彼等の綴る怪奇譚
氷桜
1.何も知らない僕。 何も知れない彼女。
五歳児/ハジメテ
人とは違う。
言い換えれば、少しだけ変わっている。
そう言われることを目指して努力する人。
そう言われないように努力を続ける人。
どちらをも、少し離れて見ていた僕は。
第三。
言われずとも、誰からも変わっていると言われるような人種だった。
黒髪、丁度前髪が目の辺りに掛かるような長さ。
肩に掛かるくらいに長い髪は、母の趣味で整える程度。
誰も知らない人が見れば、女とも誤認されそうな。
内向的で、けれど数人の友達や外で遊ぶことも厭わないような。
山や川に囲まれた、田舎の中の名家の傍流。
そう呼ばれる一家の次男が、「僕」だった。
――――そんな、誤認に意味があったなんて。
後で知った時には、「ああ、そうなんだ」と。
既に、年に不釣り合いな。
達観した視点を得ていたのだけれど。
◆
「それ」を認識できることに気付いたのは、いつだっただろうか。
今思い返せば、きっとあの時。
物心ついたばかりの、噎せ返るような暑さの夏。
裏山の、古びた神社での出来事の後。
◆
夏臭さを全力で表現するような、太陽が照りつける。
幼稚園での夏休み直前のことだった。
実家――――というよりは本家か。
田舎故の、無駄な土地を持っていたその家系は。
田畑や川に近しい土地だけでなく、裏山……と呼ばれる小さな山をも保有していた。
幼稚園という環境であっても、学年ごとに分ければ一学年一クラス。
その人数は30-40人程度と、細々とやっていくのが手一杯。
いつ潰れてもおかしくないような。
小さな、小さな。
山に一部分が面する、寺の一角に幼稚園はあった。
少し年の行った保母さんは、諭すように常々言っていたものだ。
裏山へは、立ち入ってはいけませんよ、と。
当然、僕等くらいの年代は反発する。
山の危険。 身を持って知らない、遊ぶことに全力な年頃だ。
口々に、虫を取りたいだの。
木陰で涼みたいだの。
けれど、普段は少し困ったような表情で受け入れるその人は。
これに関してだけは、絶対に受け入れることはなかった。
――――そんな、とある日のことだった。
本家からやってきた、大学を卒業したばかりの従兄弟が僕に囁いたのだ。
裏山に行ってみたくはないか、と。
首を傾げながら、当然のように行ってみたい!と。
強く言ったのを覚えている。
今、思えば。
その顔は、悪戯な面を含むというよりは。
能面のような。
感情を押し殺したような顔をしていた、気がする。
◆
裏山の、古びた神社。
決して、立ち入っては行けないとされる禁域。
そこで、僕は何かを見て。
その後から、全ては始まったのだ。
――――何も、覚えてはいないけれど。
従兄弟の事も、誰も覚えてはいないけれど。
◆
斯くして、僕は知った。
「それ」の存在。
自分一人では、対処できず。
「彼女」だけでも、対処できず。
見ること、聞くこと。
話すこと、伝えること。
「認識」出来る僕と。
見えず、聞こえず。
だからこそ、その全てを祓う事ができる。
「霧散」させる彼女と。
手を取り合って、立ち向かわざるを得ない存在。
――――怪奇譚を、ここに綴ろう。
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