第45話 第1回イベント前半戦9


「ありえません」


 言葉とは裏腹に構えを解いて距離を取るリン。


 そうだよなぁ、頭ではわかってても体は反応してしまうよな?


 炎の魔王はAIである、ならば使えない魔法を使おうとする可能性は低いと考えてしまう筈だ。


 それに加えて事前情報の火球 極広の使用魔力1000、

 単純に考えれば魔法が発動する事はあり得ない。

 でも、色んなゲームをやっているとたまにあるのだ、特殊な条件下でのみ発動する魔法やスキルが。


 勿論俺にそんなものは無いので魔法は発現しない。


 それでも上手いが故に、上手いからこそ、その可能性を考えてしまうであろうリンは、いつも通り何が起きても対処出来る様に距離をとってしまうのだろう。


 まずは上出来。


 俺は剣を持ったままの左手で魔力剤を使用して魔力を全回復する。


「バグですか? まぁいいでしょう、次は斬ります」


 突き出した右手を注意深く見ながら侍は刀を両手で持ち上段に構える。


 居合じゃない……


 互いの距離は5.6メートル程度、警戒すべきは斬撃を飛ばす可能性と踏み込んで突っ込んで来る可能性の2つ。


 今魔法を打てば当たるか?

 そう思ってはみても行動には移せない。


 答えは後者だった。


「火の構え 衝しょう 」


 言葉と共に赤いオーラに包まれた侍は右足で踏み込むと大きく飛び上がる。

 そしてその勢いのまま刀を振り下ろす。


 反射的にシルバーソードで受け止める。

 いや、受け止めてしまったと言うべきだ。


 両者の武器が触れ合う

 均衡は一瞬

 2つに分かれたシルバーソードは光と共に消滅した。


 俺は受け止めた時の衝撃で後ろに飛ばされる。


「終わりです」


 空中で動けない俺に向かってリンは追撃を仕掛けてくる。


「居合 風斬り(かざきり)」


 刀を鞘にしまい今度は緑のオーラが全身を覆っていく。


 このまま後数秒経てば負けるのだろう……

 だから今しかないと思った。


「火球」


 半分の魔力を込めた俺の最速の魔法。

 幸いにも両手を突き出す格好で飛ばされている。


「火球」


 残りの魔力も全て使い切る。

 最後の足掻きで、最後の勝負だ。


「まだ魔法を使えたのですね」


 驚きと共に黒い瞳が少し開く。

 風を切る音と共に1発目の魔法が半分になって消滅する。

 そして瞳を閉じる。


「居合を使ってしまったのが敗因ですね

明日必ずリベンジしますよ」


 空中で刀を振り切った侍に2発目を防ぐ手段は無い。

 ガラ空きになった胴体に赤い球がぶつかる。

 復讐の言葉と共に侍は光になって消滅した。


 地面を転がりながらそれを確認した俺はヨロヨロと立ち上がる。


 テロンッ

 レベルが25→27に上がりました

 ステータスポイントを6獲得しました

 魔法 火球 速(10)を習得しました


 プレイヤー リンを倒しました

 596.629w手に入れました


 脳内に連続でアナウンスが流れる。

 新しい習得した魔法は間違いなく速い火球の事だろう。

 あの侍、どんだけ金持ってたんだよ……


 体を包むフワフワした感覚。

 気付いたら叫んでいた。

「っしゃぁ」


 この日の記憶はここまでしか覚えていない。

 その後も何度かプレイヤーと戦った気もするが、ずっと頭の中ではリンとの戦闘がリピートされていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして7日目、全魔王が10時までレベル上げに励んでいるが、殆どのプレイヤーは雷の魔王と氷の魔王に執着していた。


 俺は20人程度と戦ってタイムアップ。

 かなり広いこの世界では、いくらリンでも10時間で炎の魔王を探し出すことはできなかったらしい。


 こうして初のイベント、前半戦は幕を下ろした。

 後半戦の内容は既に運営公式サイトに載っている筈。


 ログアウトする前に自分の成績を確認する。


 倒された数0 倒した数340人 所持金946.580w


 あれ? こんなに頑張って9465円しか稼げてない……

 実は結構ブラックなんじゃ……


 まぁ、この結果はこの後学に伝えよう。

 100万人以上が遊んでいるこのゲームで340人は少なすぎる気もするが、何かしらの理由はあるのだろう。


 明日はメンテナンス。

 俺はお休みだ。


 何しようかな?

 久々に1日中寝るかな?


 そんな事を考えながら俺の視界はブラックアウトした。

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