第39話 がんばろう、ジークタリアス


 新暦3056年 3月29日。


 瓦礫撤去開始から3日目。


 ジークタリアスへ『あかけもの』を倒しにきた第七師団は、任務を変更して街の復興に従事していた。


「効率を重視しろ。瓦礫の一時集積場所に、いちいち気を使えよ」

「「「了解です!」」」


「ぉ、おお、なんて筋肉たちだ……」


 ジークタリアスの神殿騎士や、衛士たち、街の力自慢な男たちをも圧倒する、働きぶりをみせるエリート騎士団のチカラに、上位冒険者たちでさえ思わずうなづいてしまう。


 そんな中でも目立つ者がひとり。


 春先の心地よい日差しのもとで、鎧を脱ぎさり、その下の鍛え抜かれた肉体をさらす、神威の騎士たちのなかでも、頭ひとつ背が高く、肩の筋肉が異様に発達した偉丈夫いじょうぶだ。


 男はまわりの視線をあつめながら、大きすぎてこの3日間どかせなかった、教会の壊れた女神像のまえに仁王立ちした。


 本来なら瓦礫なぞ、ちいさく砕いて運ぶべきだが、ソフレト共和神聖国において、たとえ腕が取れてしまっていても、女神様をやすやすと砕くことなど出来るはずもない。


 ゆえの一旦放置であり、瓦礫撤去に挑む男たちのある意味では腕試しとなっていた女神像である。


 たくましき男は女神像のまえで一度祈り、たったまま、ただ腰をまげて無造作に手をかけた。


「オイオイオイ」

「死ぬわアイツ」


 傍観するパッとしない男たちは、へらへらと笑う。


 だが、たくましき筋肉漢はたやすく女神像を持ちあげて、崩れた教会から運びだして行ってしまった。


「ほう、腕力だけで持ち上げますか……全身の筋肉を連動させるより遥かに負担がかかるはずですが、あれほど軽くあげるとは……流石は『超人ちょうじん』アルゴヴェーレ・クサントスですね」


 謎のメガネの感心する声に、あたりがどよめいた。


「団長、3班が南部の瓦礫撤去作業を終えました」

「ん、そうか。それじゃ、まだ仕事が片付いてないところに、どんどん回せよ。俺の意見なんて聞かなくていいからな、アルフレッド、お前の裁量で団員を派遣しろ、責任は全部俺が取るからな」


 第七師団団長ーーアルゴヴェーレ・クサントスは、線の細い、されど筋肉を極限まで絞ったタイプの細さをもつ騎士へ指示をだす。

 

 団長の信頼の眼差しが示すのは、彼が『超人の右腕』とうたわれる副団長ーーアルフレッド・クルガーである証だ。


 アルフレッドはひとつうなづいて、女神像を街の外へ大きな荷車に乗せる団長を見送り、あたりの神威の騎士たちの指揮をとりはじめた。


「いやぁ、すげぇな、おっさんたちと仕事の練度ってのが違うなぁ。いや、この場合は質って言うのかね?」


 教会の熱気を遠くから眺めていた壮年の男ーーパスカル・プリンシパルは、すぐ横でせっせと瓦礫を荷車に乗せる、水色の髪の少女へ話しかけた。


「知らないですよ? リーダーももう元気になったんですから、さっさと働いてくれませんか?」


「ラザニア厳しいなぁ。嫌だよ、面倒くさ……じゃなくて、だってまだ腰が痛いんだもん、グレイグを頑張って足止めしたから。いやね、おっさん思うんだよね、休む時はしっかり休むのも仕事のうちだって、な」


「休む時期が終わったって言ってるんですよ? もういいです、働かないのなら、他のメンバー呼んできてくれませんか? なんで、リーダーとサブリーダーしか瓦礫撤去してないんですか? そろそろ、ぶちギレますよ?」


 水色の髪の少女ーーラザニア・グリンデリーは、足元を凍りつかせて、目元に影をおとした。


「でもなぁ、プラスミドは忙しいし、アルバートも急用思い出したとか言って、街を出たし、ガンディはどっかで修行してんだろうし……」

「リーダー、うちのパーティ集まり悪すぎないですか? ちょっと、近いうちに意識改革しましょうか?」

「うーん…………そうだなぁ、これまで『英雄クラン』がバリバリ働いてたから、なんとかなったけど、これからはウチが頑張んないとだもんな。うし、んじゃちょっと考えてみるか! という訳で今日は一旦、解散だ!」


「はぁ……ダメだ、このパーティ」


 ラザニアはがっくりと肩を落とし、歩きさるリーダーの背中を見つめ、今後の方針についてひとり悩みを深く持つのであった。


 

           ⌛︎⌛︎⌛︎



「それじゃ、親父、ちょっと行ってくる」

「おう、気をつけろよ。あのイケメンにいちゃんの面倒は見といてやるからな」


 ウィリアムへ手を振って、今日をはじめよう。


 ここ数日の街や俺自身の変化によって、俺の生活ルーティンはおおきく変わっている。


 ともあれ、変わらない事がひとつだけある。


 早朝の空気の冷たさが残るなか、静かな神殿へおもむき、神官の方たちに挨拶しながら聖女の部屋の扉をノックする。


 これだけは譲れない。


 ーーガサゴソっ


「ん?」


 なんだか、今部屋のなかで物音がした。

 もしかして、マリーが起きているのだろうか?


