【第二章 事件と猫】02
「なんだってこんな――痛っ!」
何重にも編んで作り上げられたであろう太い麻縄を自身の方へ強く引っ張るがチクチクと手に麻が刺さり、上手く手に力が入らずすぐ離してしまった。
手から離れた麻縄はビシンッ!と音を鳴らしながら縄を張ってしまった。
助けを呼ぼうと辺りを見回したが人っ子一人おらず車も通らない状況であった。
「どうする、どうすれば――そうだ紙!」
神野から渡された紙をふと思い出してポケットから取り出す。
「はあ?!――彼奴!もろ犯罪じゃねえか!」
事件に遭遇した場合。
1被害者の写真を撮ってメールで送信。
2君の母親、三奈木さんに電話。
3順序が逆になってしまう状況の場合は頑張れ!
4以前の事件について三奈木さんから出来る限りの情報を聞け。
LIME/ID○○××
頑張れ大城/神野より
紙には綺麗な字で箇条書きにてそう書かれていた。
「本当に神野の頭を疑うぞ!こんなのモラルもクソも無いじゃねえか!――あぁもう!」
紙に向かってそう吐き捨て逡巡するも自身の為にも従うしかないと判断して僕は母さんに電話する。
『あらしら、どうしたの?』
外に出ているのだろうか、車や選挙カーから聞こえてくる演説等の環境音が電話越しに聞こえてくる。
「今すぐ来てほしいんだ!人が、人が橋で吊るされてる」
『――分かった急いでいくわ!場所を教えて――奏!予定変更だ。席を変われ!』
『ふぇえ~!またですか~~!』
現在地を教えると母さんの方から一方的に電話が切られた。
それにしてもこの橋の人通りの無さは異常だ。
まるで現実から切り離されたんじゃないかと疑う程に静寂と孤独に包まれている。
「あ、おーい!そこの人!助けてくれないか!」
電話後数分が経った時だった。よく見ると反対側の歩道に誰か立っているのが見れた。
この橋には街灯が無く顔や体型といったのは判別ができないが確かにそこに居るのは何となく分かる。
「人が吊るされているんだ!助けてくれないか!」
僕の声に反応を示さないその者は再度助けを求める声を聞き終えるとスっと何事も無かったかのように歩き始めた。
「何だよ彼奴――」
不気味にも程があるぞ・・・・・・
それからすぐにサイレン音と共にパトランプを回して荒々しい走行をしながらパトカーは路肩に急停止した。
「しら!」
窓から出てきたのは母さんだった。
「もっと普通に登場できないのか――」
「何だ急に、それより吊るされてるってのは――これか、奏!早く来い!」
「ぎ、ぎもぢわるい」
母さんの言葉で助手席から今にも吐きそうな顔をしている以前あった女性警察官が出てきた。
「早くしろ!しらも手伝って」
母さんは後ろポケットから手袋を二セット取り出して一つを僕に渡してもう一つを自分の手にはめた。
「早く手に取れ――いくぞ、せーの!」
母さんが先頭で縄を軽く引っ張って後ろの僕と奏さんが握る場所を確保してから掛け声と共に縄を引っ張り始めた。
「おぼいい!」
後ろから弱音を吐くような声が聞こえてくるが一分も経たない程で縄はガコンと鈍い音を鳴らして橋の裏側につっかえた。
「くそ、つっかえたか――ちょっと持ってろ、合図を出したら一気に引っ張れ」
「ええ!」
母さんは縄から手を離して橋のバラスターを跨いでギリギリ足が置ける位置に移動してから縄を手で揺らし始めた。
縄を伝って揺らしているのを感じて何となく母さんの行動の意味は理解できた。
「今だ!」
「「せーのっ!」」
揺れが最高潮に達したのであろうか母さんからの合図で僕と奏さんは息を合わせて思いっきり引っ張り上げる。
縄の先端で縛られていた人の姿が現れた。母さんは最後に端に乗り上げる様に被害者を持ち上げて橋の中に入れた。
縄から手を離して僕らが呼吸を整えていると母さんは腸が煮えくり返る様子で怒鳴る様に「クソ!」と声を荒げ、パトカーに戻って無線でなにやら話し始めた。
