、工作旋盤と設計図を交互に見やりながら、兵器の機能美について思い悩んでいる。
どちらかと言うとおとなしそうな、だが、穏やかな中にも確かな知性と誠実さを感じ取れる青年だ。
いつものように広大な研究施設の中に、ただ一人泊まり込み、自由な時間で研究を満喫しているところだった。
ふと、玄関の呼び出しベルが鳴っているのに気づく。時間は二三時を大幅に回っていた。こんな時間に誰が来るものかと訝しみながら、青年はテレビドアホンの通話ボタンを押す。
「どちらさまですか?」
玄関は照明も落ち、暗くてよく解らない。
「どちらさまで?」
慧也はもう一度誰何する。暗闇で小さく影が動いた。
「夜分に失礼いたします。
穏やかで清楚、声音だけで判断するのであれば、そう表現するにふさわしい少女の声が聞こえる。
「は、はい、僕ですが」
怪訝に思いながらも、慧也は答えた。
暗闇にカメラの眼が馴染んできたのか、うっすらと表情らしきものが伺える。
少女は笑顔を浮かべるでもなく、まるでこれこそが無表情の見本とでもいうような様子で訪問の要件を告げた。
「私、
馬鹿丁寧なお嬢様口調と穏やかな声調からは想像もつかない、場違いと言っていい言葉が紡がれる。
雷が光る。遠雷が聞こえた。
これが二人の運命を変える出会いの日だった。
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