第66話 第2回イベント4
真っ暗なモニターを見ながらさっきのやりとりを思い出す。
相手の意見に動揺することなく、終始落ち着いて話をしていた高校の同級生。
特に荒れたり、喧嘩になったりせず、生配信は穏便に終了した。
これは運営にとって最高の結果なのだろう。
本来なら喜んで安心する場面。
事実、他のメンバーは笑みを浮かべながら自称親友の対応について話し合っている。
なんだろう……
胸がざわつく。
俺は揉める動画を見たかったのだろうか?
それとも……
「お疲れ様ー、遅れちゃってごめんね!」
思考を遮るのは緑の妖精の声。
会議室に現れた彼は小さな手を振りながら遠藤さんの横に座る。
「ありがとうございました、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
スーツの女性が大きく頭を下げた。
それに近づく妖精は、優しく肩を叩く。
「大丈夫だよ」
それだけを呟いて席に戻る学。
そんな彼を見て胸が締めつけられるような、喉が渇くような、形容しがたい気持ちが溢れてくる。
「ありがとう、人の心を推察出来る君だからこそ無事に帰って来れたのだろう」
「偶々だよ、多分べっちょさんは、元々そんなに怒らない人なんじゃないかな? 礼儀もしっかりしていたし、こっちの言葉を遮ることなく冷静に聞いてくれてたし」
運が良かっただけだよ
リーダーの言葉にそう返した妖精はこっちを向いてピースサインをする。
「僕はこのゲームが好きだからね! 全てのお客様に楽しんで欲しいと思って話をしただけだよー
だから、僕には出来なかった、強敵と戦う面白さの提供は裕くんに任せました!」
急に言われた俺は返事が出来なかった。
ただ、胸に広がる違和感が少し和らいだ気がする。
「せっかくだし、このまま運営会議をしよう」
突然立ち上がった鈴木さんが大きな声で宣言する。
議題は3つ、今回のイベントの目的と、対人戦について、それから公式でランキングを作る、というもの。
クレームが入ったとはいえ、第2回イベントはかなり順調に進んでいる。
最高報酬を取って、それを現金に変えた動画が昨日アップされてからwワールドの洞窟は爆発的に挑戦者が増えた。
ちなみにレアモンスター1体1体の報酬は5倍〜25倍の間でランダムだが、10体の総額は参加費の合計と同じになる仕組みだ。
つまり、還元率は最高でも100%
運営から損失が出ることはないし、もしも魔物に生き残りが出ればこっちの儲けになる。
挑戦者は比較的少ないが、経験値の洞窟は全ての参加費を運営の貯金に回すことが出来る。
一生表向きになる事は無いが、リーダーの中ではこのイベントは回収を目的としたもの、だったらしい。
この話を聞いた時は複雑な思いだった。
もし俺がプレイヤーだったら総額とか、還元率とか全く気にしないで挑戦していただろう。
そう思うとすこし怖くなる……
そんな事を考えている間も会議は進む。
対人戦について
条件は有るが、許可は降りたみたいだ。
これから暫くはどんな内容で実現させるか煮詰めていく予定で、まずはルールから考えていくらしい。
今の所の予想図は、闘技場で個人戦や団体戦、もしくわ乱戦を企画する。
参加しないプレイヤーは誰が勝つかを予想して楽しんでもらう。
その際にはイベント限定アイテムを買って投票してもらい、終了時にそれを買い戻す計画だ。
問題は運営が戦闘に参加するのが難しいという事。
その期間中、俺の仕事が見つからないらしい……
ちょっぴり悲しい気分になった事は秘密にしておくことにした。
暖かい目で見てくる自称親友が無性に腹立たしい。
そして運営の公式ランキング
これは単純で、換金した額が高い順番に100位まで発表されていく。
種類は月間と累計の2種類で、月1回更新される前者のランキング上位10名には次回発表まで称号が贈られる。
目立ちたく無い人ように、参加を拒否する事も可能で、その場合は5位 ーー 1600000wのように空白で表される設定だ。
なぜこのタイミングなのか、リーダー曰く
「上位の換金額を公開する事でこのゲームは本当に稼げる、換金出来る、と宣伝する事
人の承認欲求を刺激して、課金や、高難度高報酬のダンジョンに挑戦させてデスペナを発生させる事」
この2つが狙いらしい。
特に承認欲求について語るリーダーは怖かった。
このランキングに載るために課金するプレイヤーが1人でも出てくれば……
そこから先の話は覚えてないが、生き生きと話す彼女の瞳は黒く輝いていた。
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