放置アカのキャラクターの末路がこちら

寧々(ねね)

第1話 痛客・勇者

「アプリ入れたけど、面白さがわかんなかったなあ」


 会社からの帰り道、ふと思い出してホーム画面にあるアプリ『玉石とすすめ』、通称『玉すす』のアイコンを見る。


 擬人化した宝石を戦わせて国を守る……というのは名目で、ただのよくあるキャラゲーだ。

 友達から紹介プレゼント目当てで無理やりダウンロードさせられたが、特に面白いとも感じなかったし、何よりナビゲーターのおっさんがムカつく顔をしている。


「好きなキャラでも出たらハマるのな?」


 そうしている間に自宅のアパートに到着した。

 いつものように鍵を開けて、扉を引くと


「おっそいよー、ゴミ豚野郎君!」


 目の前には見慣れぬ事務所の一室。


 少し頭髪が寂しくなった、眼鏡の男性が駆け寄ってきた。

 小太りの彼のスーツは今にもはちきれそうだ。


「初日から遅刻するなんていい度胸してるね!ボーイのゴミ豚野郎君がしっかりしないと、キャストの皆に示しがつかないよ!」


「ひぃっ?!」


 扉を閉じようとするも、強引に腕を捕まれ部屋の中へ。

 目にもとまらぬ早業で男が扉の間に割り込み、後ろ手で扉を閉めてしまった。


「ちょっ、何するんですか!やめてください!」


「ゴミ豚野郎君が逃げようとするからでしょ!」


「さっきからゴミ豚野郎、ゴミ豚野郎って……初対面なのに失礼ですよ!」


「え?君の名前呼んだだけなのに?」


 そう言って、眼鏡男は一枚の紙を見せた。

 それは履歴書で、ゴミ豚野郎という名前とともに知らない男の顔写真が貼ってあった。


「うわあ、悪ふざけで作ったとしか思えない履歴書……」


 そこまで言って思い出す。


 この写真の男は、『玉すす』をダウンロードしたときに友達が適当に設定した主人公に似ているではないか。

 そういえば、この男もナビゲーターの男そっくりで……。


「はっ……!」


「ほれ見なさい!やっぱり君なんじゃないか!」


「ご、誤解です!というか、これは『玉すす』で友達が適当に作ったキャラであって」


「言い訳無用!」


 ビンタで無理やり言葉を遮り


「初日だからって甘やかす気はないからね。しっかり働くように」


 分厚い本を渡される。

 痛む頬をさすりながら本をめくると、女の子の顔写真とプロフィールが載っていた。


「うぅ。なんですか、これ」


「キャスト……従業員の女の子達の情報だよ。一人一人紹介してる時間なんて無いから、コレ見て覚えてちょうだい」


「けっこういるなあ」


「あとはフロアの掃除とー、仕入れとかの雑務とー、お客様の接客とー」


 『玉すす』の世界にいることに対して疑問を述べても、再びビンタで封じられるだけだろう。

 だったら、それは受け入れるとして、


「あ、あの!ここが『玉すす』の世界なら、アプリと同じように戦いの指揮をするんでじゃないんですか?」


「なーに言ってんの。君にはボーイとして働いてもらうんだよ」


「ボーイって……キャバクラの男性従業員の『ボーイ』ですか?」


「ああ」


「で、でも玉すすは宝石の女の子集めて戦うキャラゲーだったはず」


「ゴミ豚野郎君はインストールしただけで誰も女の子を仲間にしてないでしょ」


「はい。友達の紹介コードを入れただけなので……」


「そういった空の拠点では、しばらく起動してないアカウントや、アンインストールされたアカウントに所属していた女の子達の雇用促進活動をしているんだよ」


「せ、世知辛い」


「君だって、1つくらい消したアプリあるでしょ」


「行き着く先がキャバクラだと知っていたら、消しませんでしたよ」


 そこで眼鏡男は腕時計を見て


「ほらほら!おしゃべりはおしまい!開店までの時間が迫ってきてるよ!人手不足なんだから、君にはしっかり働いてもらわないとね!」


 急かすように背中を押してきた。


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