#47 【初コラボ】ドラゴンメイドがメイドについて語らせて頂きます【あるてま】
「う、吐きそう……」
緊張で胃がきゅっとする感覚がずっと続いている。
もうマンションの外でかれこれ30分は立ち続けているけど、落ち着かないからって特に見るものがないスマホを付けてはすぐに消すことをもう何度も繰り返していた。
というのも、人待ちをしているというのにその相手がいつ頃に出てくるか知らないのだ。
かなり朝早くから家を出ていることはなんとなく分かるのだが、正確なところが分からないので早めに家を出たのだが……30分も待つのは流石に疲れた。
そろそろもう諦めて学校へ行こうかな、と思った頃。
エントランスの自動扉が静かに開き、待ち人がやって来た。
「あ、あの、黒井、さん!」
「へ? あ、ひゃ、うぇえ!? く、くくく黒音さん!? こんな早朝からどうしたんですか!?」
「あ、えと、その、よ、良かったら一緒に学校行かないかな、って」
さっきまでワタワタしていた黒井さんが、その一言でピシッ、と固まった。
え、あれ、もしかしてミスった? 距離感間違えた??
最近仲良くなったと思ってたの、もしかしてわたしだけだった?
「わ、私が黒音さんと一緒に? 学校へ?」
「う、うん。黒井さんが嫌じゃなければ、だけど……」
「い、嫌じゃないです! でも、なんで私なんかと……」
その気持ちはよく分かる。
コミュ障は基本的に自己肯定力は低いし、自分なんか、と言いがちだ。
今までわたしがそういう素振りを見せなかったのも、黒井さんの困惑に繋がっていることだろう。
でも、わたしは祭先輩のおかげで思い出せた。
長年のぼっちを拗らせて、最近のVtuber生活で現状に満足して忘れていた、わたしの本当の願い。
それは──、
「と、ともだち、と、学校に行くのは、普通のこと、だから」
◆
メイドってなんだろう。
普段はなんの気なしにインターネットで見る属性の一つだが、実際に自分が文化祭でメイドの真似事をすることになってそんな疑問にぶち当たった。
ご奉仕メイドなんてエロスにあふれるワードを聞いてしまうと、なんだか胸がドキドキしてピンク色妄想が捗ってしまうけど、それは流石に本職の人に失礼だし高校の文化祭で
だったら本物のメイドはなんなんだろうか。
例え文化祭の真似事だったとしても、お金を貰うわけなんだからやっぱりキチンとしたい。
そんな最近の活動で芽生えたプロ意識からわたしは、ひとつの名案が浮かんだ。
──あ、そういえば後輩にメイドいたな。
と。
「そういうわけで今日は後輩のクリスティーナ・ルティーヤさんの配信にお邪魔してます、にゃ」
:どういうわけだ
:そういうわけよ
:まさか黒猫さん側から後輩とコラボするなんてな…
:燦、頑張ってるな(後方腕組)
「皆様、ご機嫌麗しゅうございます。あるてま3期生のクリスティーナ・ルティーヤと申します」
「今日は後輩メイドにメイドの極意を学びたいと思いまーす」
:なるほどな
:黒猫さんはメイドになるんか
:安易に属性増やすな
:今更オタクに媚びるな
:ポンコツ猫メイドとか実際すぐクビになる
お、おぉう。
いつにも増してチャットの流れるペースが早いな。
まあ、なんで猫耳JKがわざわざメイドの極意を学ぶんだって話はごもっともである。
でも、文化祭で必要なんだもん! とは流石に言えないよなぁ……。
「えーっと、うーんと、そう、ご奉仕メイドについて造詣を深めようと思って」
:おい
:本物のメイドの前でそういうこと言うな!
:いんきゃっと
「なるほど、黒猫さんはメイドについて偏見をお持ちのようですね」
「あ、や、別にそういうわけじゃ。ただそういうシチュが多いなって」
「では、本日は黒猫さんの間違ったメイド観を矯正する枠、ということでよろしいでしょうか?」
「まっ!?」
:OKです
:ドピンクの思考回路をぜひ直してください
:黒猫清楚化計画指導
あれ!? なんか企画の趣旨が変わってない!?!?!?
「まずはじめに、黒猫さんはメイドがどういうお仕事をするかご存知ですか?」
「ご主人様の寝起きから就寝まで色んなご奉仕をするやつ!」
「………」
:色んなご奉仕(意味深)
:真面目に回答してんのかエロに寄ってるのかわかんねぇ!
:絶対エロなんだよなぁ…
:偏見が過ぎる
「正式なメイドには担当によって呼び方が何種類もあるのですが、皆様が一般的に思い浮かべるメイドと言えばハウスメイド、と呼ばれる役職になります。簡単に言えば特定の担当を持たない万能メイドですね」
「夜のお世話も何でもござれ……」
「色々なメイドの上に立つ役職がハウスキーパーと呼ばれています。メイドの上に立つ、と言えばよく呼ばれるメイド長を思い浮かべがちですが、ハウスキーパーは正確にはメイドではなく使用人なので注意が必要です」
「新人メイドをご主人様と一緒に調教するメイド長……」
「真面目に聞いてます?」
「はい」
「では本日の配信はこの辺りでお開きにしましょうか」
「まって!?」
:おつかれさまでした
:ばいにゃー
:いやぁ、あっという間の2時間でしたね
:ラストシーンで黒猫が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙無しには見られなかった
なんか割とガチのお勉強が始まったからちょっと小粋なジョークで和ませようと思っただけじゃん!
