アイデンティティ

雨季

プロローグ

突然、激しい痛みが胸に広がった。


必死に息をしようと大きく口を開けるが、うまく息ができない。


四肢の先からせりあがってくるように、冷たさを感じた。


視界も急に暗くなり、何も見えなくなった。


そして、何も考えられなくなった。


寒さを感じて、寝返りを打ちながらゆっくりと目を開けた。


呆然と目の前にある木々を見つめた。


なんでここに居るんだろう・・・。


そう思って腕を動かしたとき、胸のあたりが濡れているのに気づき、自分が刺されたことを思い出した。


目を見開いて、必死に胸元を触ったが傷口はどこにもない。


あれは夢だったんじゃ・・・


そう思いかけた時、雲から月が出てきて胸元を照らし、それを否定した。


誰かが・・・・治したのか?


こんな俺を・・・なんのために・・・。


その時、ある人物の顔が浮かんだ。


こんなことをしている場合じゃない。


早く、あいつに会わないと・・・あいつが・・・死ぬ。


狭い空間から外へ出るように、身を乗り出して下を覗いた。


すると、根元に覆いかぶさるように、血まみれのあいつの服が広がって落ちていた。


なんで・・・なんで・・・・。


目から涙が自然と零れ落ち、顔が熱くなるのを感じた。


「なんで!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る