番外編 異国の地にて その1

 『前略

妹よ。

お前はこの国に絶対に来るな。

ここは俺達の理想郷ではなかった。

俺達が憧れたこの国の姿は、幻でしかなかった。

俺は今、時給にして500円以下でこき使われている。

朝8時から夜11時まで働かされ、休みは週に1日あるかないかだ。

しかも、そうやって稼いだ額の中から、住居費や食費の名目で、毎月10万円近くが天引きされている。

粗末な狭い部屋に皆で雑魚寝して、陸なおかずもない食事しか出ないのにだ。

この国には最低賃金というものがあるはずだが、ここではそんなものは公然と無視されている。

後で証拠が残らないよう、給与明細すら貰えないのだ。

大方、俺達は、役所が取り締まりに来るまでの、使い捨ての駒なのだろう。

ここに来てもう直ぐ1年になるが、その間に六人が死に(その内の四人は自殺)、十三人が逃げ出した。

俺もこれから逃げようと思う。

こんな所にあと4年も居たら、何時か必ず俺も死ぬ。

お前から、親父とお袋に謝っといてくれ。

この国に来る時に、斡旋業者に支払うために借りた100万円の残りは、何時か必ず返す。

次の仕事が見つかるまでは、これが最後の仕送りになる。

・・お前の誕生日に、プレゼントを送ってやれなくて御免な。

手取りで6万円もない給料では、親父への返済に充てる4万が精一杯の額なんだ。

落ち着いたら、また連絡する。

尤も、何時になるか分らんがな』



 【まったり農園】


それが、若夫婦二人で切り盛りする広い農場の名前である。


3年前、この農場は経営の危機に瀕していた。


あと1年住めば自治体から無償で貰える土地を前に、引っ越すかどうかの瀬戸際まで追い詰められていた。


だが、ふらりと訪れた若者によって、2年間、毎月20万円の定期購入を約束され、どうにか持ち越す。


その後は、二人でそれまで以上に精を出し、様々な勉強会にも参加して知識を蓄え、少しずつ農園を大きくしてきた。


人口三千人程度の小さな村では過疎化と高齢化が進み、年老いて自分達の畑を維持できなくなる人が出始める。


若夫婦は、そういった者達の農地を買い受けては、その土地の元の持ち主を臨時に雇い、一緒に仕事をしながら、己の技術を向上させると共に、地域に溶け込んできた。


今や10ヘクタールにも及ぶ広大な農地を保有する二人であるが、その土地の購入資金は全てある一人の人物から無利息で借り受けており、その総額は約9000万円。


辺鄙な田舎で何もない場所の、耕作放棄地ならではの金額で、都市部の通常の農地ならその4倍くらいはするであろう。


だがそれでも、農業を始めて間も無い二人が、無利息といえど借りようと思うような金額ではない。


そこには、幾つかの要素が絡んでいた。


先ず3年前、和也と月20万円の契約で野菜作りに励んだ夫婦であったが、これが結構大変であった。


自分達の1ヘクタールにも満たない土地では、毎月出荷するという前提では作る品種が限られてしまい、連作障害を回避しながら土を休ませる事も容易ではない。


ネットで日々猛勉強しながら励んだが、以前からの僅かな取引先と自分達が消費する分を除くと、3か月後には20万円分に相当する野菜が足らなくなった。


人としての品性を大事にする意味もあって農業を始めたこの二人には、その時の野菜の単価を釣り上げて出荷するというような考えは毛頭なく、頭を抱えていた所に、ふらりと和也が訪ねて来る。


そして、契約の変更を提案してきた。


その内容は、毎月の契約金を30万円に引き上げる事と、満足な量が確保できた時にだけ、不定期に送ってくれれば良いというもの。


更に、隣の家が農地を手放したいようだからと、購入の仲立ちを頼まれる。


お婆さんの一人暮らしで、引っ越してきてから何かと気にかけていたせいもあり、とてもスムーズに売買交渉が進み、若い世代が農業に携わる事を歓迎する農業委員会の許可も得て、登記の移転手続き後、仲立ちの謝礼として、和也が購入した農地を丸ごと、5年間無償で貸し出される。


その結果、夫婦の使える農地は倍以上の2ヘクタールになり、緊急家族会議をした夫婦は、以後、和也専用の作物を作る事に専念し、他の取引先を全て断った。


元々、月に10万円にもならず、時々かなり値切られていただけに、夫婦の決断は早く、自分達に有り得ないくらいに手を差し延べてくれる和也の為だけに、努力していく道を選んだ。


そして、契約に甘えず、できるだけ質の良い野菜を、毎月きちんと発送し、手の空いた時には様々な講習会や研究会に顔を出し、その日の夜は互いに勉強した成果を話し合って、次に活かしてきた。


和也との最初の契約から1年後、つまり、契約更改から9か月後に、若い夫婦が農園を訪ねてくる。


何でも、都心でレストランを経営しているそうで、知人から毎月頂く野菜が凄く美味しいので、その生産者に直に会ってみたくなったそうだ。


その知人が誰かは教えて貰えなかったが、できれば今後、取引したいと申し出てくれた。


だが、今の自分達があるのは、とある恩人のお陰であり、今はその人の為にだけ励んでいる旨を伝えると、その夫婦は自分達にも思い当たる事があるかのように、しきりに頷いて、『その気になったら連絡を』と言い残し、メモを残して去って行った。


数日後、何故か和也から再度の契約更改を提案され、毎月の契約金が50万円になり、発送する量がかなり増えた。


その後も、試行錯誤と努力を重ね、必要に迫られる度に、和也から契約更改や農地買収の仲立ちを依頼され、和也が買い取った農地を無償で貸し出して貰っている内に、3年後の今では、10ヘクタールの広大な農地を管理するに至る。


そしてそれを機に、和也が更なる提案をしてきた。


自分達に貸し出している農地を使って非上場の株式会社を作りたいから、そこの社長にならないかと。


何でも、これからの時代に必要な措置で、形だけはそうするが、経営方法等はこれまで通りに全てこちらに任せるし、毎月の契約金を代表取締役としての年俸に変え、使える経費も増えるので、色々と便利になるという。


因みに、年俸は1500万円を提示された。


若い夫婦にとっては願ってもない条件であったが、ここでまた、彼らは緊急家族会議を開く。


今後もずっと和也の厚意に甘えるだけで良いのか。


彼の恩に報いるためにも、対等な立場に立ち、経営責任を自分達で取るべきではないのか。


数時間に及ぶ話し合いの末、二人は和也から全農地を買い受け、株式会社化した上で、今まで通り、自分達で農業を営む道を選ぶ。


勿論、最優先の取引先は和也であるし、今や彼だけで月100万円の取引があるから、当面は彼だけとの取引に専念するという方針も、変える積りはない。


問題は、和也からの土地の購入資金をどうするかであったが、己の提案の答えを聞きに来た和也に、自分達の考えを告げると、それならと、会社の資本金を1億円にし、発行株式数を100にして、その内の90を土地の代金の代わりに引き受けると再提案される。