母さんが去った間に僕は立ち上がり、死体近くに行くとポケットからスマホを取り出して二人にバレないように撮った後にすぐにしまった。
暗がりであまり分からないだろうがフラッシュをたいてはばれてしまうのでこうするしかなかった。
「龍のマスク?――それに・・・・・・」
写真を撮ってから被害者を注視すると頭部に龍のマスクを被っており、前の事件同様に首から垂れ下がるホワイトボードには【猫より無作為の愛をこめて】と書かれていた。
「しら!離れなさい!」
話し終わったのか母さんが僕の元へやってきて左手を引っ張りながらパトカーの近くへ連れていかれた。
「あれは、前の首吊りと何か関係が――」
「貴方には関係ない事よ、さあ、パトカーに入っていて」
僕の言葉に被さるように強めに母さんは言った。
関係ない――そんな訳あるかよ。
母さんの手を振りほどき僕は不満の声を垂らす。
「この事件は一体何何だよ!教えてくれよ母さん」
震える両手で僕の頬を包みこみながら母さんは
「お願いだから事件の事については聞かないで――貴方には危険な目にあってほしくないの」
神野達から聞いた今だから分かる、母さんは誰よりも僕の事を思ってそう言っているんだと。
「ほら入って――奏!ちょっとしらの事見ててくれる」
「は、はい!」
言われるがままにパトカーの後部座席に座り、母さんは一人、被害者の元へ向かった。
「災難ですね、二回も事件の発見者になるなんて」
助手席に入ってきた奏さんは苦笑いを浮かべながら僕に話しかけてきた。
「貴方の方こそ母さんの運転に付き合わされて心中お察しします――」
家族で極稀に出かける時は何時も父さんが運転していたのを思い浮かべ、命拾いしていたという事実に胸をなでおろしながら言うと
「はい!そうなんですよ!三奈木主任に聞かれたら殺されそうですけど、あの人の化け物みたいな運転は毒でしかないんですよ!あんなの後五回くらい運転されたら私、死んじゃいます!」
凄い気迫でうんうんと頷きながら僕の言葉に同意した。
そんな話をしていると後方から数台のパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
いつの間にか追加で三台のパトカーが路肩に停車し、ぞろぞろと被害者の元へ集まり始めた。
ライトを点灯して被害者を確認しながら母さんと何やら話してから僕の方へライトを向けてから確認し、また話し始めた。
「これって以前の事件と容疑者が連続して行っているんですかね――」
母さんから聞くのは難しいと踏んだ僕は奏さんに犯行について聞くことにした。
「う~~ん、私の見解だとそうですね、ホワイトボードといい、マスクといい、昨日の犯行と場所は違えど犯行は同じですからね~」
奏さんはどうやら他の仕事をしているのか俯きがちに何となくで答えていた。
好機と見た僕はポケットからスマホを取り出して神野のLIMEIDを打ち込んでメッセージを開きながら話を続ける。
「母さんは前の事件で何か気がついたりしてましたか?」
「う~~ん、そうだな~、特には、指紋が一切無かったし、あの建物周辺に監視カメラは設置されていなかったからね~、一番近くの道路付近に設置されていた監視カメラを調べても特に異常はなかったし~」
本当にこの人、べらべらと喋ってくれるな・・・・・・・僕が母さんの子だからだろうけど。
メッセージに写真を添付し、すぐさまこちら側の写真を消去したと同時に母さんが後部座席のドアを開けて、
「しら、事情聴取をしたいそうよ。長くはなるから申し訳ないんだけどいい?」
と言ってきた。
スマホをポケットにしまってから「すぐ行くよ」と言ってから奏さんに向けて。
「ありがとうございました」
と言ってから後部座席から出て男性警官の元へ行き、事情聴取を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます