第19話

 「あなたがまた妻の数を増やしたせいで、更に順番待ちが長くなったわね。

・・でもまあ、こうして色々と工夫して、誠意を見せてもくれるから、今の所はそう不満に感じないわ」


布団に横たわる紫桜が、和也の首筋に時折唇を這わせながら、そう告げてくる。


人ではないので、何度やっても痕にはならず、お目当てのキスマークは作れない。


2日前から、ずっと二人で過ごしているが、和也がその間の時間を止め、二人以外は時の感覚を感じられないせいで、表向きには、ほとんど時の経過がない。


エリカ曰く、ある程度の逢瀬を重ねれば、その内自然と落ち着いてくるという事だが、紫桜とのそれは、プロテクトを外した状態のものを除けば、六人の内で最も密度が濃い。


普段は清楚な大和撫子のようにしか見えないのだが、和也と睦み合う時だけは、全く別の顔を見せる。


品の良さは変わらないが、そこに妖しげな艶が加わり、和也を魅了し続ける。


その独特な視線は、長く女性ひとから求められる事を望んできた和也の心を未だ捉えて放さず、必死な中にも溢れる愛おしさを添えて縋り付いてくる両の腕が、和也に生を実感させる。


意識を取り戻した後には、こうしてじゃれついてくるので、それもまた、微笑ましかった。


「まだ他に欲しいものがないのか?」


何時ぞや有紗と二人でそんな事を言っていたのを思い出し、そう尋ねてみる。


「逆にあったとしたら、それはそれで問題じゃないの?」


「何故だ?」


「だってその『もの』は、あなたとのこの時間と同等か、それ以上だと言っている訳でしょう?

ここまでの能力を貰って、自分で獲得する事なしに、安易にあなたにものを強請ねだるなんて、どうなのかしら?

ずっと一緒に居られない後ろめたさから差し出す貢物の積りで、そう聴いているのではないのでしょう?」


「も・・勿論」


「・・今、間があったわね」


「に、日本の企業戦士を嘗めて貰っては困るな。

大切な人の為なら、仮令疲れていても、ドリンク剤1本で24時間闘えるぞ」


「何の事?

それにあなた、ビジネスマンじゃないじゃない」


「一応、グループの会長なんだが・・」


「お飾りでしょ。

ほとんどは有紗さん任せでしょうに」


「・・・」


「冗談よ。

あなたが世のために色々と頑張っている事、ちゃんと知ってるし。

こうして会えない時は、暇を見つけては、あなたの事を見ているから。

時々、プロテクトに邪魔されるけどね」


紫桜が顔を上げ、その顔を隠すように流れる髪を片手で抑えて、瞳をじっと覗き込んでくる。


「あなたが1番愛している人は誰?」


「今は紫桜」


「一言余計なのよ」


彼女の貪るような口づけと共に、また二人だけの無言の時が流れ出した。



 「お前はどんな星が欲しい?」


入浴後、部屋の小窓を開けて、陽光を入れ、風を通す。


再び時が流れ始めた世界に、様々な音と香りが舞い込む。


「別に要らないのだけれど・・」


「何?

・・何故だ?」


「だって管理が面倒じゃない。

自分の物になったら、増してやあなたからの贈り物なら、ずっと大切に守っていかないといけなくなるもの。

星1つを常に見守るなんて、わたくし一人じゃ無理よ」


「別に敢えて何かする必要はないぞ?

やりたければ自分好みに色々手を加えても良いが、面倒なら放っておいても構わん。

登録だけして、放置している間に強くなる。

今はそんなゲームすら存在するのだから」


「またゲームの話?

あなた、最近少しやり過ぎではないかしら?

それに時間を取られて、わたくし達との時間が減るのは戴けないわよ?

何処かの自治体みたいに、1日にやって良い時間を制限してあげましょうか(有紗の家に居る時、紫桜は熱心に新聞やニュースを見ている)?」


「そうしたら、時間を止めてやるだけの話だ。

自分には全く無意味だな、フッ」


「何勝ち誇っているのよ、もう。

何でそんなにゲームが好きなの?

可愛い女の子との恋愛は、わたくし達で十分間に合っているでしょう?