非上場だし、株には譲渡制限を設け、更には、資金に余裕がある時に、1株単位での買い取りに応じる旨の特約を付ければ問題ないだろうと、経営権の不安にも対応してくれた。


形式的には和也に株を売った形になるので、厳密には借金ではないが、何時か彼から全ての株を買い戻し、その内の半分を、今までのお礼にと和也にプレゼントする事を夢見る若夫婦の気持ち的には借金であり、それと同時に、その額の大きさが、彼らの気を常に引き締めてくれる。


農業とは、自然との共生であり、闘いでもある。


天候に左右され易く、無農薬の有機栽培ならではの、病気や害虫の心配もある。


しかも、臨時の手伝いを除けば、現在は正式な従業員は自分達二人だけであり、基本的に休日はない。


そんな、人によっては挫けそうな条件の下でも、夢を追い求め、人間らしく心にゆとりを持って暮らしたいと願う二人には、理想に近い生活なのだった。



 『腹減ったな』


闇に紛れて実習先の会社を逃げ出し、着の身着のままで夜道を歩き、道端に捨てるように停めてあった自転車を拝借して街道をひた走ること約4時間。


コンビニのトイレを借りる序でになけなしの金で買った肉まんを頬張り、更に西へと向かう。


追っては来ないだろうが、とにかくあの場所から少しでも遠くに行きたくて、疲れを押してがむしゃらに自転車のペダルを漕ぐ。


途中途中で何度もコンビニにお世話になりながら、一体どれくらい走ったであろう?


やがて周囲の景色が変わり始め、工業地帯だったあの場所から、長閑な田園風景が見られる場所までくる頃には、3日が経過していた。


暖かな気温が幸いし、野宿しても風邪をひく事もなく、昼飯にしようと立ち寄ったコンビニで財布の中身を見て、少し心細くなる。


そこには、あと3000円しかなかった。


次の仕事先の当てもないまま、とりあえず逃げて来たが、このままではあと数日で金が尽きる。


かといって、住む場所もない、外国人の自分を簡単に採用してくれる仕事先など、そう見つかるはずもない。


やはり、サポートセンターとやらに助けを求めた方が良かったか。


だが、その正式名称も、何処にあるのかも分らない。


あの職場では、皆が逃げ出さないように、新聞も読ませてくれなかったし、スマホも禁止されていた。


自分より先に逃げた者達は、親や友人に手紙を送って、こっそり情報を得ていたようだが、家族に余計な心配をかけたくなかった自分は、それすらしてこなかった。


とりあえず、腰を下ろし、コンビニの壁に寄りかかって、疲れを取る。


何か食わせろと、腹の虫が五月蠅くなってきたそんな時、自分の視界を遮る、一人の男が現れた。


「腹が減っているのか?」


全身黒ずくめの、まだ十代に見える少年が、自分を見下ろすように立っている。


手にバットを持っていない事から、噂に聞く、おやじ狩りではないようだ。


尤も、自分はまだそんな歳ではないが。


一見、自分を見下すように見える彼の眼差しには、侮蔑の色は微塵もなく、不思議な温かさを感じさせるものがある。


この国に来て、他人を警戒する癖がついた自分だが、何故か彼には胡散臭さを感じずに、素直になれた。


言葉を発する代わりに、頷いてみる。


すると彼は、一人でコンビニの中へと入って行き、暫くして、手にしたコンビニの袋を差し出してきた。


恐る恐るそれを受け取る。


袋の中には、温かな弁当が3つと、お茶のペットボトルが1本、入れられていた。


「遠慮なく食べてくれ」


自らも自分の傍らに腰を下ろした少年が、そう告げてくる。


この3日、何度もコンビニに立ち寄ったが、お金の心配もあり、何百円もする高価な弁当には手が出せなかった。


お礼も陸に言わず、夢中で弁当をかき込む。


食べている内に、何故か涙が溢れてきた。


「足りなかったらまた買ってくるから、腹一杯食べてくれ」


その言葉に甘え、あと2つ追加して貰った。



 「それで、どうして逃げてるんだ?」


弁当を食べ終え、お茶を飲んで一息ついた頃、少年が聴いてきた。


「無理に答える必要はないが、もしかしたら力になれるかもしれないぞ?」


図星をさされて言い淀む自分に向けて、少年が自然体でそう告げてくる。


人に対して不信感を抱き始めた自分に、何か下心があるのではと勘繰らせる事さえさせない、澄んだ瞳。


愛想笑いさえしない彼だが、興味本位だけで聴いているのではないと確信できるその表情。


自分の少し荒んだ心が自然に開いていく。


「・・俺はこの国に、実習生としてやって来た。

豊かなこの国で金を稼いで、親や妹に楽をさせてやりたかったんだ。

・・だが、憧れていたこの国は、この1年で俺に様々な失望を齎した。

全ては幻想、夢幻ゆめまぼろしでしかなかった。

あそこには、良い思い出など1つもない。

皆自分の事しか考えず、荒んでぎらついた眼をした奴ばかりだった。

・・だから、逃げて来たんだ。

あそこに居続ければ、きっと俺も死者の仲間入りだ。

俺はまだ死ぬ訳にはいかない。

親に恩を返し、妹の晴れ姿を見るまでは、決して死ねないんだ!」


そう言って、静かに聴いている少年の方を横目でちらりと見ると、彼は悲しそうな、切なそうな、何とも言えない表情で、日差しの穏やかな空を見上げていた。


「まだこの国で働く意欲は有るのか?」


少年が静かに尋ねてくる。


「金が無いからな。

今の俺では、国に帰る事すらできない。

何処かで使ってくれるなら、そりゃ働きたいさ。

尤も、もうあんな職場は御免だけどな」


「身分証は持っているか?」


「ああ。

パスポートだけは、どんなに催促されても絶対に奴らに預けなかった。

これを人質に取られたら、それこそ奴らの奴隷だからな」


「では、ここでそのカラーコピーを2枚取ってくれ。

農業で良ければきちんとした仕事を紹介しよう」


そう言いながら小銭を渡してくる。


「農業?

俺が今まで働いていた場所は、縫製工場だぜ?

確か実習生は、職種を変える事はできなかったはず。

無許可では捕まるリスクが高くないか?」


「その点は大丈夫だ。

ちょっとした伝手が有ってな。

一人くらいの操作なら、どうとでもなる」


「給料はどれくらい貰えるんだ?」


「向こうに交渉してからだが、1日9時間、休憩1時間で月額20万円。

休日は仕事先で確認してくれ。

最低でも、週1日は保証する」


「20万!?

・・部屋代や食費は幾ら取られる?」


「そんなものは取らない。

宿舎は自分が建てるし、食費は、皆と同じものを食べるのなら、大してかからないだろうからな」


「・・本当にそんな好条件なのか?

