第1話
???視点
2203年10月某日某所
遠くからか、近くからか、どこからか争いの音が聞こえる。
剣戟の音、魔術を撃ち合う音、誰かの叫び声、誰かの愉快そうな笑い声…
それらは長いようで短い時間が過ぎ、消えた。
"何があったのか?"
ぼんやりとした頭でそう考えようとした時、不意に真っ暗なこの部屋に一筋の光が差し込んだ。その光はだんだんと大きくなっていき、固く閉ざされていた部屋の扉が開かれたのだと理解できた。
そこから数人の男女が入ってきて、その中から
1人の男性がこちらに歩んできた。そして、
「私は剣聖という。君をここから助けよう。」
と言って、ニッコリと「僕」に微笑んだ。
そして僕は約8年もの間過ごしてきたこの真っ暗な部屋を出た。
*********
2210年10月某日
その日ある巨大な犯罪組織が「剣聖」を筆頭としたSランク探索者シーカーたちにより壊滅した。
その組織の中で行われていた研究や実験は凄惨などといった言葉で表せないほどに酷かった。
行われていた内容は
凶魔と人の融合
である。融合させることで人が凶魔の能力や特性を持ち、また、自我が完全に残っている状態にするのがこの研究の最終目標であり、研究者たちはこの状態のものに
「魔人」
という名を付け、呼んでいた。
しかし、研究は進んでおらず、失敗したと思われる痕跡があった。
研究室の隣の大部屋にはたくさんの人がいた。
いや、 それは人でもなく、しかしながら凶魔でもない
魔人というわけでもないまさに何ものにもなりきれていない得体の知れないナニカであった。
それらのほとんどは研究資料によると元子どもだという。
小さい子で5歳、最年長でも15歳である。
彼らはすでに自我もなく死を待つのみの状態にあった。
このことは日本政府のみならず、世界中で注目され、警戒された。
この研究資料の発見からすぐに
WKT(世界凶魔対策機関)、WSO(世界探索者機関)が開かれ、各国のトップが集い、対策を考えた。
しかしながら、一人だけ生き残りがいた。
彼もまた酷い実験等をされていたが、凶魔との融合はされていなかった。
研究資料によると、彼には戦闘の才や特別なスキルがあったため、凶魔との融合はせず、ステップを踏んだ過酷な実験をしていたらしい。
しかし、それは死んだほうがマシだと思えるような内容であり、融合実験の方がマシなのではと思えるようなものだった。
何はともあれ、彼は組織の壊滅とともに救出され、生き残った。
*********
???視点
助けられた僕は大人の人に従って行動した。幸いにも今はさっきまで体を休めていられたので怪我もあまりなく、体調も良い。
部屋の外に出るとみんながいつも通り喋っていた。いや実際には何言ってるのか全然分からないけど
大人たちはみんなを悲しそうな表情で見てたけど、何でそんなに悲しそうなんだろう?
そんなことを考えてたらさっき「剣聖」とか言ってた人が 「 すまない 」とか謝ってきた。
だけどいきなり腰の剣を抜いたのは驚いた。
何をするのかと見ていたらいきなりみんなに斬りかかっていった。
それを見て僕は反射的に手でその斬撃を受け止めた。
「 なっ‼︎? 」
「「「「……‼︎」」」」
大人の人はそれに驚き、一旦剣を引いてくれた。
「今どうやって防いだんだい?手で私の斬撃を受け止めるなんて。」
「まぁ、ちょっとした小細工ですよ。」
と僕はぼかすように答えた。
「それにしても何でいきなりみんなに斬りかかったの?」
と僕が聞くと、
「任務だからだ。ここでされていた実験や研究の被害者はもう生きられなさそうな場合、殺して楽にしてやってくれと言われている。」
と答えてくれた。
「そうだったんだ。任務ならしょうがないね。でもみんなを殺すのは僕にやらせてもらえないかな? みんなを殺すのは僕っていう"約束"なんだ。」
「っっ⁉︎」
「"約束"は守る方なんだ、僕。だから、ね?」
と更に頼み込む。
「…………分かった。君に任せよう。」
と僕の意思を尊重してくれたのか、承認してくれた。
(ハァ〜、話が分かる人で良かったぁー。)
と僕と剣聖さんの間で話がまとまったとき、
「ロイっ、貴方何を言ってるの!それは私たちがやるべきよっ!いくら約束といえど、それはあんまりにもその子が可哀想すぎる!」
と、剣聖さん(ロイさんっていうのかぁ〜)の仲間の法衣を着て杖を持った女性が口出ししてきた。
(何でここでいきなり口出しするのかな。)
という僕の脳内の愚痴(もちろん表情は無表情のまま)を知ってか知らずか、剣聖さんが、
「たしかに酷なことなのかもしれないが、彼らのためにも、そして、彼自身のためにも、心の区切りをつけるために、必要なことでもあるんだ。
彼が限界だと思ったら我々が代わればいいだろう。」
「で、でも!」
という感じで、剣聖さんと女性の口論が長引きそうになってきたので
「もういいですかね?やるなら早くやってあげたいので。」
そう口論を止めるように言って、みんなの方へとゆっくり歩いていく。
???視点
みんなの方へ歩いていくと、みんなは僕と分かっているのか声を大きくする。
その声はたくさんあったが、1つにまとまり始めた。
それはさながら、僕に乞うているような、そんな声だった。もし喋れたのなら、彼らはこういうだろう、
"早く私(僕)(俺)たちを殺して!"
