元平凡学生と呪いの剣

白楼 遵

平凡学生と幼女彼女

第1話 御伽の国のレイナ姫

「おらぁ!!」

「うぉ!?キバ、お前中々に速い一撃だな・・・」

あの「決戦」から一ヶ月。

組み手の授業で、唯一フラー先生と渡り合えるのはキバのみ。

振りおろされる包丁を、揺らめく影で回避。

「<掴法黒剣術グラブ・ブラックセイヴァー廻輪ループ>!!」

回転しながら放つ一撃、刃と刃が交差し、巨大な威圧感と風を生み出す。


キーンコーンカーンコーン・・・


「うげ、チャイム鳴っちまった・・・今日も引き分けか・・・」

「はっはっは、俺は嬉しいぞ、ここまで渡り合える奴がいるとは・・・」

「まぁ、多少なりとは非凡になれたから・・」

(お前の非凡は多少じゃねえ)

クラス一同、思いっきりのツッコミ。

「まぁでも何だ、明日から夏休みだもんな」

そう。明日から中央士官学校は長期休暇、通称夏休みに突入する。

海で遊ぶ、夜中に馬鹿騒ぎ、花火の打ち上げも大丈夫。

まぁ、人様に迷惑をかけないのなら、の話だが。

「さぁ、もう集会が始まるな。講堂いっとけよお前らー」

「はーい!!」


「ということでありまして・・・・ですから・・・」

(((長い・・・)))

全校生徒の思いは一つ。

校長先生、はよ話を終わらせろ。

かれこれ10分以上話してるんだ。もうあっついんだよ。空調魔法効いてねえだろこの空間!!

空調魔法で整えられてる筈の講堂内は、熱気でムンムンとしている。

眼鏡も曇るような湿気。恐ろしすぎる。

「先日の学院間戦争でもあったように――」

滝汗。だんだん足下が濡れてきている気がする。

「・・・これで、私の話を終わらせて頂きます」

(((いよっしゃあああああ!!!勝った!!)))

全校生徒の心が一つになった。


後日談だが、体育館の床には塩が出来ていたそうな。




「おぉ!男子寮に天使が舞い降りた!!」

「眼福だ・・・ありがたや!!」

「助っ人だ~!働いてくれ~!」


「別にクラスで毎日顔合わせてるじゃない!!」

「私達はキバ様の世話しに来たんですよ!!」


「ちっ、キバ処刑だな・・・」

「あいつ、寝込みを襲いにいくか・・・」

「お前ら怖すぎるだろ!!」

キバ、戦々恐々。男子寮を訪れたのは、レイレイコンビ。

『夏休み中にアイギスの手伝いする』

『そして隙あらばキバといちゃつく』

この二つが二人の願い。終業式が終わった途端にもの凄い勢いでまくし立てられ、何も言えなかった。

「・・・キバのお風呂に乱入を」

「・・・キバ様にあーんを」

「お前ら変なことするなよ!?俺が危ないから!!」

この日はもちろん歓迎会。皆で夜中まで馬鹿騒ぎして、風呂に入ってるキバに女子二人が乱入しようとして罠魔法トラップに引っかかったり。

とにかく、終業式の日の夜らしい夜を過ごしたのだった。



「ほら!早く着替えて!!」

「分かってるって!!・・・あーもーちょっとシャワー!!」

朝の先生組み手を終わらせ、寮に戻ってきたキバ、今日も結局引き分け、途中第三段階をお互いに使うような事態になり、修繕担当のシンカイ先生に怒られた。


「あーさっぱり!!着替えも完了!!」

「服装普通過ぎるでしょう!?・・・いいわ、買ってあげるわよ!!」

そう、今からキバとレイナはデートに行くのだ。

これぞ、青春。

これが平凡なデートになる予感しかしないのだが、二人は楽しみすぎてそんな事どうでもいいと言いそうだ。

「さぁ出かけましょう!まずはキバの服買いに!!」

「あぁ!!俺はかっこいいの買えないから、頼んだぞ!」




中級区の一角。二人並んで歩くキバとレイナ。

「いや~、中級区か・・・ナツキさんとこ、行くか」

「そうね、私もナツキさんのコーヒー好きだから!」

レイナは無類のコーヒー好き。ナツキのコーヒーは大好きなのだ。

それにしても、やはり朝は人通りが多い。出勤する人や、買い物に行く人。

多種多様な人々が行き交う最中、ふと不穏な雰囲気。


「お久しぶりです、姫♪」


目にもとまらぬ早技。白髪の男が、笑みを貼り付けた顔で迫り、レイナの姿がかき消える。

「キバ!?」

「騒いではいけませんよ、姫」

屋根の上に飛び乗った男と、その仲間の一人が、レイナの首元に針を刺す。途端、レイナは眠ったように気を失う。

「・・・お前ら、レイナに何をした」

白髪の男の後ろ、首元にウロボロスを突きつけたキバ。冷酷な声が響き、右目が金色に光り輝く。

「・・・君こそ、なんで僕らの姫にくっついてるの?」

「うるさい、俺の彼女に手を出すな」

突き出す剣。首を刺した・・・筈だった。

「あっぶないなー、死んだらどうするんだよ!?」

(・・・突き刺した筈、いや・・・がある)

