#127 コラボNG
「シャネルカたちはクリスマスライブの練習でしばらくコラボが出来ないのですよ……」
「本当はフラップイヤーで参加したかったんだけど今回はかぐリットでやることになって……、ごめんねくーちゃん」
「収録と練習で忙しい」
「年末だから私と祭ちゃんもスケジュールがギリギリで……。もうちょっと待ってくれたら頑張って時間作れるんだけど、すぐにコラボってなるとちょっとキビシイかな。ごめんね?」
「コラボ募集してるんだって!? ボクはいつでも歓迎だよ! じゃあ早速明日の夜とかどうだい? やっぱり久々のコラボだから雑談が一番かなって思うんだけど、逆にマルチゲームで相性の良さをアピールするのも良いかもね。あれ、黒猫さん? おーい。あれ、返事がないや……。ミュートになってるのかな? でもちゃんと入ってるっぽいし……、黒猫さん? おーい。くろ──」
「え、コラボとか嫌ですよ。だって今の黒猫さんとコラボしても絶対に私まで炎上するじゃないですか。ほら、天猫にゃんってちょっと厄介なリスナーさんが多いでしょ? この前だって私の知らないところで炎上しちゃったし、だから今は余計な火種を抱えたくないと言いますか。あ、でもちゃんと黒猫さんの周りが落ち着いたらコラボ大歓迎なんで、とりあえず今は禊、頑張ってくださいね!」
「コラボー? んー、別にぃ、なぁはしてもいいけどぉ……、くーちゃんの初めてにはもっと大事な人がいるんじゃないかなぁ?」
◆
「人望が、ない……ッ!」
わたしはパソコンの前で頭を抱えていた。
先日の復帰配信で黒猫燦の配信力を鍛えるためにコラボを頑張ると宣言したは良いものの、わたしの持てる人脈を駆使して色んな人に声を掛けたのだが結果は惨敗。
あるてまからはクリスマスや年末の準備でしばらく時間を作れないと言われ、外部には炎上リスクでお断りされてしまった。
そりゃあ今回の炎上はこれまでの不注意な発言やアンチが粗を探して無理矢理燃やしていたパターンと違って、わたしが自分の意志で配信に火をつけてしまったのだから他所の企業所属、或いはもっと立場の弱い個人のVTuberは黒猫燦とコラボすることに躊躇うだろう。
でもまさか、知り合いが全滅という結果になるとは、さすがのわたしも予想外だったなぁ……。
「それもこれも、全部わたしの好感度が低かったせい、かな……」
炎上したら一緒に燃えてやるぜー! って言ってくれるような友人、一人ぐらい作っておくべきだったか……。
いや、もう過ぎたことを考えても仕方がない。
そんな都合の良い友だちなんていないんだし、わたしが考えるべきはここからどうやって配信力を鍛えるか、だ。
もういっそボッチを極めてソロ配信を頑張ろうか、という考えが頭を過るがわたしの課題はコラボのときに消極的になることだからいくらソロ配信をしたところで意味はない。
先輩たちはスケジュールに空きが出来たらコラボしてくれると言っていたけど、繁忙期で一期生がそんなすぐに時間を作れるとは思えないしな……。
配信でコラボに力を入れるとか言った手前、一ヶ月とか間を置くとまたアンチとかに「黒猫燦有言不実行w」とか叩くための餌を与えかねないし、出来れば数日以内に動ける人が望ましい。
だったらあとわたしが頼れる人といえば、
「夏波結、だけか……」
でもなぁ、今回色んな人に声をかけた中で、夏波結にだけは唯一声をかけていなかった。
それはあの日送迎してくれたのにまんまと炎上して帰ってきた気まずさとか、噂のデートってなんだよという思いだったり。
色んな感情が複雑に絡み合って、なかなか連絡を取る勇気が出なかったのだ。
「でも、うん、そうだよな」
甘良なぁに言われた、復帰後の初コラボ。
黒猫燦にとってそれは他の誰でもなく、やっぱり夏波結が一番相応しいのかもしれない。
常に側で見守ってくれて、わたしが初めてオフコラボをするときだってなんだかんだ最後まで付き合ってくれたのが夏波結だ。
だったら、コラボ強化というある種原点回帰の今、やはり最初に頼るべきは夏波結以外に、いない。
「よし、そうと決まったら!」
早速、Discordでメッセージを送る。
内容は短く「今時間ある?」、だ。
流石に送って早々返事があるとは思っていないので、トイレに行って水を取りに──
【Discord】
─────2019年11月26日─────
21:17 黒猫燦 今時間ある?
