待ち受け画面

「狭い部屋だ・・・・・・」静香が部屋の中を見回しながら、口元を歪めていた。


「なにを言っているのよ。 どうせ貴方はずっと野宿していたのでしょう? 屋根があるだけマシと思って!」シンディが静香に贅沢ぜいたくを言うなとたしなめた。


「あの・・・・・・なんで、こんなことになっているのでしょうか?」響樹は、現状を整理する為に思考を巡らせた。

 部屋の中で静香とシンディがくつろいでいる。 二人は響樹のベッドの上に腰掛けていた。


「シンディの言うとおり、私はずっと野宿であった・・・・・・昨夜は紅、貴様に響樹の夜伽よとぎを譲ったのだから、今夜は私の番だ」静香の言葉の意味が、響樹には理解出来なかった。

「なんですって、夜伽?!」シンディの顔が険しくなる。

「いや、あれは止む得ない状況だったから・・・・・・、体が一つになってしまったのだから・・・・・」言いながら響樹は昨夜の事を考えていた。道場で見せる勇ましい顔と異なった勇希の寝顔が、今更ながら可愛かったなと思い出していた。


「体が一つって・・・・・・いやらしい!」シンディは怒りをあらわにして立ち上がった。

「ちょ、ちょっと、シンディは何か勘違いしているぞ。 落ち着いて」いかる猛犬をなだめるように呟いた。

「野宿は大変なのだぞ!寒い日もあれば、暑い日もある。 風呂など入れぬから川で体を洗い、飯はコンビ二というところで捨てたものを拝借したりして、惨めなものであった・・・・・・」


「どうして、アルバイトでもしてお金を稼げば・・・・・・・」こんなに綺麗であれば、働き口ならいくらでもあるだろうと響樹は思った。


「愚か者! 侍が女を売る仕事などできるか!」静香は急に大きな声をあげる。 侍のプライドは捨てきれない様子であった。別に、女を売る必要もないのにと響樹は考えた。


「Meは、いい具合に、英語教師の口を見つけたからね。 普通に人間の生活をしているわよ」シンディが少し自慢げに胸を張った。 だったら、帰れと響樹は言いたかった。


「そう言えば、静香・・・・・・少し臭うわよ」シンディが静香の服を摘んで呟いた。

 響樹はその臭いには気がつかなかった。

「そうか・・・・・、たしか一月前に川で水浴びをしたところだが・・・・・・」自分の体をクンクンと嗅いだ。

 響樹とシンディは少し、後ろにたじろぐ。

「・・・・・・久しぶりに風呂に入るか! 響樹、風呂の支度をしてくれ」そう言うと静香は、日本刀を壁に立てかけて服を脱ぎだした。その胸にはさらしを巻いていた。


「お、おい!やめろよ!」響樹は静香の服の裾を引っ張り元の位置に戻した。

「なんだ、脱がしてくれるのか? それとも一緒に入りたいのか?」静香が首を少し傾げながら言う。

「なによ、それならMeも一緒に入るわよ!」シンディも男らしい脱ぎっぷりで、衣服を脱ぎ散らかす。見たことも無いような、白く大きな胸が飛び出す。 彼女は隠しもしないで堂々と裸体を響樹の前に披露した。


「よし、裸の付き合いだ!」静香は嬉しそうに微笑んだ。

「うわー!」響樹は奇声を発しながら部屋を飛び出した。 最近の女子は羞恥心が無いのか、それとも自分がおかしいのか、響樹は困惑した。

「ああ、そうか・・・・・・、アイツら最近の女子ではないのか・・・・・・」響樹は深いため息をついた。

 マンションの表まで飛び出すと、人とぶつかった。響樹は覆いかぶさるようになってしまった。


「すいません・・・・・・あっ!」目を開けると、目の前には勇希の姿があった。

「ちょっと・・・・・・」勇希の顔が真っ赤になっている。

 響樹の手に柔らかい物体の感覚が伝わってくる。 彼はその物体を握りしめた。

「こ、これはもしかして・・・・・・・おっぱ・・・・・・」その手は、勇希の胸の上に置かれている。響樹は彼女の柔らかい胸を鷲掴わしづかみにしていた。


「こ、この変態!」勇希の強烈な膝蹴ひざげりが響樹の股間こかんを襲った。

「いっ!!!」響樹は男にしか解らない痛みにのたうち回った。

 響樹はホッピングでもしているかのように、ピョンピョン跳ねた。


「ゆ、勇希先輩・・・・・・どうしたんですか?」彼の顔は真っ青になり血の気が完全に消えていた。

 勇希はゴホンと咳払いをしながら呟いた。

「貴方・・・・・この状況でよく冷静に話しかけられるわね。 今朝慌てて・・・・・・・貴方の部屋にスマホを忘れたようなの。 確か直美とお母さんに電話した時に、ベッドの脇に置いたと思うのだけど・・・・・・」彼女は、響樹のマンションに入ろうとする。


「それじゃあ、いっしょに・・・・・・あ!」響樹は部屋の中で静香とシンディが服を脱ぎ散らかして騒いでいたことを思い出した。


「・・・・・・どうかしたの?」勇希は首をかしげた。 彼女が目にした響樹のあまりにも不自然なものであった。


「いや、ちょ、ちょっとここで待っていてください。 俺が、俺が取ってきます」両手で、勇希の行く手を制止しながら、響樹はオートロックを解除して部屋に飛び込む。


「おお、おかえり」

「お、お前ら・・・・・・何やっているんだよ!?」彼は室内の惨状をみて悲鳴に近い声をあげた。


 静香とシンディは、風呂の扉を開けたまま浴室で体を洗っていた。

「お前ら! 扉閉めろ! 扉!」響樹は手で目を覆いながら勇希の携帯電話を探した。「な、無い!?」勇希が置いたというベッドの脇、机の上、何処を探しても彼女の携帯電話が見つからない。