あ、あ、同接減った!? マジかコイツら!?
あたふたするわたしを他所に、クリスティーナ・ルティーヤは「はぁ……」とため息をひとつ吐いて、
「それで、黒猫さんは私に何を聞きたいのでしょうか?」
「あ、えと、メイド喫茶のメイドって何をしたらいいのかな、って」
「メイド喫茶、ですか」
すると、喉を「んんっ」と何度か調整するように咳払いをして、
「おかえりなさいませご主人さま♡」
「うぇっ!?」
クリスティーナ・ルティーヤの声は落ち着いた大人の女性然としたものだった。
それがなんということだろう、今の声は完全にテレビとかでよく聴くメイド喫茶の媚々の萌声だった。
え、人の声ってこんなに変わるものなの……?
:すご
:黒猫さんじゃ絶対に出ない可愛い声出たな……
:燦ちゃん見習って
「私のほうが先輩なんだが!?」
「メイドに出来ないことはございませんので」
澄ました声で言ってくれる……!
「メイド喫茶は特にコンセプトがないのであれば、基本的にご主人様へ媚びていれば問題ありません。たとえ失敗しても可愛らしく謝ればどうとでもなります」
「ぶ、ぶっちゃけるね……」
「まあ、来る方も最初から本物のメイドを求めているわけではありませんから」
:せやな
:ちゃんとしたメイドみたいならヴィクトリアンメイドのカフェ行くわな
:ところでなんで黒猫さんメイド喫茶に興味持ってるの?
:桃色妄想がry
「いやいやいや、あの、ほら、文化祭でメイド喫茶するから……」
言わない方がいいとは思いつつも、この前から文化祭の話をしているし今更かと改める。
そもそもJKVtuberが本当にJKだと思っている人のほうが──この話はやめよう。わたしはJK、誰がなんと言おうと美少女女子高生……!
「なるほど、学校でメイド喫茶をするのですね。では、ひとつアドバイスを。漠然とメイドをやるよりも、自分にあったキャラクターを設定してメイドに望んだほうが何かと上手くいくかと思います」
「自分にあったキャラクター……?」
「何事も目標を明確にした方がやりやすい、ということです」
あー、つまりVtuberと同じことをしろ、と言いたいのだろうか。
確かに、下手によくわからないメイド像のままメイドの真似事をするよりも、ツンデレメイドとかドジっ子メイドとか、ある程度のコンセプトを持たせたほうが役に徹しやすい。
……まあ、黒猫燦という猫キャラすら守れてないわたしが、何かしらのメイドに成れるかは怪しいところだけども。
「試しに幾つかテーマに沿ってメイドの練習を致しましょうか」
「よ、よーし。視聴者どもなんか送ってこい」
:ポンコツメイド
:淫乱メイド
:ドジっ子メイド
:ドスケベメイド
:エロメイド
「おバカ! マトモなの送ってこい!! バカ!!!」
「高校の文化祭ですよね……?」
「あ、はい。だからそういう系は……」
「ではドジっ子メイドの練習でもしましょうか」
「ポンコツじゃないが?????」
「………」
「あぅ」
:先輩にも遠慮ない無言の圧
:前回といい既に先輩としての威厳がゴリゴリ削れてるけど大丈夫?
:大丈夫だ問題ない
「じゃ、じゃあドジっ子メイドしまーす」
ここはバシッと決めて先輩としての威厳を取り戻すしかない!
「はわわ~ご主人様のオムライス落としちゃいました~~」
:0点
:はわわ付ければドジっ子と思うなよ
チェンジで
:新しいオムライスもってこい
「なんっでだよッ!!!」
めっちゃ可愛かったじゃん、自分でもビックリするぐらいうまかったと思うんだけど!
「方向性は兎も角、ロールは確かにお上手ですね。意外と才能がお有りなのでは?」
:黒猫さんは演じられたキャラだった説…?
:ねーわ(断言)
:キャラ作りから最も遠いVtuber筆頭
「視聴者の散々な物言いに最近慣れてきた私がいる……。ところでポンコツとドジっ子って何が違うの?」
「ポンコツは抜けているところがあってドジっ子は失敗が多い、とかではないでしょうか? まあ広義的には同じでいいかも知れませんが」
「う~ん。じゃあこんな感じ、かなぁ」
こほんっ、
「うぇーん、ご主人様のオムライスにライス入れるの忘れてたのですよ~」
:抜けてる違いだねぇ!
:オムライスライス抜きお待ち!
:コイツクビにしろ
:コックさん;;
「ロールメイドって難しいね……」
「練習あるのみ、ですよ」
「一番キライな言葉だ……」
:黒猫さんは嫌いな言葉多いよね
:友情、努力、勝利
:おおよそプラスな言葉が嫌いだな…
:わからんでもないが
「磨けば輝きます。私もお付き合いしますので、頑張りましょう。ね?」
「はぁい……」
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