21:17 夏波結 通話かけるね
「はやっ!?」
監視してたのかっていうぐらい速攻で返事が返ってきた。
いや、これからトイレに行って水も取ってくるつもりだったんだけど……、と思っているとティロンティロンとDiscordの着信音が鳴り始める。
返事すら待たないのか。
これで放置すればネチネチと怒るのが暁湊という人間なので仕方なく通話に応じる。
「も、もしもし?」
「で、なに?」
開口一番、この言いようである。
「べ、別になにも?」
「いやいや、呼び出しておいて何もないはないでしょ」
ぐぅ、まさかこんなに早く通話することになるなんて思ってなかったから心の準備が。
えーっと、コラボに誘う? デートについて聞く? それとも謝罪が先?
あ、頭がぐるぐるしてきた……!
「今宵? ちょっと、急に黙ってどうしたの? おーい」
「ぁうぁぅ」
チャットではなく直接、改めてコラボに誘うとなるとすごく緊張する。
あれを言おうこれを言おうと思い浮かべては言葉が泡のように消えていき、やがて出てきたのは、
「コラボ、してくれませんか……?」
いつかどこかで聞いた言葉だった。
湊は「ふっ」と小さく笑い、
「やだ」
「は、はぁあああ!? 即答!? 普通そこは快くOKするとこだよね!?」
「えー、でもせっかく送ってあげたのに炎上して帰ってきたし」
「うっ、あれは、その、大変申し訳なく思ってますけども……ッ」
「九条さんも事後処理で大変そうにしてたわよ」
止めてくれ、その言葉はわたしに効く。
「ごめんって! 本当にごめんなさい! もう二度としないとは誓えないけど反省してます!」
「そこは誓ってよ」
「いや、軽はずみに誓って痛い目見たくないし」
絶対に炎上しないぞーって意気込んだ結果がアレだったわけだから、やっぱり絶対とか誓ってって言葉は慎重に選ばないと。
「はぁ……。まあ、どうせこうなるだろうなーとは予想してたけど」
「炎上を?」
「いや、コラボの話。先輩たちは特に忙しそうだし、だからって同期に声掛ける度胸はないだろうなって思ってたから」
「うっ」
ま、まあ、たしかに二期生ってちょっと変わり者が多いから初回コラボの候補からは除外してたけど!
「でもなんでもかんでも頼めば私がやってくれると思われるの、癪だしなぁ」
「ぐぬぬ」
湊はこちらをからかうように翻弄してくる。
だ、だったらこっちだって考えがあるし。
「リースに──神代姫穣にコラボ頼む」
「は?」
「湊が断ったって言えば引き受けてくれそうだし、そしたら湊のこと好き勝手コラボで話すもん」
「いや、流石にそれは卑怯でしょ」
「先に意地悪したのそっち!」
「いやいや、え、これ私がお願いされてる側よね?」
ヘッドホン越しにも湊の困惑が伝わってくる。
「コラボするか、しないか! さあどっち!?」
「選択肢があるようでない! あぁもう分かったわよ、コラボすればいいんでしょ! はい、明日? 今から? ほら、そっちで準備して」
「明日の夜に雑談で」
雑談以外の、たとえばゲーム配信をしてしまうとその場合はトークや場の流れをゲームに任せることになってしまう。
今回は基礎的な配信力を高めるのが目的だから、やはり一番効果的なのは雑談だろう。
「いい? 大目に見るのは今回限りだからね。次頼ってきても知らないから」
「またまたぁ」
「なんでそんな御冗談をみたいな流され方してるの……」
そういうことで、一発目のコラボが決まった。
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