 ーーコンコンっ


 ノックしても返事がない。


「失礼します」


 部屋にはいって見ても、カーテン付きの豪華なベッドが、いつもの通りふわっと膨らんでいるだけだ。


 やっぱり、俺が起こさないとダメらしい。


「マリー、起きて、朝だよ」

「くぅ、くぅ、むにゃむにゃ」


 まずい、なんて可愛い寝言なんだ。


「くっ、だけど、心を鬼にして起こさないと……マリー、朝だよ、起きないと」


 ここ最近、俺が『聖女の騎士』になってから、マリーの目覚めが3倍くらい悪くなった。


 声だけでは絶対に起きない。

 肩をたたいても、かるく揺すってもダメだ。


 ロージーから「ふふ、そういう場合は頭を撫でたら、起きるのよ。まったくあんたは本当にわかってないわね〜」と言われたので、ここ最近は恐縮ながらマリーのさらさらした金髪を撫でさせてもらっている。


「マリー、起きてー、朝だよー」

「っ、ふふ、あと50分……」


 相変わらずこの日も豪快な聖女様。

 結局、しばらく頭を撫でないと、起きてくれなかった。



          ⌛︎⌛︎⌛︎



「それじゃ、マックス、午後も頑張ってね!」

「うん、マリーも頑張って」


 マリーに手を振って、街の復興に従事するものたちを激励する為に、各地をまわる彼女を送りだす。


「いやぁ、微笑ましいこったなぁ、『不死身』のマックス、いや『竜返し』のマックス? それとも『測定不能』のマックスと呼ぼうか? いやね、二つ名がたくさんあると、おっさん混乱しちゃうなぁ」


「あれ、パスカルってもっと南の方担当してなかったか? ……ぁぁ、サボったんか」


「察しが良くてたすかっちゃうな〜」


 屋根がなくなった臨時の青空レストランを畳んで、働かないおっさんーーパスカルと一緒に家屋の外へとでる。


「マックス、お前『聖女の騎士』になったんだろ? マリーのお嬢ちゃんのそばにいなくていいのかよ」


「それがな、第七師団の騎士たちが、こんな光栄な機会はないっていって、ローテーションでマリーの警護にあたっててさ。俺は騒動が終わったら、いつだって警護できるって言って、向こうに役目をかわってるんだよ」


「なるほどなぁ……いや、若者よ、彼女が可愛すぎるのも悩みものだなッ!」


「っ、ば、やめろ! 俺ごとき、そんな事思ってな……!」


 肩を大袈裟に震わせて、おどけるパスカルより、周りの男たちの視線を気にする。


 危なかった、どうやら聞いていた者はいないらしい。


「おい、てむぅえ、こっち向けよ」

「ん?」

 

 声をかけられ、振り向くと、上半身の鎧を脱いでピッチリしたタンクトップを着込む騎士が立っていた。


 春の長閑のどかさに似合わない、暴力の香りのする同い年くらいの青年だ。口元の皮膚が不思議と黒み掛かっているのが特徴であった。


「てむぅえ、聖女様の騎士らしいなぁ? ずいぶんと調子乗ってんじゃねぇん?」

「いや、別に……このおっさんが勝手に言ったことでして、ね」


 なんだか喧嘩に発展しそうな予感を覚えたので、パスカルに全責任を放り投げる。


 と、よく見たら、神威の騎士たちが10人ほど固まって、俺とパスカルのまわりを取り囲んでいることに気がついた。


「お前、初日に俺様の矢を凌いだよなぁ? それも気にくわねぇんだよ。なんだ、自分こそが聖女のそばにいるのにふさわしいとか、思ってんじゃねぇん?」


「……そっちの騎士団長に報告するけど?」


「いいぞぉ、マックス、こういう荒事は乗っからないのが大事だぞ〜。いやね、おっさんも首都でよく絡まれたよ……まぁ、だいたい閉じこめて逃げれば100%エスケープ出来たんだけど、そのあとの恨みが酷くてなぁ」


 若い頃の苦労話をしはじめた、おっさんをよそに青年は、ずしずしと顎を突き出してせまってくる。


 チッ、こいつの態度見てるとアインを思い出してイライラしてくるな。


 こいつに俺の何がわかるんだよ。

 

「お前、あわよくばあの聖女様と特別な関係になれるとか、思ってんだろぉ? そうだよなぁ、ヘラヘラしやがってよ」

「あ゛?」


「あ、あれ、マックスー? おっさんの話聞いてたー?


 あぁ、くそ、ダメだ、シャクに触る。


 俺はひとつ息を吸ってはいてーーこの男の挑戦を受けることにした。


「おい、クソ騎士、大人しくしてたら調子乗んなよ。ぶちのめしてやるから、さっさと構えろ」

「っ、なんだよ、恐い顔すんじゃねぇか!」


「へへ、あいつ挑発に乗ったぜ!」

「やっちまえ、パトリック!」

「喧嘩だ喧嘩だァア!」


 ヒートアップしていく周りの騎士たち。


 なんだよ、神威の騎士団って言ったって所詮は腕に覚えのある荒くれ者の集団かよ、


 俺は失望しながら、拳を握りニヤリと笑う男へと相対した。


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