只でさえハーレムルートなんだから」


頬を膨らませてそう告げる紫桜。


「別に女子の攻略がメインではない。

ゲームの中では、自分は力を制限する事なく、思い切り遊べる。

必死にレベルを上げ、隠されたアイテムを探し回り、製作者と知恵比べしながら先へ進んで行ける。

敵を幾ら倒しても実際に殺す訳ではないし、何度もチャレンジして出したレアアイテムは、仮令それが大した価値がない物でも、やはり嬉しいものだ。

難点は、戦闘に特化したものばかりやっていると、ただ敵として設定されている相手の心の痛みを忘れがちになるという事だが、自分なら大丈夫だと自負している。

自分は、向こうから何もしてこない相手には、イベントでどうしてもそれが必要な場合を除き、攻撃しない。

ただその辺を歩いているだけの人や動物に、経験値目当てに攻撃したりしない。

まあその分、中々レベルが上がらず、戦う際は往々にして自分より格上の相手になりがちなのだが・・」


「呆れた。

何をそんなに熱く語っているの?

普段は凛々しいのに、自分の好きなものを話す時には、人と大して変わらないのね」


「そう言いながら、微笑んでくれるお前が好きだ」


「それはまあ、惚れた弱みだから・・。

話を戻すけど、わたくし達に1つずつ星を与える意味は何かしら?

