第75話 侵入者
警報が鳴ったのは、午後十時。
予告時間より一時間早いが、誰かが塀を乗り越えて庭に進入し、赤外線センサーに引っかかった。
パソコンを操作していた使用人の一人が振り返る。
「監視カメラに、何も映りません」
進入と同時に、監視カメラを
かなり、手慣れた奴だ。
一方で、赤外線センサーやレーザートラップはそのままなので、侵入者の動きは読める。
芙蓉さんが、ミクちゃんの方を向いた。
「ミクちゃん。式神を偵察に出して」
「はい」
ミクちゃんは人型の紙をペルシャ絨毯の上に置き、ウサギ式神を呼び出した。
そのまま、式神は壁をすり抜けて外へ出て行く。
そうしている間にも、監視カメラが次々と潰されていった。
と言っても、壊されているわけではないようだ。レンズに、炭のような黒い液体を吹き付けられているらしい。
式神をコントロールするため、ペルシャ絨毯の上で目をつぶり
「いた! 黒いボディスーツを着た二人組。一人はノッポで
「武器は持っている?」
「武器か分からないけど、ノッポの人が伸び縮みする棒を持っています」
「式神は?」
「いません」
式神がいないと言っても、今は出していないだけかもしれないな。
「ただの物取りかもしれないわね。ミクちゃん。これを」
芙蓉さんは、ドリンク剤の
このドリンク剤は、ブースターと呼ばれる、式神使い専用の強化薬。
これを飲むとしばらくの間は、普段は使えない強力な式神が使えるようになるらしい。
「ブースターを飲んだ時間は、正確にチェック表に付けておくのよ」
「はい」
ミクちゃんは、ポシェットからチェックボードを取り出すと、時間を記入してからドリンク剤を飲んだ。
飲み終わると、人型の紙を絨毯の上に置く。新たな式神を呼び出すのか?
「
人型の白い紙が、突然黒く変色すると、ムクムクと大きくなっていく。
やがて、それは身長三メートルほどの真っ黒な鬼となった。
その鬼は、辛うじて人の姿をしているが、大木のような太い四肢をもち、赤い髪に覆われた頭部には、金色に輝く
これがこの前、ウサギ式神が言っていたアクロなのだろう。
しかし、芙蓉さんは式神を使わないのか?
その事を聞いてみると……
「ブースターの使用回数には制限があります。この侵入者は、ただの物取りの可能性が大きいので、私の式神は今回温存します」
なるほど。
そうしている間に、アクロは庭に出ていた。
そのまま猛スピードで侵入者のいる方へ向かっていく。
しばらくして、ミクちゃんが口を開いた。
「二人を捕まえた。抵抗するどころか命乞いしているけど、どうします?」
「とりあえず、連れてきて。何の目的で進入したのか、聞き出す必要があります」
「わっかりました」
一分もしないうちに式神は戻ってきて、二人を部屋の真ん中に放り出した。
すると、六人の警備員が群がって二人を縛り上げる。
覆面を取ってみると、年の頃は三十代くらいのガリガリにやせた男と、やはり三十代くらいの太った女。
「い……命ばかりはお助けを」
「あたしら、この屋敷に侵入すれば金をやると言われただけで……盗みを働くつもりは……」
金で雇われた? ということは……
「こちらの出方を見るため、あるいはこちらを消耗させるための
芙蓉さんはそう言ってから、縛り上げている男の方を向いた。
「監視カメラは、どうやって潰したの?」
男は、足下に転がっている伸縮式の棒を
どうやら、元は高枝切り
これで監視カメラに塗料を吹き付けて、見えなくしていたらしい。
塀の高圧電流も、こいつらの仕業だということ白状した。
「あなたたちを雇ったのは誰?」
「それが、直接会ったことはなくて、ネットで指示を受けていて……」
これは予想通りだな。ヒョーは直接会わないで、ネットで、この二人に指示を出していたんだ。
「あたしら、前金で二万もらって、この屋敷に侵入したら後金八万もらうことに……」
合計十万。ずいぶんと気前が良いな。ということは、ヒョーを雇った奴もそうとうの金持ちで、なおかつ権堂氏を深く恨んでいる人ということか。
ん? 樒が二人に詰め寄った。
何をする気だ?
「それ、どこのサイトよ? そんなにもらえるなら、私もやりたい」
おいおい……
結局この二人からは何も聞き出せなくて、こっちは監視カメラ数台を潰され、さらにミクちゃんがブースター使用制限回数を一回使ってしまった。
第一ラウンドは、こっちの負けだな。
そして、第二ラウンドは、午後十一時ぴったりに始まった。
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