第5話 よくないはなし

幸い、店舗の奥まったところに女子トイレがあり、すぐそばにゴミ出し用の裏口があった。とりあえず店長に見られずテナントビルから抜け出すことができた。ビルの非常階段を降り、ゴミ箱の横をすり抜け繁華街の道路に降り立つ。


ほっと落ち着いたときにやっと、やっとひとつのことに気づく。


メガネはずせばよくね!?


あ、つい大声をだしてしまった。見んな、こっち見んな。

ここで外すと美女が急に髭面のおっさんに変わってしまう。それはまずい、酔っ払いばかりのこの街ならうまくごまかせると思うが、絵面が良くない。家まで待とう。

だが、ここは危険だ。早足で、急いで、だが急ぎすぎずゆっくり安全に、だ。

酔っ払いが話しかけてきた。まぁ、そうだよな、この女いい女だもんな。でも中身おっさんなんだよ、全然うれしくないんだよな。

愛想笑いで流したが多分引きつってた。

繁華街を抜けて人通りの少ない路地に入ってもまだ人目もあるし一向に気が抜けない。この道を歩いててはじめて恐怖を感じた。

女ってこんなサバンナ歩いてんのかよ…

普段は口うるさい母ちゃんや姉ちゃんに優しくしてあげようと思った。


ああ、でもバイトバックレは不味かったかな。あれは良くないよ、良くない。姉ちゃんのふりしてあやまっとこ。急に気分悪くなって帰ったことにしておこう。店長女たらしだから追及されないだろ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る