そこに住めという事なの?」


「そうしたいならそれでも良い。

真の目的は、自分の眷族にした者達が、その後の長い時間を持て余さないよう、旅行したり、住み替えたりする場所を、色々と用意してやろうと考えたからだ。

別にどの星に行っても良いのだが、お前達が管理する場所なら、何かと融通が利くからな」


「わたくしは今の所、一人じゃ何もする気は無いわよ?」


「自らが選んだ上で、そこに赴き、暫し時を過ごすだけでも愛着は湧く。

急ぐ必要はないのだ。

時間をかけて、気が向いた時にでも覗いてみれば良い」


「手伝ってくれる気は無いの?」


「それでは楽しみが減るではないか」


「・・エリカさんの星には、あんなに手出しをしているのに?」


紫桜が、僅かに目を細めてじっと見てくる。


「それは、・・予想外に妻の数が増えて、その対処をしていた結果だから・・」


彼女の瞳に更なる圧力が加わる。


「・・お前の星が決まったら、後で二人で見に行こう」


「約束よ?」


「分った」


途端に口元をほころばせる紫桜。


「楽しみね」


何だか嵌められた気がしないでもないが、嬉しそうに笑う彼女を見ると、苦笑しか湧かない和也であった。



 「ようこそお越し下さいました。

ご主人様の城をお預かりする、メイド長のエレナでございます」


休暇以外では、この城に人が集まる時にだけ、スノーマリーの管理者の任を解かれてここに来れる彼女が、初対面のアリアとヴィクトリアに向けて、そう挨拶する。


「初めまして。

アリアです。

宜しくお願いします」


「初めてお目にかかります。

ヴィクトリアと申します。

宜しくお願い致します」


エリカと三人でここに転移してきた二人が、緊張気味にそう返事を返す。


見た事もない程広大で、荘厳な空間。


王族のヴィクトリアでさえ、思わず息を呑む程の、贅を尽くした広間。


直ぐ目に付く玉座と、それに左右から連なる3脚ずつの椅子。


玉座は言うに及ばず、他の椅子も皆、何かしらの貴金属で作られ、精巧な模様が彫られている。


天井は精密なタッチの絵画で埋め尽くされ、それが一連の物語のように、見る者に語りかける。


壁沿いには、段差が設けられた台の上に、幾つもの彫像が並ぶ。


まるで人をそのまま石化したように、本物そっくりで、年齢も性別も様々な者達が列を成している。


椅子の中に己の模様を見つけたヴィクトリアと、像の中に自分そっくりの物を見つけたアリアが、僅かに口元をほころばせる。


それまで黙っていたエリカが、嬉しそうにエレナに話しかけた。


「旦那様、ここを改装なされたのね」


「はい。

お仲間が増えた事をお喜びになり、少し手をお加えになられました。

壁際に並ぶ像は、眷族としてお迎えになられた(なる予定の)方々の、今のお姿を模しております」


そう言われて、エレナを除く三人は、一頻り像を眺める。


夫婦のように寄り添う像もあれば、壮年を過ぎた像もあり、それらはまだ、眷族化していない方々なのだと想像がつく。


エリカでさえ、知らない者が数名居る。


「他の方々は既にいらしてるの?」


「はい。

食堂にて、お茶を楽しまれておいでです」


「そう。

ではご挨拶に向かいましょうか」


「畏まりました」


案内するエレナの後を、三人が静かに付いて行く。


途中途中でその施設の大きさと豪華さに圧倒されながら、無言で足を動かす二人。


「こちらでございます」


初めて来城した二人に向けて、エレナが扉に手を差し向ける。


「失礼致します。

他の皆様がお見えになりました」


ノックの後、徐に扉を開くエレナ。


その向こう側には、椅子から立ち上がり、彼女達三人を迎える、他の妻達の姿があった。


「お久し振り、エリカさん。

そちらのお二人も初めまして。

花月紫桜と申します」


黒い和服を着た彼女が、にっこりと微笑む。


自分達の大陸には居ない、初めて見る容貌の彼女に、暫し見惚れる二人。


エリカの美しさに驚いた二人だが、彼女だけは別格だと思っていただけに、その漆黒の艶のある髪と、清楚な大和撫子風の容貌に、咄嗟に言葉が出ない。


エリカとはまた別の方向に突き抜けた美しさを持っている。


「初めまして。

マリーと申します。

エリカ様に代わってスノーマリーをお守りする、旦那様の妻の一人です。

宜しくお願いします」


間が開いてしまった二人に向け、プラチナブロンドの髪を伸ばした美しいエルフが、そう挨拶する。


「初めまして。

香月有紗と申します。

旦那様に地球の管理を任された、妻の一人です。

仲良くしていただけたら嬉しいです」


この女性もまた、初めて見る服装をしている。


とても軽やかで、それでいてエレガント。


上品な服を完璧に着こなし、柔らかな表情が、良家の令嬢を思わせる。


先程彫像で見た姿だが、本人は、その何倍も精気と活力に溢れ、それが一層美しさを引き立たせている。


「は、初めまして。

アリアです。

どうぞ宜しくお願いします」


いつもの気さくな彼女にしては珍しい程、緊張でガチガチになっている。


「皆様、お初にお目にかかります。

この度縁あって、旦那様の妻の末席に加えていただきました、ヴィクトリアと申します。

どうぞ宜しくお願い致します」


こちらは多少こういう挨拶に慣れているだけあって、少し硬いながらもそつが無い。


「ご挨拶も済んだ事だし、堅苦しいお話はこの辺にして、皆でお茶に致しましょう。

有紗さんがいらしてるというからには、今回も期待して良いのかしら?」


エリカが茶目っ気たっぷりに笑う。


「ええ、勿論です。

色々とご用意致しておりますよ?」


有紗が釣られて微笑む。


以前、その手伝いで地球に入り浸りだった和也だが、それを申し訳なく感じていた有紗が、他の妻達の為に、地球の様々なスイーツを、和也から送って貰っていたのだ。


エリカは過度に心配する和也から、未だに地球に行く事を制限されているので(有紗の住む建物の中以外は駄目)、時々そのリングの収納スペースに送られてくるスイーツの数々を、とても喜んでいた。