多分、国中探しても、実習生にそんなに払う所はないと思うぞ?」


「自分が約束する。

それに、同じ仕事をするのに、実習生だの非正規だのと区別して、他者と差をつけるには相応の理由が必要だ。

だが、働く場所によっては、取引先の無理な値引き交渉に苦しみ、流通の過程で複数の業者に利益だけを抜かれる事で自分達にはほとんど実入りがなく、社員達に払いたくても払えない会社もあるのだ。

皆が皆、お前達を使い倒そうとしている訳ではない。

その点だけは、理解しておいて欲しい」


「・・正直、今はまだ無理だな」


「自分達は外国人を語る時、〇〇人は〇〇だと、よく口にする。

だが、その国の一人一人を見てみれば、決してそんな大雑把なくくり方はできない事が分る。

どんな国にも、良い人もいれば悪い奴もいる。

そんな当たり前の事を、一時の憎悪や反感が、いとも容易く覆い隠してしまう。

新しい仕事先で、その覆いが取り除かれる事を祈る」


「・・あんたの言ってる事は分るよ。

努力はしてみるさ」


「・・そうか」


和也の空を見上げる顔に、少しだけ笑みが加わる。


「では、そろそろ行動に移ろう。

コピーをしたら、風呂に入りに行くぞ」


「風呂?」


「この国の面接は、身だしなみに気を配らねばならない。

やはり、第一印象は大事だからな」


言われて、自分が4日も(あの仕事場は、風呂に入れるのは2日に一度だった)風呂に入っていない事に気づく男。


苦笑いしながら、コンビニに入って行くのであった。



 3日もお世話になった自転車に別れを告げ、少年と共にバスを乗り継いで向かった先は、地元に1つしかない健康ランド。


フロントで少年にタオルを買って貰い、中に入る。


「替えの下着はこれを使うと良い」


そう言って、少年がコンビニで購入した物を渡してくれる。


「それから、脱いだ服はここに入れてくれ」


商品が入っていたコンビニの袋を示される。


「2時間経ったら迎えに来る。

それまでゆっくりと疲れを癒すと良い」


脱衣所まで一緒に入ってきた少年であるが、自身は風呂に入らず、男の汚れた衣類を持って外に出ていく。


それを見送りながら、男は、幾つもある広い湯船に心躍らせるのであった。



 2時間後、洗濯された自分の衣類と、新しい替えの服を幾つか渡された男は、今度は床屋に連れていかれ、無造作に伸びていた髪を奇麗に整えられる。


顔剃りもして貰い、やっと身奇麗な感じになった。


「これなら大丈夫だな。

では、あそこで証明写真を取ったら、現地へ向かおう」


そう言った少年が、コンビニの脇にある、インスタント写真の機械を指さす。


「行く前に、履歴書に最低限の記載はしておけ。

学歴は必要ないが、母国の住所と家族構成、電話があれば、その番号も。

心配せずとも、仕事先の社長に提出するだけで、決して変な事には使わぬ。

働かせて貰うなら、自分もきちんと誠意は示すべきだ」


少年にそう言われ、コンビニのイートインスペースを借りて、そこで買った履歴書に必要事項を記入する男。


書き上げたものを少年に渡すと、二人は電車に乗り、2時間後、やっと仕事場のある最寄りの駅に着く。


「ここからはタクシーで行く」


見るからに田舎町の、長閑な風景の中、タクシーへと向かいかける少年に、男は語りかける。


「なあ、何でこんなに親切にしてくれるんだ?」


もう直ぐ夕方になろうかという空に、僅かな赤みがかかっている。


「初対面で、しかも外国人。

身なりも決して良いとは言えず、実習先を逃げ出してきた奴なんて、普通、関わり合いになりたくないだろ?

金だって、俺の為に随分と使ったはずだ。

一体何故だ?」


それまで見せなかった真面目な顔で、男が尋ねてくる。


少年は、移動しかけた足を止め、徐に男に振り返ると、静かに言葉を紡いだ。


「1つには、これから向かう仕事先が人手不足だから、良い働き手を確保してやろうという意味がある。

もう1つは、折角この国に良いイメージを抱いて来た者を、わざわざ失望させて帰す事もないと考えたからだ。

自分だって、誰彼構わず人を助けたりはしない。

私利私欲のためだけに、この国の富を搾取しようとするだけの者なら、放っておいただろう。

お前には、手を差し伸べるだけの価値がある。

そう思えたから助けた。

ただそれだけの事だ」


淡々とそう告げる少年ではあるが、その表情には、一見無表情に見えながらも、ほのかな温かみがある。


男にも、それが理解できた。


「何で俺がこの国が好きだったって分るんだよ?」


苦笑いしながら、言い返す男。


「分るんだよ。

女心は分ってないとよく怒られるが、お前のは丸分りだ。

まるで、母親に裏切られた子供のような顔をしていたからな」


そう言って背を向け、タクシーまで歩いて行く少年。


「言ってろ!」


負け惜しみとも取れる言葉を吐きながら、男は嬉しそうに少年の後を追った。



 「忙しい所、邪魔して済まない」


もう直ぐ夕方で、今日の仕事にけりをつけるべく片付けに取り掛かっていた二人に、和也は声をかける。


「御剣さん、突然どうしたんですか?」


女性の方が逸早く和也に気付き、そう声を返してくる。


「二人に折り入って話がある。

片付けが終わったら、少し時間を貰えないだろうか?」


「それは勿論構いませんが、そちらのかたは?」


「後で改めて紹介させて貰うが、これからここで働かせて貰いたい実習生だ」


「・・主人を連れてきますね」


女性が、少し離れた場所で農機具を片付けている男性の側まで行き、何かを話し始めた。


そして直ぐに男性と共に戻って来る。


「御剣さん、お久し振りです。

何でも、共に働いてくれる人材をお連れいただいたとか?」


「突然で申し訳ない。

前の実習先で酷い目に遭って逃げていた男を助けたのだが、本人にまだこの国で働く意欲があるようなので、ここで使って貰えないかと考えたのだ。

法的な事はこちらで全て処理するし、この男の人間性も自分が保証しよう。

研修期間を設けて、その間に彼の働き振りを評価してくれても良い。

彼の給料は、全てこちらが負担する」


和也の傍らに緊張した面持ちで立つ男をちらりと見た男性は、笑顔で答える。


「とりあえず、家の中でお茶でもどうぞ。

直ぐに片付けを終わらせますので、その後で、詳しいお話を致しましょう」


女性の方に家に案内するように告げて、男性は、和也に一礼して慌ただしく仕事に戻る。


家の中に通され、居間でお茶と饅頭を頂いている間に、仕事を終え、顔と手を洗ってきた二人がやって来た。


「お待たせ致しました。

先ずは履歴書か身分証明書をお持ちでしたら、そちらから拝見させて下さい」


席に着くなり、徐にそう告げてくる。


少年に目で促され、パスポートと履歴書を提出する男。


「タヤン・タム・チーさん、21歳。

べ〇ナムの方ですね。

最初の実習先では縫製のお仕事をされていたようですが、農業のご経験はお有りですか?」


一通り履歴書に目を通した男性が、男に聴いてくる。


「仕事としてはありませんが、家で畑を作っていたので、その手伝いを子供の頃からしていました」


「ほう、因みにどんな物を作っていたのですか?」


「玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、カボチャ、きゅうり、トマト、ピーマンです」


「おお、中々多いですね!」


「あとは、忙しい時に近所の田んぼで田植えや稲刈りも手伝っていました」


「申し分ありませんね。

ここで働く上で、何かご希望はお有りですか?」


「・・パスポートは預けられない。

あと、できれば給与明細も欲しいです」


「それだけですか?」


「はい」


「何時から働けますか?」


「何時からでも。

あまりお金がないので、できれば直ぐにでも働きたいです」


男性が、妻である女性に視線を送る。


彼女がにっこり頷くのを見てから、男の方に改めて視線を戻し、口を開く。


「では、明日からお願いします。

一緒に頑張っていきましょう」


笑顔でそう告げられる。


「・・あの、そう言っていただけるのはとても嬉しいんですが、もっと俺の事を調べたりしなくて良いんですか?

外国人だし、実習先も逃げ出してきたのに・・・」


トントン拍子に採用が決まり、少年からある程度は聞いていても、少し不安になり、自らそう告げる男。


「大丈夫です。

私達夫婦は、御剣さんを心から信頼しています。

その彼が連れてこられた相手なら、その人にも疑念は抱きません。

それに、本当に悪い人なら、自分からそんな事を言ってきたりはしませんよ」


再度、笑顔でそう返されて、深く頭を下げる男。


「宜しくお願いします!」


「・・話が纏まったようなので、細かい条件などを詰めよう。

最初に伝えた通り、彼の給料はこちらが払う。

休日に関しては・・・」


「済みません、御剣さん、少し待っていただけますか?」


珍しく、男性から横やりが入る。


「どうした?」


「彼の給料は自分達がお支払い致します。

ここで働いて貰うのですから、私達が払うべきです」


「だが、自分は彼に月額20万円の給料を約束した。

こちらで勝手に決めた額を、あなた達に負担させるのはどうかと思うが」


「御剣さんのお陰で、今は私達にも、十分な余裕があります。

そのくらいなら、何の支障もありません」


「・・そうか。

では、その言葉に甘えるとしよう。

その代わりといっては何だが、ちょっとした福利厚生を考えているから、ここの空き地を少し借りたい」


「何をなさるので?」


「先ずは小さな寮を建てる。

これからもう少し人数が増えても良いようにな。

近くにアパートなどないし、ずっとあなた達の家に住まわせる訳にもいくまい」


「それは・・助かります。

色々と」


そろそろ子作りを考えていた夫婦は、有難くその提案を受け入れる。


「あと1つ。

この辺は本当に何もないので、日々の買い物にも一々車を使わねばならない。

だから、農園専用の店を作る。

顔認証で中に入れる無人店舗だが、生鮮食品を除く最低限の日用品と、カタログで選んで注文するタイプの嗜好品を用意する。

商品の入れ替えは基本的に月1回、嗜好品に関しては注文後直ぐ空輸で届ける。

支払いはチャージ式の専用カードを渡すので、それで頼む。

従業員割引として、市価の4割引きにしておこう」


「あの、大変有難いお話なのですが、どう考えてもそちらの赤字が増えるだけのように思われるのですが・・」


今度の提案には、流石に直ぐには頷けない。


品物の輸送費だけでも、利益なんて吹き飛ぶだろう。


しかも、只でさえ4割引きなのだ。


「大丈夫だ。

福利厚生と言ったではないか。

それに、そろそろ金の使い道に困るようになってきたのでな」


「・・そ、そうですか。

では、お言葉に甘えさせていただきます。

醤油1本切れただけで、遠くまで車を走らせないといけない生活ですから、正直、本当に助かります」


普通なら、和也が最後に付け加えた言葉に、鼻白む者は多いだろう。


だが、それを敢えて口にした彼の表情には、自分の資産を鼻にかける者特有の傲慢さや、貧しい者を見下す侮蔑を含んだ冷たさが微塵もない。


寧ろ、サービスを受ける側が余計な気遣いをしないで済むようにとの心遣いが、聴いている誰の眼にも明らかであったので、かえって相手側に、『受けなければ』と更に気を遣わせる有様であった。


紫桜辺りが見ていれば、『演技が下手ね』と酷評されたであろうし、逆に有紗なら、『優しいのね』と温かい目で見られたかもしれない。


「勤務時間や休日などは、当事者で話し合ってくれ。

彼には一応、1日9時間拘束で休憩1時間、最低でも、週に1日の休みを与えると告げてある。

寮や店舗の工事は、明後日までには始めさせる予定だ。

では、今日の所はこれで失礼する」


それだけ言うと、和也は男を連れて帰ろうとする。


「タヤン君もお連れになるので?」


「流石に今日は、彼を泊める準備などないだろう。

駅前に、何故か漫画も読める宿泊施設があったから、今日はそこで我慢して貰う積りだ。

色々買う物もあるしな」


当のタヤンが頷いたので、若夫婦はそれ以上は口にしなかった。


和也達の為にタクシーを呼んでやり、並んで見送る二人。


「・・またあの人に助けて貰ったね」


「そうね。

何でか分らないけど、助けを必要としている時には必ず、来てくれるのよね。

寮ができるまでは少し自粛が必要だけど、これで安心して子供が産めるわ」


「はは、気が早いね。

でき上がるまでに、数か月はかかるだろうに」


この時の二人は、まさか寮が3週間で建つなんて考えてもいない。


相場の3倍の料金を現金で前払いした和也によって、地元の建設業者が総力を挙げて作り上げるのであった。



 「済まないが2、3日はここで我慢してくれ。

それ以後は恐らく向こうの家で、部屋を用意してくれるはずだ」


漫画喫茶の手狭な個室で(それでもソファーのある1番良い個室を用意された)、和也から夕食代わりのコンビニ弁当や歯ブラシ等を手渡された男は、嫌な顔一つせずに言う。


「気にすんなよ。

野宿に比べれば、ここだって天国さ。

・・それより、色々と、本当に有難うな。

お前や彼らに会って、大分印象が変わったよ。

今ではやっぱりこの国は良い所だと思い直している。

まだ何もできないが、何時か必ずこの恩を返すから」


男が右手を差し出してくる。


その手をしっかりと握りしめながら、和也は告げる。


「朝9時に、彼らがここまでお前を迎えに来て、仕事を終えたらまたここに送ってくれる手筈になっている。

お前とはここでお別れだが、健闘を祈るぞ。

しっかりと、彼らの期待に応えてやってくれ」


「おう!

任せておけ」


和也が帰った後、晩飯にしようとコンビニの袋を漁り、弁当を2つ取り出した男は、一番下の3つ目の弁当の上に、封筒が載せてあるのに気が付いた。


『?』


何も書いてない封筒の中から、1枚のメモと10万円の現金が出てくる。


『支度金』


メモには唯それだけが書いてある。


男は、またしても泣きながら、弁当を頬張るのであった。



 『前略

妹よ。

俺は今、農業に従事している。

あれから、奇跡のような出会いに恵まれ、以前とは比べ物にならないくらいの素晴らしい職場で、日々、土と格闘している。

朝日と共に目覚め、陽が落ちる頃には仕事を終えて、満天の星空を眺めながら眠りに就く。

まるで、懐かしい母国での生活のようだ。

それでいて、給料は手取りで20万円もくれる。

手取りでだぞ!

