第2話 商社Mでの日常

「お~い、木下。これコピー取って!」私の野太い声がフロアに鳴り響いた。


痛快だ。俺の存在感を示す場。ウザがられようがこれが自分のスタンス。

仕方ない。


「利賀さん、総務課のキャンペーンで紙印刷減らすように言われてます」

「そんなの関係ねえよ。誰が稼いでると思ってるんだ。お客と接する

 営業が稼いでんのによお、気にしないで無視無視!」


木下は怪訝そうな顔をしたが、俺は無視した。


このような日が毎日続くと思った。自分のポジションは固定顧客に

定期訪問するルート営業。タイから仕入れる化学材料を売るプレイング

マネージャー。良くも悪くも代り映えしない。自分にとっては

毎日のジョギングのようだ。


自宅の赤羽から飯田橋まで乗り換え一本。改札を出て揺れる

飯田橋歩道橋にも慣れた。


ユラユラユラユラ。体に余韻を残しながら俺は会社へ向かっている。

すべての規則正しい自分のスタイルに反して


飯田橋歩道橋はいつもユラユラユラユラ。それすらも心地よく

思えてた。コロナの第二次余波が来るまでは。




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