トンネルの先にいる自分

村人マット

第1話 ニュース

カーテンの隙間から刺す陽の光で僕は起きた。目覚し時計を見るとまだ6時。夏が終わりに近づいているが、まだ暑くTシャツが汗で濡れている。


普段の僕は朝の7時に起きて、芸人やアイドルが出演しているバラエティに近いニュースを見ながらご飯を食べる。そしてご飯を食べ終わった後、おばあちゃんにお線香をあげてから学校に行く。


これが僕、笹木涼のルーティンだ。このルーティンは学校に行くまで年密に計画が建てられていて余分な時間がない。


だから6時に起きるのは想定外でやりたいことも特にない。しょうがないので自分の目をこすりながら体を起こし部屋の外に出た。階段を降りてリビングに向かうとキッチンで母が朝食の準備をしていた。


「あら!今日は早いじゃない!」


母の甲高い声が頭に響く。ちょっとうざい。


「おはよう」


と一言だけ伝えてからソファに座りながらテレビをつける。


まだ朝早いからか,いつも見てるバラエティよりのニュースはやっていない。


代わりに背景が真っ白で男性アナウンサーと女性アナウンサー、腹が出ている中年の評論家が座っている。


今は行方不明事件の特集をやっているようで、七三分けの髪型をした男性アナウンサーが、目撃した人に画面に映る電話番号まで電話するように呼びかけている。


僕が住んでいるこの神村町でも毎年3件ほど行方不明事件が起きている。


神村町は人口も少なく近所の人は知り合いばかりで、怪しい人や知らない車があったらすぐ分かるはずなのだが、なぜか目撃情報がなく人が消えていく。


これだけ行方不明になったら町から人がいなくなるんじゃないかと思うが、行方不明以外は窃盗や万引き1つ無い平和な町なので、引っ越してくる人が以外と多い。そんな平和な町なので別名神隠しの町とも呼ばれている。


3年前。僕の身近な人も行方不明になってしまった。



当時中学生だった僕の担任、高山先生だ。朝のHRで高山先生が行方不明と告げられ僕たちクラスメイトは動揺した。


高山先生は生徒想いで、僕がクラスに馴染めず友達がいない時も喋りかけてくれるような優しい先生だ。そして空手の黒帯を持っている体育の先生でもある。


そんな強くて優しい先生が誰かに恨みを買って誘拐されるとはクラス全員が思わなかった。


「やっぱりこの町に神隠しは起きるんだ」


隣の席に座っている小林が呟いた。


小林は活発で明るく僕の唯一の友達だった。そんな小林がここまで落ち込んでいるところは見たことなかった。


高山先生とよく喋っているところを見かけていたので仲が良かったのだろう。


放課後ビラ配りや聞き込みをクラス全員で行ったが何も情報が出てこなかった。


高山先生はどこに行ってしまったのか?殺された……。そんな酷いことは考えたくない。



そんなことを思い返していると


「朝ごはんできたよー」


母がそう言ってご飯、味噌汁,焼き鮭、卵焼きをテーブルに置いた。僕はソファから立ち上がりご飯が置いてある席に座る。今日はワカメと豆腐の味噌汁のようだ。


そうしているといつも見ている番組が始まった。最初から見るのは初めてだなと思いながら味噌汁を手に取る。


早起きするとこんなにもゆっくり出来るんだなと感心しながらダラダラとご飯を食べる。


「お前がこんな時間に起きてるなんて珍しいな」


低いガラガラな声で父親が席に着いた。


「まぁね」


愛想のない返事をする。そもそも父とはそんなに話さないのでこんな返しでも大丈夫だと思っている。


父はご飯を食べながら新聞を読み始めた。沈黙が続くなかテレビを見ながらご飯を食べ続ける。


テレビで星座占いが始まるころ父が行ってくると言い、会社に向かった。僕は占いを見終わってから家を出た。



今日の占いは12位だった。金曜日なのに運が悪い。


(12位のあなたは恥ずかしいところを見られてしまうかも!)

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