新築の、奇麗な寮の個室に住み、飯は社長夫妻と一緒に、彼らの家で腹一杯ご馳走になる。

幾ら食べても、社長の奥さんは笑顔でご飯を山盛りにしてくれる。

そして驚く事に、飯代は只だ。

俺は今、猛烈に働く意欲に満ちている。

金の事もあるが、何より彼らの役に少しでも立ちたい。

働いて働いて、喜んでくれるその笑顔が見たい。

遅くなったが、2か月分の仕送りを送る。

それと、別便でお前の欲しがっていたこの国の浴衣を送る。

今年の祭りに間に合わなくて御免な。

では、また連絡する。


ああ、それと、奇妙な戦友ができた』



 「どうしたの、浮かぬ顔をして?」


久し振りに和也と二人で花月楼に泊まりに来た紫桜は、手伝いに来た菊乃の顔に、僅かな曇りがあるのを目敏めざとく見つけ、そう尋ねる。


本来ならエリカ達も一緒に来る予定であったが、エリカが偶には二人の時間を楽しんだらと気を利かせてくれて、マリーもこの間女王のお供で来たからと、やはり遠慮したので、紫桜一人で和也と共に訪れたのである。


因みに、有紗はまだ異世界に来た事がない。


もう少し、心の準備が欲しいそうだ。


一体、異世界をどんな場所だと思っているのであろうか?


和也は到着早々、志野や影鞆達に挨拶に行っていて、今ここには居ない。


「・・あの、後で御剣様にお詫びしようと思っているのですが、実は、任されている養鶏場の鶏が、1羽行方不明になっていまして・・。

島中探したのですが、どうしても見つからないのです。

島の人間なら、あそこの鶏に手を出す事は決してないので、何処かにはいるはずなのですが・・」


「鶏?

・・ああ、あの人が自ら変な餌をやりながら、可愛がっていたやつね?

そんなに気にしなくても良いんじゃないかしら?

いつもはどうしてるの?」


「御剣様の結界が張ってあるので、取り立てて何もしてはおりません。

朝、卵を頂いて、その際に少しお掃除をして、お水や餌を入れ替えて、お昼になったら元気かどうか様子を見に行って、夕方には、ちゃんと皆揃っているか確認して、夜に異常はないか見に行く程度です」


「・・そこまでしてるの?」


「大した事ではありませんよ。

御剣様から特別にお預かりした大切な養鶏場です。

もっと気を配っても良いくらいです。

・・なのに、1羽足りないなんて御剣様がお知りになられたら・・」


心底申し訳なさそうに、俯いてそう告げる菊乃。


「・・ねえ、貴女、今誰か良い人がいるの?」


「はい?

良い人ですか?

えーと、それはどんな意味なのでしょう?」


「誰かとお付き合いしているのかと聴いているのよ。

あの人の他に、好きな男性ができた?」


「・・そ、そんな、滅相もない!

誰もいませんよ!

それに、もしそんな事になったら、ファンクラブ憲章に違反したとして、除名されてしまいます」


「ファンクラブ憲章?

何なの、それ?」


そう尋ねられた菊乃が、突然、胸を張って答える。


「『何時如何なる時も、私達は御剣様だけを想い、瞼に刻んだその凛々しいお姿を忘れず、何時の日か、約束の地に赴かん』

・・名誉会長であるミューズさんと、副会長のアンリさんが考えた、私達ファンクラブ会員の大切な決まり事です」


「・・貴女に特別に、彼に謝罪する機会を作ってあげる。

今夜、わたくし達が露天風呂に入っている時、貴女も入りに来なさい。

そこで、あの人に話をすると良いわ。

わたくしが執り成してあげる」


「ええ!?

あの、それって、私も御剣様とご一緒に入浴するという事ですよね?

宜しいのですか?」


「・・ええ。

あれから、もう3年以上経つわよね。

なのに、貴女ときたら、あの人を忘れるどころか、酷くなる一方なんですもの。

流石に、見ていられないわ」


他の、彼の妻達と共に過ごしてきて、自分が嫉妬深い方だと認識するに至った紫桜ではあるが、菊乃には同情を通り越して、哀れみさえ感じてしまう。


以前、あの人にも言った事だが、このままでは本当に、死ぬまで独り身を通してしまうだろう。


異性に興味がないならそれでも良いが、彼女の場合は、そうではない。


「有難うございます!

・・あ、でも、申し訳ありませんが、やはり無理でした」


喜んだと思うと、いきなりまた、しゅんとする菊乃。


「どうして?」


「ファンクラブの鉄則にあるのです。

『抜け駆けは禁止』・・と」


「・・もう良いわ。

その娘達も呼びなさい。

それなら良いのでしょう?」


「宜しいのですか?」


「ええ、もう好きにして頂戴」


こめかみを押さえながら、紫桜が言う。


『旦那様も、一度思い知れば良いのだわ。

何人もいたいけな娘をその気にさせて、能天気に構えているのですもの。

これって、正に天罰よね』


因みに、リセリーは、この時はまだ教皇としての即位前で、色々と勉強中の身であったため、ファンクラブには在籍していないし、その存在も知らない。


だが後に彼女の知る所となり、ミューズ達が『呟きの書』の写本を頼んだ際に、それを根に持たれて、随分と渋られた。


結局、ミューズが、この時その目に焼き付けた、和也の裸身を忠実に表現した掌に収まる小さなブロンズ像を作成し、それを代金として先渡しする事で、彼女の了承を得る。


この像は、ミューズ自身の物も含めて全部で4体作られたが、残りの2つを誰が所持しているかは、推して知るべしである。



 満天の星空の中、灯篭の明かりだけを頼りに、和也と紫桜が二人で湯に浸かっている。


ちょろちょろと流れ落ちる源泉の湯と、穏やかなそよ風が時折木々の葉を揺らす音だけが辺りに満ち、お互いに何も話さずとも、人生の大半を連れ添ってきた夫婦のように、独特の雰囲気を醸し出していた。


ただ、二人きりで湯に浸かる時には、必ず和也の腕を抱えて、その腕に抱き締められるようにして浸かる事が好きな紫桜が、何故か今日は和也から少し距離を置いている。


「今日は菊乃の姿が見えなかったが、何か聞いているか?」


和也がこの島に来ると聞けば、何を押しても手伝いと称して彼に会いに来る彼女が、今日に限って姿を見せない。


辛い過去を乗り越え、本当に明るく笑うようになった菊乃の顔を見る事も、和也がこの島に来る主な理由の1つなのだ。


「女には、好きな男の前に出るのに、色々やりたい事があるのよ。

もう直ぐここへ来るから、心配しないでも大丈夫よ」


紫桜が、さらりととんでもない事を言ってくる。


「何?

