「ライバル」「ロボット」

亜中洋

毎日投稿する短編

「俺の名前は源。資源ゴミの源だ」

「ヨロシクオネガイシマス、源サン。ピガッ」

 源はゴミ処理場で分別係として働く男。この道40年になる。

 彼にはライバルがいる。ゴミ分別ロボットの「リサイクるん」だ。


 源はねじり鉢巻をキュッと締め直し、リサイクるんは手首をギュルギュル回す。

 今日も源とリサイクるんの分別勝負が始まる。

 この勝負は個人の争いのスケールに留まらない。

 人間の性能とロボットの性能、どちらが優れているかを審判し、最終的にどちらかが“ゴミ”と判断される誇りをかけた勝負なのだ。


 ベルトコンベアの上を流れてくるゴミに問題がないかチェックする源とリサイクるん。

 科学技術の結晶であるリサイクるんは高性能のカメラでとらえた異物を瞬時に判断、正確な動きで取り除く。

 ベテランの源は長年のカンを働かせ、燃えるゴミの山に埋もれたガラス片をも見つけ出してしまう。

「おっといけねぇ」

 源の口から何かがポロリと落ちる。

「ガガッ、源サン。差シ歯ハ燃エルゴミデスカ? ピガガッ」

 リサイクるんがライトを点滅させて笑う。

「へっ、言うじゃねぇか。・・・・・・ネジは不燃ゴミだからな、気をつけな」

「ピガッ」

 リサイクるんは腰の道具入れからドライバーを取り出して自分の緩くなっていたネジを締めた。

「へへっ」

「ピピッ」

 今日の勝負は引き分けのようだ。


 次の日、源が出勤すると、リサイクるんが解体されていた。

「ああーっ!? 何やってんだ!」

 源が驚いて駆け寄ると、作業を見ていた所長がにこやかに話し出した。

「新しく性能の良い焼却炉を導入してね、もう分別は必要無いんだ。源さんも歳だし、事務所でのんびりしてなよ」


 源はベルトコンベアの上の相棒を見送ることしか出来なかった。

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「ライバル」「ロボット」 亜中洋 @anakayo

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