地球の職人達が精魂込めて作る和菓子や洋菓子は、アイスクリームと共に妻達から絶大な支持を集めている。


怖ず怖ずとしながらも、どうにかその輪の中に溶け込んだ新参二人を囲んで、暫し、和やかな時間が過ぎた。



 皆の気分が解れた後は、恒例のゲーム大会である。


和也に感化されたエリカが結構好きなので、妻達が数人集まると、暇な時は大抵数時間はやっている。


エリカが好きなのは恋愛シュミレーションだが、マリーは戦術もののアクションゲームを好み、有紗はノベライズ形式の、読ませるゲームを好んでやる。


紫桜は、エリカとはまた違った意味で、恋愛ものを好む。


彼女のやり方は独特だ。


先ず第1に、主人公の顔が表示されないもので(これは絶対条件)、その名前を好きに変えられるものを選ぶ。


そしてその名を『御剣和也』と変更した上で、言い寄って来る女性達が絶対に好まないような選択肢を選んでいくのだ。


例えば、『私って、可愛いかな?』なんて、はにかみながら尋ねてくるヒロイン候補には、『もっと可愛い子、他にいるし・・』というような、酷い選択肢を敢えて選ぶ。


当然、誰とも上手くいく訳はないのだが、彼女にとってはそれで良いのだ。


エンディングを迎え、一人寂しく自宅でゲームする主人公を画面上で眺めては、ほくそ笑むのである。


以前、エリカが何故そんな事をするのかと尋ねたところ、彼女は言った。


『だってわたくし達以外に、彼に女なんて必要ないでしょう?でも、流石に『えりか(漢字、カタカナ問わず)』という名前のヒロイン候補だけには、それ程冷たくしていないわよ?』


聴いたエリカは苦笑いしていたという。


今回も、一人一台のゲーム機を使って、其々が好きなゲームを楽しみ、時々他の人のやってるものを覗いては、あれこれ感想を言い合っていた。


因みにアリアは、和也が家でゲームをしていたからその認識があり、水着姿の女子同士が戦う格闘ゲームを楽しめたが、ヴィクトリアに至っては全くの初めてであったので、エリカのやるゲームを一緒に見ていて、大体のやり方を覚えた後、途中から交代して貰っていた。


日本の現代の若者達の生態に、酷く驚いてはいたが・・。



 エレナが用意した夕食を堪能した後は、妻達全員でのお風呂タイムである。


ヴィクトリア曰く、『うちの城の何倍もあるわ』というローマ式の大浴場に、六人全員が身を沈める。


お互いに、和也の妻としての自信と自覚があるから、タオル等で無闇に身体を隠すような真似はしない。


それまでは何処か遠慮がちであったアリアとヴィクトリアも、この時ばかりは堂々としている。


「貴女、随分胸が大きいのね」


紫桜が、早速ヴィクトリアに目を付ける。


「・・少し、触ってみても良いかしら?」


「え?

・・ええ、少しくらいなら」


「御免なさいね。

旦那様が胸の大きながお好きだから、彼女、人一倍そこが気になるらしいの。

自分だって随分大きいのにね」


自身も紫桜に触れられた経験のある有紗が、ヴィクトリアにそう執り成している。


「・・一体何を食べたらこんなになるのかしらね?」


心なし、悔しそうに手を放す紫桜。


「旦那様は女性の身体を芸術としてご覧になっていますから、大きさより、寧ろ全体のバランスを重視なさいますよ、きっと?」


マリーが珍しく、胸の事で意見を述べる。


和也に何度も愛され、少しずつ大きくなり始めた自身の胸に、漸くコンプレックスがなくなってきた彼女である。


それまででも十分に美しく映えるのだが、巨乳揃いの妻達の中で、やはり少し、含む所があったらしい。


「貴女は背も大きいから、その内もっと大きくなりそうね」


紫桜が羨ましそうにマリーの胸に視線を送る。


「まあまあ、皆さん其々にお美しいのですから、この場にもっと相応しいお話を致しませんか?」


エリカがそう提案する。


「はい!」


有紗が透かさず手を挙げた。


「皆さんの彼への予約日が、もっとはっきりと分るようなシステム作りをしませんか?」


地球で忙しく働く彼女は、クリスマスという優先日以外、他の皆より予約が取り辛くなっている。


「・・そうねえ、確かにこの頃、少し分り辛いわよね。

わたくし達以外にも、それを望む眷族の方々が複数いらっしゃるし・・」


紫桜が同意する。


「あの、済みません。

私達が加わったせいで、余計にややこしくしてしまって・・」


アリアが申し訳なさそうに口を開く。


「それは気にする必要はないわ。

旦那様が認めた以上、わたくし達は皆対等な存在。

その順番が後でも先でも、妻の一員になったのなら、堂々と主張して良い事よ。

わたくし達が常に気を配らねばならないのは、彼に恥じない生き方をするという事だけ」


紫桜がそうはっきり告げると、エリカが微笑み、マリーと有紗が頷く。


「皆さん、どうしてそこまで達観しておられるのですか?

