英語の授業

 響樹は教室に入り、自分の席に座った。 まるで、彼の到着を待っていたかのように始業のチャイムが鳴る。


 ただ、チャイムが鳴ったからといって、着席する生徒など皆無であった。

 教室のドアが勢いよく開く。


「随分前にチャイムは鳴っているわよ! 皆、席について!」担任の小林女史が机を出席簿で叩いた。

 生徒達は一斉に着席する。

「皆さん、おはよう」小林が朝のホームルームを開始する。

「おはようございます!」皆、小林女史が怒った時の恐怖は熟知している為、従順な生徒を演じていた。 そして、皆は小林女史の横に立つ、見慣れない外国人を見て少しざわめく。

「げ!」その中で、一人響樹の顔が引きつっていた。

「今度、当校は語学力の強化に力を入れることになりました。 そこで外国語の先生を本場の方にお願いすることにしました。 それとシンディ先生には、このクラスの副担任もお願いすることになります。・・・・・それではシンディ先生、自己紹介をお願いします」小林女史は、シンディに教壇を譲った。


「皆さん、始めまして。 アメリカから来ましたシンディ・ジョンブリアンです。これから皆さんと一緒に勉強をさせていただきます。 ヨロシクね」シンディは流暢な日本語で挨拶をした。


 その様子は、美しい女神のように慎ましく、あまりの違和感に響樹の口はあんぐりと開いていた。


「それでは、早速一時間目の英語の授業はシンディ先生にお願いします。 皆、しっかり勉強するんだぞ」そう言うと、小林女史は教室から出て行った。


「さあ、授業を始めましょうか」シンディがウインクをしてから教科書を開こうとする。

「先生! 質問タイムは?!」男子生徒は小林女史がいなくなった途端、元気に声を出した。

「質問・・・・・・いいわよ」シンディは微笑みを見せてから、空いている席の椅子を引くと足を組んで座った。開いた教科書を閉じて、机の上に置いた。

 足が組まれる瞬間、男子生徒の視線がシンディの足に釘付けになった。

「好きな食べ物は何ですか?」

「なっとう、お好み焼き、たこ焼き、」

「好きな歌は?」

「えっと、すき焼きソング・・・・・かな。」

「先生の年は?」

「二十二歳です」これは響樹も初めて知った。 七歳上だと改めて思った。

「結婚は?」

「まだシングルよ」おおっと男子生徒達が声をあげる。

「年下の男は好きですか?」

「結構、・・・・・・好きよ」シンディの答えに教室内はどよめく。

「彼氏はいるのですか?」唐突に質問の趣旨が変わった。

「う・・・・・・ん、一応いるかな」なぜだか、シンディは薄笑いで響樹の顔を見た。

「えー!」男子達は残念そうな声を一斉にあげた。

響樹はシンディの目を逸らすように校庭に目をやった。


「そろそろ、授業を始めます。 教科書を開いて」シンディは席から立ち上がると、教壇に戻り授業を開始した。 やはり、本場の英語は素晴らしく、シンディの発音は生徒達を魅了した。


  いつもの、関西弁が嘘のようであった。


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