#31 後で確認しようはだいたい数日して思い出す
湊と連絡を絶ってから一週間が過ぎた。
その間コラボはもちろん、裏で通話やチャットの一つも交わしていない。
何度か「話したい」と打ち込んでは見たものの、それを送信するだけの勇気は湧かず、書いては消すことを繰り返しているうちに気が付けば日曜日になっていた。
「う、うぅ。どうしよう……」
こういう時、相手から切っ掛けを作ってくれるとコミュ障的には助かるのだが、湊は何故か沈黙をずっと守っている。
わたしが気まずくてチャットを送れていないことに絶対に気づいているはずなのに、いつだって困っていると助け舟を出してくれた湊が何故か今回に限って助けてくれない。
何か、怒らせることをしただろうか……。
「みなとぉ……」
思わず寂しさや悲しさから湊の名前を呟いてしまう。
ここ最近はずっとこんな調子だ。
だったらチャットの一つでも送れ、って話なのだがずるずると時間が経つごとに傷が深くなるように気が重くなって……。
「あーもう! なんでわたしがこんなに悩まなきゃいけないんだ! それもこれも全部湊のこと考えるともやもやするのが悪い! わたしは悪くない! 湊が悪い!」
「へぇ、私の何が悪いって?」
「ぴぃっ!?」
急な声に振り替えるとそこには腕組みしながら扉にもたれている湊がいた!
な、なななんでここに!? 連絡とか一切なかったぞ!?
「なんでって顔してるわね。もしかして今日がオフコラボの撮影日って忘れてるんじゃないでしょうね?」
「オフ、コラボ……?」
「はぁ……」
聞き慣れない単語に首を傾げると湊は心底呆れたといった表情で溜息を吐いた。
「2期生全員集まってのコミケお疲れ様動画の撮影、確か毎日連絡行ってたと思うんだけど」
「へ?」
言われて、スマホから確認してみる。
ディスコードには未読のチャットが1週間分溜まっていて……、
「ちなみに1週間前。別れ際に迎えに行くって言ったんだけど、覚えてない?」
「お、おぼえてない……」
そういえば、この企画自体は結構前から持ち上がっていたような気がする。
それこそ、湊から夏コミの話を聞かされてマネージャーに詳細を聞いた時から……。
「はぁ……。確か、夏コミもカラオケ大会も連絡来てたのにスルーしてたのよね。マネージャーさんからの連絡無視、何回目?」
「えと、ご、ゴメンナサイ……」
今まで人と連絡を取って来なかったせいで、ついつい後で確認しようとしてそのまま忘れてしまうことが多々あった。
デビューした頃はそれで何度も注意を受けていたのだが、最近はマネージャーもわたしのことはお見通しらしく、ディスコードやLINEに届く連絡のほか、湊からも通話で直接伝えられるシステムになっていた。
しかし今回はそのシステムが仇となったようだ。
それにしてもあるてまの企画用ディスコードサーバーに入れられて毎日チャットが更新されていたのに、それに一切気づかないってわたしはどれだけ集団行動が出来ないんだ……。
「まだ寝巻だし。時間もないから早く着替えて、ほら早く」
「え、と……」
「どうかしたの?」
いつもわたしが着替える時になると湊は部屋から出ていく。
けど、何故か今日は部屋に一歩足を踏み入れて、じっとそこから動かない。
「あの、部屋から出て欲しい、です……」
「なんで?」
「なんでって、その、着替えるから……」
「いつも気にせず着替えてたでしょ? 時間がないんだから早くしてよ」
「う、うぅー……」
やっぱり怒ってるんだろうか。
いつもならわたしの嫌がることはしないのに、今日はいつにも増して意地悪だ。
「は、はずかしいから。おねがい、でてって……」
「………」
以前は自分の肌を晒すことに抵抗はなかった。
けど、何故か今。湊の前で着替える、と思った瞬間、強烈な羞恥心が襲い掛かってきた。
そして今まで湊の前で晒してきた数々の痴態を思い返して、今すぐ穴に埋まりたい気持ちになった。
全裸どころか、致した姿まで晒してるんだよな……。
うぅ、死にたい……。
「じゃあ、車で待ってるから」
「うん。すぐいくから」
そう言って漸く湊は部屋から出て行ってくれた。
「はぁ……」
出て行ってからたっぷり10秒。
玄関からも出てガチャリと鍵が閉まる音を確認してから大きくため息を吐いて、ベッドに倒れこむ。
なんだかどっと疲れてしまった。
実際に顔を合わせたら、あの気まずさが嘘のようにお喋りできるー、なんて都合のいい展開はなく。普段よりも緊張して最近は湊相手に抜けて来ていたドモリが再発してしまった。
「早く着替えよう……」
憂鬱な気分だが、それでもお仕事はお仕事だ。
2期生全体のオフコラボなんて吐くことは確実だが、それでも今更引き下がることは出来ない。
わたしは重い体を引き摺りながら、着替えることにした。
◆
急いで着替えて湊が待つ車へ向かう。
マメな彼女のことだから、きっと時間に余裕を持った行動をしているのだろうけど何が起こるか分からないので早めに行動するに越したことはない。
「お、お待たせ、しました……」
「……?」
「な、なに?」
「いや、いつもと服装が違うなって思っただけ」
今日はオーソドックスな暗めのジーンズに黒のTシャツだ。
夏真っ盛りな日差しに上下黒は中々暑いけど、我慢だ。
「………」
「な、なんだよぉ……」
じーっとこちらを見てくる湊が怖くて、助手席で思わず体を抱くように縮こまる。
ほ、ほんと何なんだ今日の湊は。
夏の暑さで頭がおかしくなったか!?
「この前よりも暑いのに、露出が減ってる」
「え、と……。別に、深い意味はない、よ?」
嘘だ。
本当は湊の前で肌を晒すのが恥ずかしいだけだ。
今までよくあんな薄着で引っ付いていたなと、改めて思う。
これからは湊の前じゃ慎ましく生きていこう……。
「私は──」
湊がハンドルを握り前を向く。
「前の今宵も、好きだから」
平然と、そう言い切って。
車は目的地へ向けて出発した。
やっぱり夏は、熱い。
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