この場所にか?」


星空から彼女に視線を移した和也が、驚いたように聴いてくる。


「ええ。

彼女、あなたに謝りたい事があるのですって。

だから、腹を割って話ができるよう、ここへ来るように言ったの。

・・お友達と一緒にね」


「友達?」


今は雪月花にいる白雪以外に、菊乃がそんなに親しくしている者がいるだろうかと、和也が考えを巡らせていた時、脱衣所との境の扉が開かれ、三人の女性がこちらにゆっくりと歩いてくる。


「お前達・・」


其々の顔に見覚えのある和也は、肩の力を抜くと同時に、少し呆れる。


「うら若い女性が嗜みを忘れてはいかんぞ。

そういう姿は、同性の前や治療行為以外では、本当に心を許した相手にしか、晒すべきではないのではないか?」


大切な娘を見やる、父親のような表情で、小さな手ぬぐいで申し訳程度に下腹を隠しただけの三人に、やんわりと注意する和也。


それを聞いた紫桜が、呆れたような、腹を立てているような声で言ってくる。


「事故とはいえ、わたくしの裸を盗み見たあなたが、一体何を言ってるのよ。

それに、彼女達の事を、もっとよく見てごらんなさい。

真っ赤になって、震えているでしょう?

勿論、寒いからではないのよ?

大好きな人に、恥ずかしさを我慢して、自分を見て貰おうと精一杯頑張っているのよ?

あなたが彼女達にかけてあげるべき言葉は、言わなければならない言葉は、そんな薄っぺらなものでは決してないはずよ!!」


紫桜には珍しく、激しさを伴った物言いに、和也は、心細げに立つ三人に向け、再び声をかける。


「・・先ずは湯に浸かれ。

まだ暖かいとはいえ、そのままではいい加減寒いだろう」


穏やかに苦笑する和也からの言葉に、三人はほっとしたように身体を弛緩させ、其々がかけ湯をしてから、静かに湯に身体を沈めていく。


「済まなかったな。

お前達の気持ちを全く知らない訳ではないが、常にうぬぼれないよう己を戒めている身には、お前達の姿は、少し眩し過ぎたのだ。

だからつい、心にも無い事を口走ってしまった。

・・ミューズ、その後はどうだ?

店は順調か?

・・アンリ、いつも美味いパンを有難うな。

時々、売り物が一瞬で消えて、お客に叱られるような事はないか?

・・菊乃、暮らしを楽しんでいるか?

何か自分に話があるようだが、遠慮せずに言ってくれて良いぞ?」


かの時、彼女達を魅了した優しい笑顔で、身体に染み渡るような素敵な声色で、一人一人に話しかける和也。


三人の顔が、お湯の熱さではないもので、一瞬にして真っ赤になる。


「御剣様、お心遣い有難うございます。

今日は厚かましくも、お二人の時間にお邪魔して、申し訳ありません。

私が将来、心血を注いで挑むべき作品には、どうしても御剣様の、有りの儘のお姿を知る必要があったのです。

お店の方は、御陰様でとても繁盛致しております。

全て、御剣様に頂いた、あのお言葉によるものです」


ミューズが嬉しそうにそう口にする。


「有りの儘の姿?

・・それを表現する時は、是非とも腰布を希望する」


「フフッ、御剣様ったら。

善処致しますね」


「御剣様、ご無沙汰致しております。

私のパンを、美味しいと言って下さるそのお言葉だけで、何よりの励みになります。

パンが一瞬で消える事は、今やお店の名物みたいなものですから、どうぞご心配なく。

今日は恥ずかしかったですが、皆に背中を押されて、思い切ってご一緒させていただきました」


アンリは以前より、大分明るくなった気がする。


仲の良い友人達ができて、それが彼女に心の余裕を与えているのかもしれない。


「アンリ、皆で御剣様とご一緒しようと話し合った時、真っ先に賛成したのは、貴女ではなかったかしら?」


ミューズがニヤニヤしながらアンリをからかう。


「それを言うなら貴女だって、何も御剣様の全てを拝見する必要はないでしょ?

以前特別に見せて貰った下絵には、鎧姿の御剣様が描かれていたのだし」


アンリの反撃を受けて、ミューズが言葉に詰まる。


「お二人とも、御剣様の御前おんまえですよ。

言葉でどう言い繕うと、御剣様がその気におなりになれば、全てが明らかになるのですから」


菊乃が仲裁に入る。


「それは分っておりますが、少しは包み隠すのが、大人の女性というものです。

まあ、私達も誘って下さった恩に免じて、貴女が"大喜び"で連絡してきた事は、黙っておいて差し上げますね」


ミューズがそう笑顔で告げると、アンリも続く。


「何事においても、正直な事は良い事です。

貴女も早く御剣様に謝罪をなされた方が良いのでは?」


その言葉にはっとして、菊乃は身体の向きを変え、湯船の中で正座して、真面目な顔で和也に告げる。


「御剣様、本日は御剣様にお詫びしたい事がございまして、紫桜様にご無理を言い、謝罪の場を設けていただきました」


菊乃の様子を見て、和也の表情も少し引き締まる。


「何があった?」


「実は、お預かりしている養鶏場の鶏が、1羽見当たらないのです。

島中探したのですが、何処にもいなくて。

私の管理不行き届きです。

どんな罰でもお受け致します。

本当に申し訳ありません」


菊乃が、湯に顔が浸かりそうなくらい、頭を下げる。


「・・・済まん。

それは自分のせいだ。

奴には、ちょっとした仕事を頼んで、異世界に行って貰っている。

管理しているお前には、事前に伝えておくべきであった。

こちらこそ、申し訳ない」


和也の言葉に、驚いて頭を上げる菊乃。


「異世界、ですか?」


「そうだ。

つい先日、とある人物を助けてな。

まだ仕事に不慣れなその者を補佐する意味で、向こうに行って貰ったのだ」


「そ、そうでしたか」


まさかその鶏が、念話を用いて人と会話ができるようになっているとは夢にも思わない彼女は、和也が言っている事が今一つ理解できないが、大事な鶏が無事でいた事に、一先ず安堵する。


「良かったです。

いなくなった訳ではないのですね」


「良くないわよ」


紫桜が口を挟む。


「旦那様、菊乃はね、本当に熱心に鶏の世話をしているのよ?

いなくなったと知って、随分探し回ったようだし。

それもこれも、皆あなたから任された事だからなのよ?

口で詫びるだけじゃなくて、何か、彼女の余計な苦労に報いるべきではなくて?」


「いえ、そんな。

私が好きでしている事ですから」


「・・菊乃、お前の夢は何だ?」


先程から、何かを考えていた和也の、厳かな声がする。


「え?

夢、ですか?

