陰キャ時代の幕開け 陰キャが唄う人間賛歌

さんたな先生

第1話 信託

???「あーあー、マイクテスト、マイクテスト。あれ通じよるんかな?おっ!陰キャにしては端正な顔立ちじゃなぁ。今、君の夢の中で話しかけとるけぇそのまま聞いとってな。ええっと君の名前は立花、立花陽希くんだっけ?その名前で陰キャとは名前負けしよっておもしろいのう。長話もたいぎいけぇ早速本題に入ろうか。わしは”始祖の陰キャ”っていいよるもんなんじゃけど、日本中の陰キャにプレゼントを渡そうと思ってな、君が見事陰キャ因子の保有が確認されたけぇその選考に選ばれたというわけね。ああ、陰キャ因子ってのは陰キャ固有のもので、陰キャを惹き合わせるけぇ気に留めといてね。肝心のプレゼントの内容は夢が覚めてからのお楽しみじゃけぇ。……

……おっと、通信が途切れそうじゃけぇまた連絡するけぇ…」




ラノベの読みすぎだろうか、いつにもまして奇妙な夢をみた。フロイトの夢分析によれば夢というのは抑圧された願望の開放を意味するらしいが、まぁ確かに俺は陰キャであることを自覚しているし、その立場に甘んじてもいる。俺にとって陰キャでいることは何よりも心地がいい。なぜなら俺には陽キャみたいな社交性の高さは持ち合わせていないし、積極的に社会参加していくだけの気力もないからだ。

 そんなおれの唯一の趣味は異世界転生ラノベを読み耽ることだ。現実世界ではゲームオーバー同然なので、作中で美少女に囲まれるハーレムを築き上げ社会的地位も確保し承認欲求や自己保存の本能ともに満たされる主人公に感情移入し、現実から逃避するのは一種の快楽である。


そんなくだらない思考を数分続け、時計に目をやると、7時40分の針を指していた。


陽希「あかん遅刻するわ」


私こと立花陽希は現役の高校生1年であり、今日は夏休み明けの登校日となっているが、はっきり言って拷問に等しい。人前に立って話すことが苦手な俺は高校生活初日の自己紹介で盛大にやらかしてしまった。


陽気「立花…あっ…陽希……あっ……です。趣味は……あっ寝ることです…

あっ…よろしくお願いします。」



思い出すだけで死にたくなる。話相手、友達0は当然の帰結であると言えよう。


陽希の母「陽希!!あんた髭ぐらい剃りなさい!浮浪者みたいやで!」


陽希「時間ない学校遅れてまうから剃られへん!」


夏休みの間一度も身なりを整えていないので肩まで伸びた髪が皮脂で黒光りし、無精ひげも生え散らかしているので浮浪者のような見た目であることは理解できるが、遅刻には代えられない。そう思った俺はジャムトーストを頬張り、家を後にした。


家を飛び出したのが7時50分、普段通りの通学ルートならば信号待ちを考慮したうえでチャリでおおよそ45分。ホームルームの始業時間8時30分を5分オーバーしてしまう。遅刻すると生徒指導の教員と相対する必要があり、なおかつクラスメイトの目を引いてしまうので二重の意味で面倒だ。なるべく人から認知されず、平穏に人生を過ごしたい俺の人生観にそぐわない行為だ。したがって俺がとるべき最善の選択肢は信号待ちや遠回りでロスする時間を回避する近道を行くこと。ちなみに近道で行く場合、住宅街の裏路地を忍者のごとく進む必要があるため、住民の方に見つかってしまったなら通報され地域の変質者情報が更新されるがその点は目をつぶろう。

高校に入学してから幾度となく遅刻するかもしれない事案が発生したが、この近道を行けば難なく切り抜けてきた。問題ない過去の前例から5分前には着くはずだ。


陽希「ミッションスタート」


自転車を全力でこぎ始めて10分経過、左右ふくらはぎに鈍い疲労感が襲ってくる。夏休みに自室でひきこもり生活をエンジョイしていたことのつけが回ってきたことを体で痛感させられた。傍から見れば浮浪者がひっしこいた表情で全速力でチャリをこいでることは異常に見えるだろう。制服を着ていなければ、お巡りさんに見つかった瞬間職質されてゲームオーバーである。いや、制服を着ていてもゲームオーバーだろう。


そうこうするうちに20分が経過し、分水嶺の住宅街までたどり着いた。このポイントをいかに要領よく乗り切るかがホームルームに間に合うかどうかを決定づける。その辺に自転車を放置し、住宅のブロック塀をよじ登っていくが、さすがに体に堪える。パルクールを嗜んでいるならこの程度のイージールートは余裕で突破できるのだろうと切に思った。


現時刻8時15分、路地裏のコースも終盤に差し掛かり十字路を左に曲がり、数分走ると校舎の正門にたどり着くことまでは予測できた。


陽希「よし!あとはこの十字路を左に曲がって数分走ればゴール」


左に曲がった先、異変に気付く


陽希「あれ、この角を左に曲がれば、十字路?」


いつもと違うルートを進んでいるのかと最初は考慮したが、それはあり得ない。なぜなら、このルートは幾度となく遅刻を回避してきた最短距離の近道と同様の風景をしていたからである。


陽希「寝ぼけてんのか…」


いいや、それもない。左右ふくらはぎの痛みと全身の疲労感が夢でないこと裏付けている。


とりあえず十字路をまっすぐに進んでみるも、また十字路に迷い込み出れる気配が一向にない。


陽希「なんかおかしいでこれ…」


???「こいつが新たに”始祖の陰キャ”に能力を開花させられたネオ陰キャってわけか。状況の飲み込みの速さは早いようだな。」


陽希「おいだれかいるのか!?なんで俺はここから出られない!?」


???「申し遅れた、私は迷宮(ラビリンス)の山田。単刀直入にいうが君は今私の”ラビリンス”の術中の中にある。君はこの十字路から出たくば、私の”ラビリンス”の法則性を見抜き看破するしか方法はない。君に本当にネオ陰キャとしての資質があるのか試させてもらおう。」



ラノベの読みすぎで現実が侵食され、おかしな夢をみていると陽希は踏んだ。

しかし例え夢の中であろうと、学校に遅刻し幾分か周りに醜態を晒す可能性や見ず知らずの異能者に敗北する屈辱が案外負けず嫌いな陽希の闘志に火をつけた。


陽希「めんどくせぇ…めんどくせぇけど、恥をかくほうがもっとめんどくせぇ!」


























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