【第二章 事件と猫】06
ガコンガコンとド派手な音が部室の外から聞こえてくる中、問題の人物が部室へ戻ってきた。
「いやあ~これは参ったよ~、ホワイトボードを倉庫から持ってくるのも一苦労だね」
部室の扉にギリギリ入る程の大きさをしたホワイトボードを引きずり込んでから神野はフウと息を整えて額の汗を拭った。
「何やってるんだよお前は?!」
五分間留守にしたと思ったらホワイトボードを持ってくるしほんとこいつなんなんだよ!
「いやさ、事件について纏めるならホワイトボードに書き起こした方が手っ取り早いかなって思ってね」
「なら先に言えや!手伝ったのに」
「あぁその手があったのか!」みたいな顔をしながらも思いつかなかった自分を恥じているのか頬を赤らめながら
「い、いや、こういうのは自分で持ってきた方が達成感あるし~」
面倒くさいやつだな――
「まあいいや、霧縫さんも食べ終わったみたいだし始めよう」
僕がそう神野に促すと「あぁそうだな」と気を取り直してホワイトボードに書き込んでいく。
「まず最初の事件、兎マスク。麻縄で首を吊っているところを大城と霧縫さんが発見。首から垂れ下がるホワイトボードには【猫より無作為の愛をこめて】と書かれていたと」
「こう見ると自殺とは考えにくいんですよね、実際自殺ではなかったようですが」
どうやら昨日の事件については多少聞いていたのか、霧縫さんはそう言った。
「まあ自殺なら首から下げてるホワイトボードは特定の人物へ向けての最後の怨念とか憎悪を書き記したと見てとれるけど、二件目の龍のマスクの事件でそう言った自殺ではないという事は明確になったな」
神野は第一事件を左に、第二事件を右側に書き込んでいく。
「共通点はマスクと麻縄、それとホワイトボードと女性」
丸で囲みながら喋る神野。
「それにしてもおかしな事件ですね、頭にマスクを被せるなんて」
「実際そうだな、儀式殺人とかかな?」
兎と龍、共通点は無いよな。
「まだ僕らが持っている情報だけじゃ限界があるのかもな」
弱音にも似たそんな言葉を吐いてしまった。
「猫より無作為の愛をこめてねえ――」
神野は円卓の上に座ってホワイトボードを睨みながら考えるがこの圧倒的に少ない情報に成すすべなく「駄目だ~分からん!」と机の上で寝そべってしまった。
「一昨日と昨日事件があったんですよね、なら今日も起こる可能性はあるんですかね」
霧縫さんの口から悍ましい言葉が吐かれた。
「そうか、犯人は捕まっていない、そして連日殺人となるとその線もあるよな――」
神野は寝そべりながら右手を顎に着けて考えるポーズをしながらぼそりと呟く。
「いや、偶々だって可能性もあるんだろ、流石に三日連続で殺人事件なんて警察が見過ごすわけないだろ!」
僕は言葉ではそう言うが心の中ではまた被害者が出るんじゃないかと思って仕方がなかった。
神野は何かを閃いたのか体を起こして円卓からひょいと地面へ飛んでからこちらを指さして
「大城、今日は一緒に帰るぞ」
と、突拍子もない事を言い放った。
「なんで」
「もしかしたら被害者に会えるかもだから」
「いや、そんなちょっくらコンビニ行ってくる感覚で言わないでもらえます」
「まあいいじゃないか――おっとチャイムだ。それじゃあまた後でな大城。後、夜靄は一人で帰る事になるけどすまんな」
言うだけ言って神野はホワイトボードに書いたことを消しもせず部室を去って行った。
「まったく、破天荒にも程があるだろ」
ホワイトボードを反転させて壁に向けてさっき書かれたものが見えるようにして端に寄せてから僕らも教室に戻った。
「大城君、私も一緒に行くから」
「は?」
教室へ行く途中にぷんすかと怒り気味に霧縫さんは言った。
「仲間外れは嫌だもの、私も行くわ」
「あぁ、もう勝手にしてくれ」
反論する言葉も出ずに霧縫さんに言うと「ありがとう」と短く言った。
頭を抱えながら僕は残りの授業をまるで世界滅亡までのカウントダウンを感じている様に受けていき、放課後になった。
「よし!って夜靄、帰るんじゃ――」
「私も行くわ、仲間外れは嫌だもの」
駐輪場近くで神野に会い、霧縫さんは僕に言った言葉をそっくりそのまま神野に言い、神野は「いいのか?」と言った顔でこちらを向く。
「好きにしてくれ」
僕はそう吐いてからロードバイクを取りに行った。
「それじゃあレッツゴー」
何故だか幼稚園の保育士になったような感覚に襲われながら僕は神野と霧縫さんと共に歩いて僕の住むマンションへ行くことに。
「ここから歩いたら一時間かかるかも知れないですけど大丈夫ですか?」
僕は少し盛った時間を二人に言うと
「僕は大いに大丈夫!」
「私も今日は塾はお休みなので大丈夫です」
と有難くない言葉が帰って来た。
歩くこと三十分、特に変わった事は無く、昨日の事件があった橋に差し掛かった。
「ここが第二事件の犯行現場です」
どうやら警察は撤収したらしく被害者や麻縄は跡もなく消え去っていた。
「ここがねえ、本当に人通りが少ないな」
今日は案外早い時間帯に帰っているから車は四台ほど通ったが歩行者は僕ら以外いなかった。
「あそこに人がいました」
反対側の歩道を指さして神野に言う。
「ふむふむ、何もないようだね――そんじゃ行こうか」
あっさりとした返答に戸惑いながらも僕らは事件現場を後にした。
「少し、休憩しませんか」
数分歩いたとき、後ろで歩いていた霧縫さんが息を荒げながら提案してきた。
「夜靄、本当に体力無いなお前、悪いけど休憩といこうか大城」
「分かった。じゃああそこで休みましょ」
僕は左側に見えた公園を休憩場所に選んで先導した。
「ふひゃあ~」
おかしな声を上げながら霧縫さんはベンチに腰を下ろした。
「小さい公園だね」
神野は霧縫さんから視線を外して周囲を見渡しながらそう口にした。
集合住宅とかにある範囲的に遊具などは置けない程の大きさの公園と似ていた。
「ここで子供が遊べることなんて精々携帯ゲーム機ぐらいだろうね」
「そうだね」
何となく神野の言葉に相槌を打つ。
「君はどう思う、大人に外で遊べと言われたらここで何をする?」
その言葉に意味なんてないのだろう、休憩がてらの雑談と言ったところだ。
「神野の言う通り携帯ゲーム機と言いたいところだが生憎ゲーム機は持ち合わせていないから何もしないだろうね」
「ほほお、そうか、遊びするしないんだな」
「一人遊びは苦手なんですよ」
「そうなのか」
何となくで質問されて何となくで返答する。そうして時間を使って五分が経った頃。
「もう大丈夫です。そろそろ行きましょ」
どうやら回復したようで霧縫さんはそう言った。
「よし!そんじゃ再開しますか」
神野の言葉で僕らはまた帰路を歩き始めた。
嵐の前の静けさにもにた穏やかな帰路をただひたすらに駄弁りながら――
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