第10話桜の誤解
そこに立っているのは桜だった。
しかし三玖さんが気づいている様子はなく、そのまま弁解を図ろうとしたが桜は走って逆方向へ行ってしまった。
追いかけようにも三玖さんを置いていくわけにもいかず、とりあえずは三玖さんを家まで送ることにした。
「今日はありがとうね颯くん」
「いえいえ、とても楽しかったですよ」
「夏休みもう一回くらいどこかに遊びにいかない?」
少し桜のことが気がかりではあったがとても魅力的な提案だったので快諾した。
別れの挨拶を告げて帰宅した。
家に帰り自分の部屋に入る。そしてそのままスマホのメッセージを開き桜に電話をかけた。
せめて、出でくれるとは思っていたもののまるで雰囲気がない。鬱陶しいと思われるかもしれないが折れる訳にはいかず三回目ででやっと出てくれた。
『なんですか』
普段の桜からは考えられないほど冷たくトゲトゲしい感じだ。
「今日、どうして走っていっちゃったのか聞きたくて......」
『べつに、なんでもないですよ』
「なんでもないって感じじゃあなかったし」
『すいません、今日は話したくないので切ります。おやすみなさい』
そう言うと桜は電話を切ってしまった。
俺じゃ全然原因が分からないし、どうも出来ないので真理愛を頼ることにした。
『真理愛ちょっといいかな?』
五分ほどすると真理愛から返信が返ってきた。
『どうしたの?』
『今日夏祭りの帰りに桜と会ったんだけど逃げられちゃって、それから電話をしてもまともに取りあってくれないんだ』
『ちなみに誰かと行った?』
モデル業をしていることは璃久以外には伝えていないのでバイト先の先輩と誤魔化した。
『それって女の人?』
『まあ、そうだけど』
『彼女?』
『いや、違うよ』
『なら大丈夫。とりあえず頑張ってみるね』
「ありがとう、また今度お礼でもするよ」
そう言ってメッセージのアプリ閉じると急に睡魔が襲って来て倒れるように眠りに着いてしまった。
翌朝起きると桜から不在着信が一件来ていた。それを見て直ぐにかけ直すと三コール程で桜は電話に出てくれた。
「もしもし?」
『もしもし、颯くん昨日はごめんね急に切ったりしちゃって』
「いや、いいんだ。もしかして何か俺がしちゃったかなって思って......」
『ううん、全然そんなことないよ。むしろ私が勝手に誤解しちゃって』
「誤解?」
『うん。あんなに綺麗な人が隣にいたし、彼女かなって思って......バイトの先輩なんでしょ?』
「ああ......まあ、そんなとこ」
『うん!じゃあこれで仲直りね!颯くんもそれでいいよね?』
「もちろん!これからも仲良くしてな」
『こちらこそ!それはそうとねえ、颯くん?』
いきなり桜の声音が変わった。昨日程ではないがかなり冷えた声だ。
『どうして彼女でもない人と腕まで組んでたのかなぁ〜?』
「まあ、それはいろいろと」
『そのいろいろを教えて欲しいんだよなぁ〜?』
あれ?桜ってこんな怖い子だったっけ......
その後、数十分説明しながら質問攻めされてしまった。まだ朝なのだが精神が削れすぎてまるで学校が終わった時のように疲れているような気がする。
『まあ、それは分かりましたよ』
何とか納得してくれたようだ。
『それはそうと私も颯くんと夏祭り行きたいな〜別のところであるしいいよね?』
時々桜から来る謎の圧力が電話越しにきている。こんな状態じゃあ断ることも出来ず、押しきられてしまった。
電話口からは『またね〜』という声が聞こえた。
何だかんだいって機嫌は直してくれたようなので良かった。
しかし、どっと押し寄せた疲れのせいでまた、眠りに着くこととなってしまった。
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