第114話 コタツでトランプ

「スリーカード」


 僕はコタツの上に、自分のカードを並べた。


 その横に荻原君がカードを並べる。


「フルハウス」


 負けた。


「二人とも甘いわね」


 そう言って樒がコタツの上に並べたカードの組み合わせは、ストレートフラッシュ。


「私の勝ちね」


 勝ちほこる樒。だが……


「わらわは、ロイヤルストレートフラッシュぞよ」

うそ!」

「嘘ではない」


 そう言ってハーちゃんがコタツの上に並べたカードの組み合わせは、間違えなくスペードのロイヤルストレートフラッシュ。


「わーい! わらわの勝ちじゃ!」


 ハーちゃんは、三個のミカンをお手玉にして喜ぶ。


「ねえ、優樹」


 ん? 樒の方を向いた。


「疑問なのだけど」

「なんだい?」

「私たちさ、なんで荻原君の部屋でコタツに入って、ミカン食べながら……」


 そこで樒は、ハーちゃんを指さす。


「こいつをまじえて、ポーカーなんかやっているんだっけ?」


 なんでだろう?


 そう!


 さっき、ハーちゃんが入ってきた後、荻原君の部屋で話をしようという事になって、二階の荻原君の部屋に入った後、ハーちゃんが『うう! 寒い!』と言ってコタツにもぐり込んでから、近くに置いてあるトランプを見つけて、話をする前にトランプをやろうと駄々だだをこねたのだ。


 それで、すぐにポーカーを始めたのかと言うと、その前に七並しちならべ、神経衰弱しんけいすいじゃく、ババき、大貧民だいひんみんをやっていた。


「そうだったわね。ポーカーを始めた時には、なんでここにいるのかすっかり忘れていたわ」


 樒は勝ち誇っているハーちゃんの耳を引っ張った。


「痛たた! 何をするのじゃ!? ポーカーで負けた腹いせに、か弱い幼女をいじめるなど最低じゃ」

「何が幼女よ。このロリババア! いい加減遊んでいないで本題に入りなさい」

「やじゃ! やじゃ! もっと遊びたいのじゃ」

「そもそも、あんたどうやって結界を抜けて入って来られたのよ?」

「わらわは死神じゃ! だから、すり抜けられたのじゃ」

「また、そんな嘘を。悪神のくせに」

「悪神なら、結界を抜けられないぞよ」


 いや、こいつが結界を通れたのは肉体があったからだろう。


 結界は霊体を通さないが、肉体を持った人間は通してしまう。


 ハーちゃんの場合、自在に霊体を肉体に変える能力があるので、結界ではこいつの侵入を防げないんだ。


「いい加減、用件を言いなさいよ。私たちは忙しいのよ」

「せっかちな女じゃ。わらわは最初に『遊びに来た』と言ったはずじゃ。だから、遊んでいるのじゃ」

「うそおっしゃい! 荻原君を霊界に連れて行く気でしょ」

「もちろんじゃ。お昼になったら、あらた黄泉よみの国へ連れて行く。その時間になる前に、この世の思い出作りにわらわは遊んでやっているのじゃ」


 やはり連れて行く気か。


「あの……ハーちゃん」

「ん? なんじゃ新。トランプ以外の遊びをしたいのか?」

「そうじゃなくて……僕は黄泉の国へ行くなんて言ってはいないのだけど……」

「なんじゃと! ではおぬし、露をだましたのか!」

「いや……騙したわけじゃなくて」

非道ひどい奴じゃ。乙女心をもてあそびおって」

「いや……そうじゃなくて……」

「かわいそうにのう。露。好きな男に裏切られて……ううう」

「ええかげんにせんかい! このロリババア!」


 パシ!


 嘘泣きする幼女の頭を、樒がハリセンで叩く。


「なにすんじゃ! この大女!」

「大女言うな! そもそも最初に嘘をついていたのは、露ちゃんの方でしょ」

「ほう。露がどんな嘘を付いたというのじゃ? 露は新にバレンタインチョコを渡して『一緒に逝って』と言っただけじゃ。新はそれに同意したぞ」

「だから……それは……」


 言葉に詰まった樒に代わり、僕がハーちゃんの相手をする。


「確かに露さんは嘘を付いていないけど、告知義務を果たしていないよ」

「なんじゃと?」

「まず、飯島露さんは、自分が死んでいる事を荻原君に話していなかった。そして行き先を言わないで『一緒に逝こう』と言った。飯島露さんが死んでいて、行き先が霊界だと分かっていたら、荻原君は断っていたはずだよ」

「確認もしないで返事する新が悪い」

「じゃあ飯島露さんは、最初から荻原君に勘違いをさせる目的で、実は死んでいるという重大な事実を隠していたというのかい?」

「重大な事実とは大げさな。たかが命があるかないかぐらい……」


 ポカ!


 いきなり樒が、ハーちゃんの頭を叩いた。


「痛い! いきなり何するのじゃ」

「《たかが命があるかないかぐらい》にビビッとしました……つーかムカついたから叩いた。次に命を軽んじるような事言ったら蹴るわよ」

「怖い女じゃ」


 ハーちゃんは僕の方を振り向く。


「おまえ、よくあんな凶暴な女と、コンビを組んでいられるな」


 好きで組んでいるのじゃないのだけど……


「とにかく、荻原君は、飯島露さんが言った『一緒にいこう』をデートの誘いだと思って承諾したのだよ。飯島露さんは自分が死んでいる事と、行き先が霊界である事を隠していた。告知義務を果たしていない。よって、荻原君には一緒に霊界に逝く義務はない」

「ううむ、難しい事はよく分からぬが、新は勘違いしていたというのじゃな?」

「そうだよ」

「そうか。では、仕方ないのお。では、露にはあきらめて一人で黄泉へ逝くように伝えよう」


 納得したのか? 


「喜んでいる露には、なんと説明すればよいものか?」


 ハーちゃんは一人で部屋を出ていく。


 しかし、なにかに落ちない。


 何か他にたくらんでいるのでは……?


『荻原君。どうしてあたしを閉め出すの?』


 これは!? 飯島露の声!


『荻原君。結界から出てきてよ。一緒に黄泉へ逝こうよ』


 バカな! この結界は、幽霊の声だってさえぎるはずなのに……

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