第5話 変質した表層神秘
「じいさん!」
久しぶりに見る恩人の姿に、自然と笑みが溢れる。
「おう、マクスウェルとやら、『
ひとり納得する占い師。
何もかも見透かしたようなこの老人の予想を越えられたことが、我ながら俺を誇らしい気持ちにさせてくれる。
「ぁああー! ちょっと、アンタこのアタシになんて事してくれてんのよ! 気がついたら教会から閉め出されてたの、アンタのせいでしょ!」
ヒステリック気味の裏返った叫び声。シュミーがぷんぷん怒り、占い師へ指を突きつけ詰め寄っていく。
「さぁの。うっかりして、いろいろ巻き込んでしまったようじゃが、『夜の教会』はおぬしがいなくても健在じゃて」
「そういう問題じゃないわよ! おかげで野蛮人にこの
「それも経験じゃ。箱入り女神」
「鬼畜か、このジジイ!?」
容赦も慈悲もない占い師に、ドン引くシュミー。
どうやら彼らは知り合いだったらしい。
「それじゃ、帰るぞい、シュミー。おぬしはどうしようもないわがまま娘じゃが、わしらにとっちゃ、大事な大事な尊き奇跡の
「ふん! 迎えが遅いのよ! はやく来なさいよねー!」
シュミーはそう言って、占い師枯れた手を握る。
俺は何がなんだかわからず、呆然と立ち尽くすばかり。
何か事情があるようだが、いまいち話が見えない。
占い師のじいさんは、俺に会いに来たわけじゃなく、シュミーを迎えに来たのか?
何か有意なアドバイスを俺に渡して、正しい道に導いてくれる妖精みたいなモノだと、勝手に勘違いしていたが、この考えは捨てたほうがよさそうだな。
妖精じゃない、このじいさん。
「ああ、そういえば、マクスウェル! アナタ、仮にもアタシを助けてくれたのよね、食欲のついでに!」
「美味しい果実をあげましたよ。公爵より偉いシュミーさん」
ーーパチン
果実を取りだし、シュミーへ投げ渡す。
シュミーは目を見張り、「ああ、そういう仕組み」と何か納得が言ったように呟き、近寄ってくる。
「ふふ、アナタは気に入ったわ。アタシの初めての外界での知り合いだもの。いいでしょう、女神として、アナタに特別なチカラを授けてあげます」
女神?
ちょいちょい聞こえてたが、シュミーは女神ごっこをしてたのか。
まあ、たしかに、公爵より偉いわな。
「おい、コレ、シュミー。勝手なことをするでない」
ジト目で見つめてくる占い師。
だが、シュミーは意に返さず俺の手を握ってくる。
美しい顔がよってきて、いい香りする。
こんな綺麗な少女に手を握られるなんて、すこしドキドキする。
「はい、これで完了」
「ん? なにか、何かしたのか」
「もちろん。今しがたアナタの内側に新しい〔ミステリィ〕を見出してあげたわ。あのイケすかない女神が汲み取るのは、人間の朝の側面の〔スキル〕。アタシが汲み取る夜の側面は〔ミステリィ〕というわけね」
全然言ってることがわからない。
ただ、フィーリングで何か凄いことをしたのだと理解する。たぶん、二つ目のスキルが解放されたとか?
このシュミー、もしかして本当に女神様なのかもしれないぞ。
「で、えっと、なんて名前のスキルなんだ」
「
「おお、待ってくれ、まだ心の準備が!」
いきなりの出来事に、大きく動揺してしまう。
まさか、この歳になって新しいスキルをもらえる事になるなんて。これ、かなり珍しい事だよな?
ひとりの人間が、ふたつスキル。
なんたる、幸運なんだ。
俺は喜びに高揚していた。
期待を込めて、シュミーのまえにかしづく。
「あなたのスキルの名、それは……………………ぁ、なるほど。ごめん、まだ使えないみたい」
「え? 使えないって、な、なんで……今完全に新しいチカラを手にいれる流れだったのに……」
ズッコケそうになるのを踏みとどまり、シュミーに詰め寄る。
「そら、あれじゃろて。レベルじゃ。おぬしまだ12レベルじゃろ。それじゃ、『
「ひゃ、150レベ!? そ、そんなの、無理だろ……アインでさえ、125レベルなのに……」
気が遠くなるにも程があるだろう。
つまり、そのもうひとつのスキルみたいなのは、実質的に人間には解放できないってことじゃないか。
「ごめん、自信満々にチカラを授けるとか、言って期待持たせてごめん。ちょっと、恥ずかしいから、引きこもらせて」
「だから、勝手なことをするなと。……あー、おぬし、ちと可哀想じゃから、ひとつ教えておいてやろう、マクスウェル」
力なく、占い師のほうへ顔をむける。
「おぬしのスキル、限定法によってその性質が明らかに変質しておる。ずいぶんやれる事が増えたように感じるのう。たぶん、名前も変わっとるんじゃないか? ギルドに戻ったら、確認してみるといい」
占い師はそう言って「んじゃ、頑張れよ」と一言激励を残して、指を弾いた。
すると、視界にずっと捉えていたはずの、シュミーとともに彼の姿はどこかへ消えてしまった。
「相変わらず、おかしなじいさんだ。にしても、俺のスキルが変質した、か。何ができるのか、試してみよう」
焚き火のちかくに腰をおろして、体を温めながら、集中する。
野蛮人の死体が転がるのが、すこしネックだが、薪の弾ける音に耳を傾けてると、心はだんだん穏やかになっていき、雪が頭につもる事など気にしなくなっていた。
俺の持つ世界。
そこに、確かな″乱気流″のようなモノが発生してるのを感じる。
また、何かが力強く生まれてくるような、生命の芽吹きすら感じ取れる。
焚き火の温かさが誘発する、錯覚かと思ったが、どうもそういう訳じゃないらしい。
信じられない、が、これは間違いない。
時間が停止した世界のなかで、
まだ、そのすべてを感知し認識する事は出来ないが、こうして意識を集中すれば、その自然環境の一部をコントロールする事は可能に思えた。
目を開けて頭に降り積もった雪を丸める。
ーーパチン
ポケットの中に収納し、ふたたび指を弾いてポケット開く。
すると、雪の玉は豪速でポケットから射出されて、数十センチ進むこともなく、空気の壁を越えることかなわず、バラバラに砕け散ってしまった。
スキル〔
物を入れて、必要に応じて撃ちだす。
指向性をあたえられた大気圧の力は凄まじい。
占い師のカビたパンから得た着想を、俺はより高次元で実現することができるんだ。
「ふむ、だけど、雪の玉じゃ、まったくダメだな。もっと丈夫なモノがいい」
手ごろな石を収納して、乱気流で撃ちだす。
試しているうちに、俺は最高の相棒を見つけてしまった。
石は木の幹に穴を穿ち、へし折り、気づいたんだ。
ーーパチン
俺は今度は倒れた10メートル級の木を収納。
ポケット内で枝木のついた木の幹を、姿勢を制御、軽快に指を弾いて、ポケットから豪速で撃ちだす。
ーーバギィギィギッッ
「っ!?」
暴風嵐をともなって突き進む
「凄い……! このスキルを極めたら、俺は……戦える。俺はマリーを守ることだって出来る!」
しんしんと雪の降る、深い森の中。
俺は歓喜に打ち震えて、積もった雪に寝転んだ。
俺は、究極の可能性に気がついてしまった。
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