第53話 第1回イベント後半戦6


「まさか第四層でプレイヤーと出会うとは思わなかったよ」


 5人組のヒーローとの戦闘が終わり、減ってしまった体力と魔力を回復した俺達は、座りやすい石を見つけて作戦会議をしていた。

 ゲームの開発段階で運営側は第四層を攻略されるのはイベントが終わってからだと予測していたらしい。


 想定していた推薦レベルは50後半、それもある程度強化された武器か、高めの課金装備をつけてギリギリ冒険出来るかどうかの設定。


 それを知っている妖精と魔王の答えは一致した。

 いくらパーティーを組んでいたとはいえ、あのヒーロー達がここまで来れるとは思えない。


「たまたまモンスターに会わなかった、もしくわ抜け道や隠し通路を見つけた可能性はありますか?」


 細かい設定を知らない俺に予想出来るのはこの2つだけ。


「イベント中でボスモンスターの復活が遅い事を考慮しても無理だと思います……」


 しかしそれは白い羽の妖精に否定される。

 このゲームでプレイヤーが深い層に進むには、今居る層のキーダンジョンを全てクリアした後に出現する、門番と呼ばれる魔物を倒す必要があるらしい。

 だから戦闘を避けて進む事は不可能。


 ダンジョンは個別フィールドの為、イベントの影響を受けないが、出て来る魔物のレベルは決して低くない。


「そうだね、どちらにしてもレベル的にも、強さ的にも無理があるだろう」


 鈴木さんの言葉に納得してしまう。

 配信者リンとの勝負と比べてしまえば……

 少し失礼かもしれないが弱かった。

 連携も抜群とはいえないし、個人のプレイヤースキルもパッとしない、申し訳ないが彼等だけでの攻略なんて到底無理だろう。


 ならば考えられる可能性は、


「他に協力した人が居る」


 もう1人の魔王も同じ答えに辿り着いたようだ。

 一応、周りを見てみるも人影は見当たらない。


「可能性は高いですが……」


「そうだね、考えても仕方ないし、大変なのは明日からだ」


 私は休憩を貰うよ、鈴木さんはそう追加して妖精の呟きに言葉を返すと、立ち上がって大きく伸びをする。


「そうですね、ごゆっくりどうぞ」

「知恵ちゃん、お疲れ様」


 ありがとう、と返した後に黒の魔王は硬直する。

 きっと今頃は流れ星を見ているだろう。


「これからどうしますか?」


 結構迷うな……

 今までみたく誰かと模擬戦をやるのも有りだが、さっきみたく不意打ちを喰らうのは面白くない。

 それならば見晴らしの良い場所で警戒しながらずっと座ってれば良いとも思うが……、それはつまらない。

 いや、仕事なのだから感情抜きに考えろとは思ったりもするけれど……


「とりあえず探検しようか」


 悩んだ末に弾き出した答えはプレイヤーとまだ会ったことの無い魔物の捜索だった。


 そして、金髪の妖精を肩に乗せて歩き始める。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ただいま、何か進展はあったかい?」


「いえ、歩いてただけです……」


 リーダーが戻ってくる間の約12時間弱、結局プレイヤーと出会う事は無かった。

 収穫は第四層の地形をある程度把握出来たこと、何種類かの新しいモンスターに出会う事が出来たことだけ。


 まず地形について、

 石の森を抜けると青い森に出た、さらに歩くと赤い森に出る事がわかった。

 そして赤い森を抜けるとまた石の森に帰ってくる。

 遠藤さんに聞いた所、大陸を作る時に円柱の表面をイメージしたらしく、端と端は繋がっているみたいだ。

 だから他の大陸に行く為にはアイテムが必要になってしまう。


 またそれぞれの大陸にコンセプトを用意していて、東の大陸は全て森のフィールドで出来ている。

 勿論それぞれの森にも特色があり、今回は色の示す通り青は寒くて赤は暑かった。


 次にモンスターについて、

 探検して出会った新しいモンスターは色んなタイプがいた、空を飛ぶ大きな鷲、炎や冷気を纏った鳥に、無数の腕を持つゴーレム等々。

 新しい出会いがある度に肩に乗る妖精は瞳を輝かせていた。


 そして俺達が第四層に侵略した事で第五層から移動する事が出来た魔物達。

 ハミルトンもベルゼブブも第四層のどこかを歩いている筈だ。

 リザードマン達もSと描かれた王冠をつけている奴を先頭に、群れを作って行動している。


「なるほど、楽しめたかい? 今後の参考に感想を聞かせてくれると嬉しいな」


 視界に入る笑顔は、暫くあっていない親友と同じ……

 きっと、自分の作ったものを楽しんで欲しいと心から思っているのだろう。

 純粋に羨ましい、いつか俺もそう思う事が出来るのだろうか……

 なんて、気を抜くとつい、そんな事を考えしまう。


「楽しかったですよ、暇な時に話しましょう」


「ありがとう、裕二くんが戻ってきたら第三層に侵略しようと思う」


 それはプレイヤーが沢山いるフィールドに乗り込むという事。

 上級を選んだプレイヤーの大半はそこまて進んでいるだろう。

 給料と運営の為、明日から気合いを入れてプレイしなければいけないな……


 それからもう1つ、リーダーの命令で明日からどちらかが倒されるまで、別行動をする事になった。

 多くの人間と出会う以上、いつまでも一緒にいたらクレームが入るかもしれないし、所持金回収の為に、なるべく防衛側を倒しておきたい事が理由らしい。


 とはいえ、2回倒されてゲームオーバーになるにはまだ早すぎるので、負けたらすぐに連絡を入れる約束をした。


「今日がゆっくり休める最後の休憩だろう、良く寝て、明日からよろしくお願いするよ」


 いつものように手を振る黒の魔王。

 応えるように手を振りながらログアウトを選択する。


 明日からが本番か……

 リンやルシファーもどこかに居るのだろうか?


 うん、楽しみだ


 星の流れる世界で他のゲームを思い出す。

 いつもイベントが始まったらスタートダッシュを決めていた。

 開始直後からやり続けるせいで、基本的にイベントの中盤には終わりが見えていた、どんなイベントも終盤までには完全クリアしていた記憶がある。


 でも、今回は真逆。

 最終ボスの立ち位置だから仕方ないと思うが、前半が暇すぎた……

 少し違う気もするが、これが勇者を待つ魔王の気持ちなのだろうか?


 あぁ、今日は良く寝れるといいなぁ


 現実に戻って来た俺はマシンを外してそのまま目を閉じる。

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