普通、ご自分の夫に他の女性ができれば、あまり良い気はしないのでは?」


王宮で様々な男女関係を見聞きしてきたヴィクトリアには、エリカを含めた、この四人の態度が寛大過ぎるように思える。


「今の貴女達の立場を、自身の身に置き換えてみれば分ります」


マリーが口を開く。


「わたくしは、運良く2番目に旦那様の妻となる事ができました。

ですが、もし旦那様が最初の妻であるエリカ様だけを愛し、それ以外の女性をエリカ様に義理立てして拒んだとすれば、わたくしは当然、想いを遂げる事ができませんでした。

お幸せそうなお二人を傍で見つめながら、決して報われぬ想いを抱え、偽りの笑顔を浮かべながら枯れていったでしょう。

旦那様の他に愛せる男性がいるなら、その可能性があるなら、何時かは救われるかもしれません。

でももしそれができないなら、愛する人との肉体的な触れ合いを、一切諦めねばなりません。

旦那様に抱かれて味わったあの気持ち、そこで得られたあの感覚を、全て放棄しなければならないのです。

・・わたくしは、旦那様の『器』ではありません。

そのわたくしでさえ、もしあの時、旦那様に受け入れていただけなかったら、そう考えるだけで、未だに震えがきます。

旦那様に愛され、可愛がられている今のわたくしでさえ、そう感じるのです。

『器』であるのに見向きもされなかったら、仮令『器』でなくとも、触れてさえ貰えなかったとしたら、その方々の心の痛みは一体如何許りか・・・。

人の生は、ゲームのようにはいきません。

幾人もの女性と関りを持ち、その好意を受けておきながら、相手を一人に絞った瞬間、他の全ての女性達が突然消え去るような、そんな都合の良い物語のようにもいきません。

受け入れて貰えなかった相手にも、其々の出会いがあり、心惹かれる出来事が存在し、決して忘れられぬ想いがあるのです。

自分が勝者になったから、自分以外の女性はどうでも良い。

旦那様の妻の中で、もしそんな考えが許されるとしたら、それは最初の妻であるエリカ様だけです。

そのエリカ様がお認めになられていらっしゃる以上、新たに加わった貴女方が、何を気にする必要も、非難を受ける謂れもありません」


「・・有難うございます。

今のお言葉、肝に銘じておきますわ」


ヴィクトリアの言葉に、アリアも深く頷いている。


「旦那様は幸せですね。

こんなに素敵な方々が、これ程までに思って下さるのですから・・。

わたくしも、もっと頑張らないと」


「いえ、貴女はそのままでいて下さい」


エリカの呟きに、紫桜が反応する。


「どうしてですか?」


「わたくし達の順番が、ずっと回って来なくなりそうだから」


「・・・」


他の皆が一様に頷く様子を見せられたエリカは、ただ苦笑するしかなかった。



 「エリカ様、今宜しいでしょうか?」


風呂から上がった彼女らに、待ち構えていたエレナが透かさず声をかける。


「どうしたの?」


少し緊張しているように見える彼女に、自身も真面目な表情で尋ねるエリカ。


「謁見の間にある大魔法陣、そのエリカ様が管理なさる星の位置が、先程から点滅を繰り返しております」


「・・直ぐに向かいましょう」


大魔法陣の中に、まるで時計の文字盤のように並ぶ、12の小さな魔法陣。


その1つ1つが妻達が管理する星を象徴し、それが点滅する時は、その星に重大な何かが起こる事を表している。


エリカは歩きながら、念話で和也に連絡を入れる。


『あなた、今からこちらに来れますか?』


返事は直ぐにあった。


『こちらでも確認した。

今からそちらに向かう。

他の皆も揃っているな?』


『はい』


一体何事だろう?


折角の皆との時間を邪魔され、エリカは珍しく、少し怒ってもいた。

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