・・そうですね、今はとても幸せなので、この幸せがいつまでも続く事ですかね。

御剣様のお側で、紫桜様達やファンクラブの方々、お世話になった方々に囲まれて、これからも楽しく暮らしていきたいです」


「自分はな、お前には、これ以上辛い事を経験させたくはなかった。

酷い仕打ちを受けたお前には、人として、残りの人生を謳歌し、次なる生に向けて、安らかな眠りに就いて欲しかった。

だから、彼女達のように、リングを渡さなかったのだ」


ミューズやアンリの方を、ちらりと見やる。


「永遠の時を得て、親や友人達と死に別れ、決まった仲間以外は己の周囲から消えていく苦しみ。

それに耐え続けろとは、自分からは言えなかった。

・・だが、もしお前が望むなら、彼女達と同じ道を用意しよう。

我が眷族の一員として、迎え入れよう。

お前はどうしたい?」


大きく目を見開いた菊乃が、震える声で答える。


「御剣様の眷族に加えて下さい。

・・ずっと、ずっとそう望んでいました。

何時かは私も、約束の地に行ける事を・・。

どうか、どうかお願い致します」


両手を口に当て、はらはらと涙を流す菊乃。


和也が湯から右の掌を出し、そこに光が集まる。


そして、光が収束した後に生まれたリングを、彼女の手を取り、右の薬指に嵌めてやる。


「ああ・・」


感無量で、涙が止まらない菊乃。


「良かったわね」


紫桜が優しく微笑む。


「おめでとう。

これで皆で約束の地に行けるわね」


「おめでとう。

本当に嬉しいわ」


ミューズとアンリも彼女を祝福する。


「有難う。

頑張ってファンクラブの活動を続けてきたお陰かもしれません」


手を取り合って喜ぶ三人を見ながら、和也は、やれやれといった表情で彼女らを見ていた紫桜に、念話で尋ねる。


『約束の地とは、何処の事だ?』


『そのくらい自分で考えなさいな。

それと、今日の事は、貸しよ?

後できちんと返してね』


湯の中で和也の手をギュッと握りしめながら、艶やかに微笑む紫桜であった。



 「クックドウドルドー(起きろ、戦友)」


長閑のどかな畑作地帯に、朝日と共に響き渡る鳴き声。


目覚まし時計を必要としない、タヤンの1日が今日も始まる。


冷たい水で顔を洗い、歯を磨いて、身支度を整えた頃、社長宅で食事の用意ができた事を知らせる、電話のワン切りがある。


田舎の夜は早いので、夕食からかなりの時間が経った彼のお腹は、何時でも良いぞとスタンバイしている。


出汁の効いた味噌汁、ふんわりして、僅かに甘い玉子焼き、鯖の煮つけ、浅漬けのお新香、ぱりぱりして香ばしい海苔をおかずに、朝から3杯もの大盛りご飯を平らげる。


近頃お腹の大きくなってきた女将さん(彼は社長の奥さんの事を、こう呼んでいる)に代わり、食べ終えた人数分の食器を流しまで運び、それを手早く洗う。


その後、鶏舎の鶏に餌と水をやり、産んだ卵を回収して、掃除をする。


掃除が雑だと戦友から文句が出るので、決して手は抜けない。


それからやっと、午前の仕事に取りかかる。


地域住人の高齢化と共に、益々拡大していく畑。


自分達では維持できなくなった畑を社長に売り、忙しい時にだけ、手伝いに来てくれる人々が増えた。


彼がここに来た時は、確か10ヘクタールくらいだった畑が、1年後の今では、14ヘクタールにまでなっている。


それまではなかった、田んぼも手に入れた。


社長に畑を売った人達の評判がかなり良く、売買契約もとてもスムーズに進むらしい。


何でも、買い取り資金を借り入れる銀行が、社長からは利息を取らないらしく(ここ数年で急に勢力を伸ばしてきた、巨大グループの傘下らしい)、本来なら銀行に支払うはずの金利分の1割を、売買代金に上乗せして売主に渡しているのだとか。


そうして買い取った新たな畑では、様々な取り組みがなされている。


先ずは土作り。


一定区画ごとに、混ぜる肥料や養分を変え、その作物に最適の土を探している。


品種改良もやり始めた。


ただこちらは、遺伝子の組み換えなどで、かえって人体に悪影響を及ぼさないよう、最新の研究成果を発表した論文記事などを参考にしながら、かなり慎重にやっている。


田んぼに関しては、まだ知識が浅く、人手が足りないため、とりあえず自分達が食べる分だけにしたようである。


それでも、進む温暖化に向けて、2、3種類の品種を植えている辺りは、流石としか言いようがない。


またこれ以降、年に1、2回、バキュームカーが数台やって来ては、休耕地に向けて、中の泥水を放出していくのだが、一体何処からやって来るのかは謎である。


その作業後、戦友と共に泥水が放出された場所に行くと、時々、ザリガニや泥鰌の子供、小魚などか飛び跳ねているので、それらを捕まえて、用水路に放してやる。


こちらが膝まである長靴をはいて、ゆっくりと歩を進める中、鶏のくせに、スイスイ歩いていく奴が妬ましい。


奴、今では掛け替えの無い友として、戦友の呼び名で呼ぶ鶏との出会いは、自分がここに来て直ぐの頃にまで遡る。


思えば、かなり衝撃的な出会いであった。



 「ここで働いて貰う際に、守って欲しい事を予め伝えておくね」


社長にそう告げられ、今日がここでの労働初日となる俺は、彼の言葉を一言も聞き漏らすまいと、全神経を集中させる。


「先ず、挨拶をきちんとすること。

知人に会った時、朝昼晩の挨拶をしっかりとして欲しい。

知らない人に、向こうから声をかけられた時にも、同じように挨拶すること。

これは単純そうに見えて、実は非常に大切な事なんだ。

僕達はここに来てまだ10年弱。

この村に根付くには、もう少し時間がかかる。

増してや君は、こう言っては失礼かもしれないが、外国人だ。

一見長閑に見えるようでも、閉鎖的な田舎の村では、外から来た者は必要以上に警戒される。

随分前に、何処かの町で、外国人が無差別に人を殺す事件が起きてから、それまでちょっとした外出時には鍵をかけないでいた村人達の中にも、施錠の習慣がついたと聞く。

勿論、君自身が悪い人間だと言っている訳では決してないんだよ?

ただ、人というものは、物事を一纏めにして考える癖がある。

農業というものは、自然との共存であるばかりでなく、地域との共生でもあるんだ。

だから、少しでも早く皆さんに受け入れて貰えるよう、お互いに、挨拶はしっかりしていこう」


「はい!」


「うん、良い返事だ。

あとは、少しずつだけど、勉強をして貰う事になる。

うちは完全有機栽培だから、農薬に頼らない分、色々と手間がかかる。

作業の手順、時期、肥料の配合など、作物ごとに微妙に異なるから、資料として渡す分に目を通し、分らない事は、どんどん質問してね」


「頑張ります」


「最後に、君はこの国の運転免許を持っていないよね?