と。
僕はいつも通りに自分のスキルを発動させた。
いつものように手を手刀の形にし、何の乱れもなく発動したスキルによって
僕の手刀を魔力が包み、鋭利な刃物のような切れ味が付与される。
スキル "魔力支配"
魔力に関する総合スキルであり、
このスキルによって自分の魔力を手に纏わせることにより、先程のような効果を発揮する。
まぁ、他にもたくさんの効果があるのだが、それは今後説明しよう。
僕はスキルを発動させたまま、みんなの元へ表情も変えず、ただただ無表情にゆっくりと歩いていく。
*********
それはさながら、死神が死という救いを求める
哀れなモノたちの元へ救いを与えるような光景であった。
今まで口論していた、剣聖と女性も、その仲間達までこの光景に目を奪われていた。
それほどまでにどこか神秘的な光景であった。
*********
静かになった空間で僕は最も手前にいたモノたちの元へたどり着いた。そして彼らに
「何か言い残すことはある?」
と聞く。
これはあくまでも儀式的なものであり、返答を期待してのものでは一切ない。それでも、これもみんなとの約束だからと思い、行う。
「…………」
案の定何の応えも返ってはこない。
僕はこれで儀式は終了だと、スキルを発動させた手で心臓目掛けて刺突をする。
手は何の抵抗もなく、体を貫通した。そして呆気なくその生を終わりへと導いた。
そうして淡々と作業のように、しかし、とても丁寧に一人一人殺してゆく。
一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。
体感ではもう数時間経った感覚である。
もう残っているのは最年長の子たち4人だけであり、彼らは僕との付き合いも長く、この"約束"をした子たちである。
*********
彼らと僕はそれぞれ実験が違ったが、僕が一番年下ということで、可愛がってくれ、よく会って話した。その頃、僕は荒れていたが、彼らはそれでも一緒にいようとしてくれていた。よく、何でそんなに構うのか聞いたが、いつも
「お前は優しいし、いい奴だから」
と言って、笑っていた。
本格的に実験の始まる日の前日、彼らの中のリーダー格の男の子が突然、
「約束しようぜ!」
と言い出した。
(いや何を?)
彼曰く、それは、前から考えていたことらしい。
彼は子どもながらに実験の悲惨さを十分なくらい理解していたのだ。
「いや、俺たちさ、明日から実験の本番が始まるじゃん! そしたらさ、多分もうほとんど会えなくなると思う。だから、"約束"だよ!
実験で最後までちゃんと生き残ってた奴が、失敗しちゃった奴のことを責任持って殺してやるんだよ。
やることは単純、
1、自分が使える攻撃手段として最も確実にかつ痛みがないように即死できるような方法で殺すこと。
2、殺す前には必ず儀式として、"何か言い残すことがあるか" 聞くこと。ただし、返答は貰わなくてもいい。
たったのこれだけだ! な、単純だろ。後、また後から来て実験をする奴らにもこれは適応されるからな!忘れんなよ!」
これが"約束"の全貌である。
彼は当時15歳であり、僕を除くと、一番長く正気を保っていられた人であった。
*********
そんなわけで、僕は約束を果たすため、こうして儀式を行い、総合スキルまで使って殺しているのだ。
だが、それももう残すところあと5人だけだ。
彼らは僕と直接約束を交わした人たちであり、勿論その中には彼もいる。
僕はここでスキルを止める。そして僕は、新たにスキルを発動させる。
固有スキル発動
スキルにより僕の手刀に黒いナニカが纏う。
そして僕は儀式を行い、彼らをスキルによって殺す。
そうして、全員を殺し終えると、剣聖さん達の方に向き直り
「終わりました。」
と、一言言う。
それを受けて、剣聖さん達は はっ として
「あ、あぁお疲れ様。」
と言ってきた。
(何がおつかれなんだろ?)
と思いながらも、
「いえいえ、これくらい。なんてことないですよ。
これで"約束"は終わりました。貴方達はまた他にも任務とか残ってますか?」
と聞く。
「ああ、あとは研究資料や情報の回収と他にも武器とかをな。」
そう言って今度は資料を探し始めた。
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