「密室で襲われたら、抵抗出来ないだろう」静香が気持ち良さそうの湯船に浸かっている。 部屋の中は、ほのかな湿気に包まれている。


「なにか、探しているの?」紅潮した美しい顔で、シンディが可愛く覗き込む。 水が彼女の金髪を照らし美しい。 響樹が少し目を落とすと・・・・・・・白く大きな胸が目に入った。


「体拭け、それから体を隠せ!」響樹は鼻をつまみながら上を見上げた。

「ぬぬぬ! 負けてはおれぬ! 響樹! シンディばかり見ないで私の体も見ろ!」静香の声につられ目を向ける。静香は一糸乱れぬ姿で仁王立ちしている。


「お、お前らはあほなのか!」響樹は自分の後頭部の辺りをトントン叩く。もう鼻血が噴出す寸前であった。


 インターフォンの音が鳴る。

「は、はい・・・・・・・」響樹がモニターを覗き込むと勇希の顔が写し出された。

「ねえ、携帯電話あった?」勇希が不安そうな顔をしている。


「え、あ、ちょっと待ってください」携帯電話は見つからないが、ひとまず勇希の元に戻ることにした。「お前ら、早く服着ておけよ! ぜ、絶対だぞ!」響樹は念を押してから部屋を飛び出した。


「ゆ、勇希先輩・・・・・・」少し鼻の下を触り血が出ていないことを確認する。

「見つからないかな?」勇希は少し頬を膨らませて悲しそうな顔を見せた。 響樹はこの表情は初めて見た。(か、可愛いい・・・・・・・)響樹はウットリと勇希の顔を見つめた。


「そうだ、響樹君。 貴方の携帯電話を貸して」勇希は思いついたように言った。彼女は胸の前で軽く手を合わせた。

「え、ええ、いいですけど・・・・・・」言いながら、響樹はズボンのポケットからスマホを取り出した。

 静香は響樹のスマホの側面のボタンに触れる、 その画面の待ちうけ画像が現れる。

「あ!」その画像を見て、勇希が驚きの声をあげた。

「え、あ、しまった!」あまりにも慌てていた為、待ちうけ画像のことを響樹は失念していた。


 勇希の顔が真っ赤に染まる。

 スマホの画面には、空手着を纏い凛々しい顔で型をしている勇希の姿がアップで映し出されていた。邪神無く、凛々しく構える彼女の姿が格好良かったので待ち受け画面に設定していたのだ。


「もう、響樹君ったら・・・・・・・恥ずかしい!」勇希は嬉しそうに微笑みながら、響樹の背中を思いっきり叩いた。バチン! と大きな音が響いた。

「痛い!」叩かれた背中を慌てて摩る。

響樹と口づけをしてから、勇希の力も強くなっているようで、以前にも増して強烈であった。


「俺のスマホ、どうするのですか?」

「私のスマホに電話してみるの。 近くに誰かがいたら見つけてくれるかもしれないから」言いながら勇希は、響樹のスマホのボタンを押した。コール音が流れた。

「なるほど・・・・・・あ!」今度は響樹の頬を脂汗が流れた。


「・・・・・・・あ、もしもし・・・・・・あ、あの、それ私のスマホだと思うのですが・・・・・・はい、・・・・・・え、あなた・・・・・・シンディ!?」勇希の顔が段々変化していく。 彼女の顔が響樹に向けられる。

 その顔は、この世のものとは思えない、先ほどまでの可愛い天使はどこに消えたのだろうか、響樹は心の中で呟いた。


 勇希はスマホをしまうと、無言のまま響樹に差し出し、そのまま響樹の襟首を掴みあげる。(あ、殺される)響樹は言葉を発することが出来なかった。

 視線を変えて、インターフォンのボタンを押す。 その勢いは、なんたら神拳のような勢いであった。


「はーい!」スピーカーからシンディの声が聞こえる。

「・・・・・・・開けろ!」勇希のドスの効いた声を合言葉にしてドアが開いた。 響樹は目の前の自動ドアが地獄の扉に見えた。


 無言のまま、勇希は共用廊下を進んでいく、すれ違う男子学生が怪訝そうな顔をして見るが、勇希は強烈な睨みで彼らを追い払った。

(ああ、マンション追い出される・・・・・・)響樹は少し無く出しそうな顔になっている。 響樹のマンションは女人禁制の男子学生用のマンションであった。


 響樹の部屋の前にたどり着くと勇希は、掴んでいた襟首を離して響樹の体をドン!と押した。

「あ、あの勇希・・・・・・先輩」響樹が何か言おうとしたが、勇希は聞く耳持たぬという顔で睨みつけた。

「・・・・・・なんでも、ないです・・・・・・」響樹の体が小さくなる。


 勇希は響樹の部屋のドアを開けて中に入る。

響樹は廊下に残されたままであった。

 中でなにやら騒ぎ声が聞こえたが、五分ほどしてからドアが開き、勇希が部屋の中から出てきた。

「おあた!」勇希の猛烈な上段回し蹴りが繰り出される。響樹の体が宙を舞う。


その目から涙が舞い散る。「ぐへ!」彼は廊下の隅に勢いよく落下した。とうとう、鼻血が噴出した。

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