もし君が望むなら、3週間くらいの合宿で取らせてあげる事も可能だけど、どうする?」


「・・それは、今は遠慮しておきます」


「お金の事なら、こちらの経費として落とすから、心配ないよ?」


「いえ、今の自分は、他に覚える事が沢山あるし、自分が教習所に通えば、その分、お二人の負担が増します。

今は即戦力とはいかなくても、少しでも使える人材が欲しい時だと思っています。

教習所に通う分の時間を、ここで精一杯働いて、少しでもお役に立ちたいです」


御剣にここに連れてこられるまでに、それらしい施設は見当たらなかった。


恐らく、通うにはそこに泊まり込むか、かなりの時間をかけて、ここから通学するしかないのだろう。


田舎町だから、長い目で見れば、免許を持っていた方が何かと便利だろうが、御剣と約束した以上、一刻も早く、彼らの期待に応えなくてはならない。


以前の職場と異なり、逃げ出す必要もないだろうから、ある程度の不便さを我慢すれば済む。


「・・君は本当に真面目だね。

その気持ち、とても有難いよ。

実は君がそう言うだろうからと、御剣さんから預かり物がある。

後で渡すね。

では、今日から頑張って欲しい。

一生懸命働いて、美味しい野菜や果物を、御剣さんに届けよう」


「はい、頑張ります!」



 こうして俺の農場生活が始まった訳だが、あちこち動き回りながら、忙しく作業する俺の近くに、常に同じ鶏がうろちょろしている事に、間も無く気が付く事になる。


最初は偶然かと思ったが、流石に3日も続けば確信が持てる。


薄茶色の、奇麗な毛並みを持つ鶏で、他の鶏より一回り大きい。


俺が熱心に作業している間は、その辺の虫や雑草を啄んでいるが、少し休憩していると、じっとこちらを見てくる。


別にさぼっている訳ではないので、疚しい事は何もないのだが、何となく落ち着かない。


無駄と知りつつ、ちょっとだけ文句を言ってみた。


「何見てんだよ。

そんなに外国人が珍しいのか?」


『はあ?

そんな訳あるかよ。

ご主人様の命で、仕方なくお前の面倒をみてやっているのさ』


まるで誰かが話しているように、自分の脳に直接響いてくる。


『!!』


びっくりして周囲を見渡すも、広い敷地には、自分とこの鶏以外、誰も居ない。


『何を驚いている。

鶏が話すのがそんなに可笑しいのか?』


「そりゃ可笑しいだろう!!」


思わず大声で叫ぶタヤン。


『何故だ?

俺も生物である以上、ある程度の知能を持っている。

ご主人様によって強化されてはいるがな。

人間のみが会話ができると思い込んでいるのは、お前達のエゴに過ぎぬ』


「・・俺の名はタヤン。

試しに3歩ほど歩いてみろ」


『貴様もしかして、俺を鶏頭だと馬鹿にしているのか?

幾らご主人様の命といえど、そのような態度では困った時に助けてやらんぞ?』


「ご主人様って一体誰の事だ?」


『それは言えぬ。

ただ、とても偉大でお優しいお方だ。

お前のような者にまで、情けをかけられるのだからな』


タヤンには、鶏が鼻で笑ったように感じられた。


「鶏の分際で良い度胸だ。

俺が世間の厳しさを教えてやるぜ」


ファイティングポーズを取りながら、シュッシュッと、鶏を威嚇するタヤン。


彼は子供の頃、少しだけムエタイを齧った事がある。


その途端、目に見えぬスピードで、腹に鶏の足蹴りをくらう。


「グハッ」


『遅いな。

拳が止まって見えるぞ』


「何だと!?」


今の攻撃は、自分には全然見えなかった。


こいつ、できる。


気を引き締めたタヤンが、再び構える。


暫し睨み合う二人。


そこへ、社長の声が響いてくる。


「おーい、そろそろ昼飯にしよう」


「・・社長に助けられたな」


『それはこちらの科白だ』


昼飯と聞いて、仕方なく構えを解くタヤン。


何でもないように社長の所へ走って行くと、何故か困ったような笑顔の彼に言われる。


「もしかして、ホームシックかい?」


「え?

どうしてですか?」


「・・なんか鶏と会話したり、仲良く遊んでいるように見えたから。

僕で良ければ、相談に乗るよ?」


「・・いえ、大丈夫です。

済みません、ご心配をおかけして。

ときに社長、あの鶏は、何時頃いつごろからここにいるのですか?」


そう言って、件の鶏を指さすタヤン。


「ああ、あの鶏ね。

あれはつい最近、御剣さんが連れてきたんだ。

何でも、彼が飼っている鶏の内の1羽で、最近ストレスを感じているようだから、広い場所で、伸び伸びとさせてやりたいのだとか。

面倒な世話は要らず、他の鶏と同様に扱ってくれて良いと言うので、暫くうちで預かる事にしたんだ。

中々奇麗な鶏だろ?

気に入ったのかい?」


「いえ、別にそういう訳では。

前から気になってたんですが、こんなに無造作に放し飼いにして、猫とかにやられたりしないんですか?」


そう尋ねられた社長の顔が少し引きつる。


「・・ここで働いて貰う以上、君にも知らせておく必要があるから話すけど、この事は誰にも内緒だよ?」


社長が小声でそう告げてくる。


「はい」


「うちの農場全体をね、上空の監視衛星が見張っているらしいんだ。

農場の敷地内に無断で入ろうとするものは、仮令それが人であれ動物であれ、その衛星に備え付けられたカメラによって瞬時に解析され、不法侵入者だと判断されれば、直ぐに最寄りの警察署に連絡がいく」


「・・マジですか?」


「マジ、それも大マジ。

ほら、うちは君が来てくれるまで、二人だけだっただろう?

こんな広い農場では、夜中に泥棒に入られても気付かないし、田舎とはいえ、お金があると知られれば、何かと物騒でもあるからと、御剣さんが知り合いの警備会社に頼んでくれたらしいんだ」


「らしいとは?」


「正直な話、詳しい事は僕にもよく分らないんだ。

ここをうちが買い取るまでは、ほとんどが彼の所有地で、僕達は借りていただけだし、買い取った今でも、警備料金は彼が支払ってくれているから。

以前、こちらが払いますと申し出たんだが、知り合いが格安でやってくれているからと、やんわりと断られた。

監視衛星を使うくらいだから、格安とはいっても、そんなに安いはずはないんだけどね。

彼には本当に頭が上がらないよ。

・・ああ、猫の話ね。

うちが飼っている鶏の数は、それ程多くはないし、その全てを毎回区画を決めて放しているから、そこにだけ注意をしていれば、問題はない。

具体的には、太陽電池で動くドローンが1台あって、それが監視衛星からの電波で自動で飛び回り、猫なんかが襲ってきた時は、内蔵されている電気銃で撃退してくれるんだ。

死なない程度の電圧にしてあるから、スタンガンにやられたみたいに、一時痺れて動けなくなるだけで、作業が終わった頃には回復して、そこらにいる野ネズミなんかを狩って帰ってくれる」


「・・初めて見た時、長閑でのんびりとした所だと思いましたが、実はかなりハイテクだったんすね」


聞き終えて、半ば呆然としてそう告げるタヤン。


「ははは、全部、御剣さんのお陰さ。

僕達は、何時でものんびりと作業し、まったりと暮らしているよ」


勉強熱心な彼らが、そんな訳ないだろうと思っていると、突然、社長の携帯が鳴り響く。


『一体何してるの?

お味噌汁が冷めちゃうじゃないの!』


ここまで聞こえる声で、女将さんが社長に文句を言っている。


「飯にしよう。

妻が待っている」


苦笑いの社長が、少し慌てて言ってくる。


「はい!」


飯と聞いて、元気よく答えるタヤン。


『フッ、現金な奴だ』


社長の前なので、脳内に響いてきた鶏の言葉を、何とかスルーする彼であった。

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