「まったく!!僕だからいいものの!!」

「・・・ふーん。大事なら、守っておけば?」

キバの腕の中には、眠ったレイナがいる。

「貴様ッ・・・!!」

仲間の一人が声を荒げようとするも、別の男がそれを制する。

「落ち着け・・・貴様、名前はなんと言う」

「お前らに名乗るような名前は無い」

「そうかそうか・・・俺達は<虚偽の代弁者ライアー・テラー>。貴様の腕の中で眠っている姫が、必要なんだよ」

落ち着いた物腰、あくまで敵意は無いとばかりに話しかけてくる男。

「今日の所はここで失礼するが、いずれ姫は返して貰うぞ」

「取り返せるもんなら、取り返してみろよ・・・!!」

両者の間で火花が散り、睨み合う。

何かが飛ぶ感覚が再び訪れ、男達の姿が無くなる。

「すまねぇ、レイナ・・・俺がすぐ、助けてやる」

宙を蹴り、学校へと急ぐ。保健室へ行こう。そうすればきっと、何とかはなるはずだ。




ドアを急いで開け、先生を呼ぶ。

「先生ッ!!レイナが!!」

「キバくん?!・・・レイナさんがどうしたの!?」

保健室のナイチ先生。少し焦った状態で事のあらましを説明すると、少し青ざめる。

「レイナさんは今夜、ここで預かります。何かあれば魔道具にて連絡します!!」

「お願いします、先生!!」



「ごめん、レイナ・・・ほんとごめん・・・!!」

寮に帰るまでの道。何度泣いたかも分からない。足取りも重く、ふらふらと。

「お帰り~・・・あれ?レイナは?」

わいわいがやがや。皆が口々に聞く中、一人キバは自責にかられ――

「うわぁあああん!!!レイナが、レイナがぁああああ!!!」

アイギスに抱きついて、号泣したのだった。


「・・・という事があって・・・」

「・・・畜生、奴らひでえことしやがる!!」

「辛かったね、大丈夫だよ~・・・」

アイギスの声も、元気が無い。

「・・・多分、明日の朝には元気になって帰ってくるよ、レイナだもん!!」

「そうだよ!きっとそうだって!!」

皆で、精一杯励ます。そうでもしなきゃ、キバは立ち直れないだろう。



「う、ぐぅ、ああああああああああああ!!!!」

かたやレイナ。高熱と悪夢にうなされ、汗もだくだく。

額に載せた冷たいタオルもすぐに熱くなり、ナイチ先生が慌ただしく取り替えている。

(キバ・・・しんどいよ・・・助けて・・・)

その一言で、レイナの意識はぷつりと途絶えた。




「まったく、眠れなかった・・・」

目の下に大きな隈を作り、千鳥足のキバ。彼らしくない行動は、精神や体調に大きな異変をもたらしたのだった。

魔道具がけたたましく鳴る。

『キバくん!早く保健室へ!!』

「了解しました!!」

ナイチ先生からの呼び出し、という事は何かあった筈。急いで保健室へと向かう。



「先生!!」

「落ち着いてください・・・!!高熱も引きました、体調大丈夫です」

「よかった・・・」

安堵感でへたり込むキバ。しかし、続けてナイチ先生が言うには・・・

「しかし・・・おいでー」

「おー!!」

ベッドから出てきたのは、白い髪の女の子。年の頃は、10歳くらいだろうか。

(まさか・・・)

「お?あなたが、キバおにいちゃん?」

「おっ、お兄ちゃん!?!?」

「何故か、レイナさんはこのように幼くなってしまって・・・」

少女から幼女へと変貌を遂げたレイナが、純粋な瞳でこちらを見つめるのだった。




「どうしましょう、先生・・・」

「困ったなー・・・」

一年一組、緊急招集。議題はもちろん、このレイナの状況についてだ。

「・・・全く、どうしてこうも面倒ごとに巻き込まれるのかねこの平凡は!!」

「俺だってやりたくてやってる訳じゃないんです!!!」

「おー?けんかはダメだぞ?」

「大丈夫、喧嘩はしてない」

「そうなのか?」

(連中、こんな幼気な子を洗脳しようとしたのか・・・?だとすれば、いやだとしなくても許せねえ・・・)

一人完全に怒り狂いそうになったキバ。レイナに頭を撫でられた瞬間クールダウン。

冷静になったら、良いアイデアを思い付く。

「・・・よし、図書室に行くか!!」


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